~身勝手にもほどがある!6~
何が何やら訳が分からないうちに、結人は兵士二人に連行され、地下の牢屋へと半ば突き飛ばされるようにして閉じ込められ鍵を掛けられてしまった。
「ちょっと待ってくれ。せめて理由を」
必死に現状を把握しようと、連行してきた兵士に訴えてみたが、さも結人が存在しないかのようにくるりと向きを変え、去って行ってしまった。牢屋がある通路は、等間隔で壁に備えられた松明のおかげでそこそこ明るかった。
しばらく鉄格子を握りながら呆然としていたのだが、このままこうしていても埒が明かないと思い、どうにか脱出できないかと握った鉄格子をだめもとで思いっきり引っ張ったりゆすったりしてみたが、鉄格子はびくともせず、結人の力でどうこうできるような感じではない。
「この世界に呼ばれてから脱出系イベント多すぎだ」
こんな状況だと言うのに、自己ツッコミを入れられる程度には心に余裕があった。
結人は振り返り、牢屋の中を確認してみた。といっても本当に何もない。普通こういう牢屋のイメージは、藁を編んだ薄い寝床があったり、トイレの代わりとなる壺が置いてあったりしそうなものなのだがそういった物が一切なかった。
「というか、冗談抜きでトイレはどうしろと」
結人は半眼になりながら、この先の牢屋生活を思いやったのだった。
結人が兵士二人に連れ出された後、リアはクシロス教と対峙していた。
「クシロス卿、これはいったいどういうことですか。勇者様を連行するだなんて。いくら公爵という地位のあなたといえど、こんな横暴許されるはずがありませんよ」
憤るリアを尻目にクシロス卿はひょうひょうと答える。
「はてさて、いったい何のことを仰られているのか、皆目検討もつきませんな」
クシロス卿は相変わらず自分のちょび髭を触りながらすっとぼけ、かなり意地の悪い笑みを浮かべながら続ける。
「それに、これは国王様自らのご命令です。いくらあなた様がごねようと、逆らうわけにはいかんでしょう」
リアは一瞬、理解が及ばなかった。クシロス卿はいったい何を言っているのだろう。国王様は勇者の存在を誰より心待ちにしておられたお方。あのお方が勇者を捕らえるように命令を下した? 聡明なあの方のことだ。そんなことはありえないし、あっていいはずがない。
そもそも勇者を召喚したのは聖光教会で、国の半分を聖光教会が支えているようなものなのだ。勇者を身勝手な理由で投獄したなどと知られれば民たちは黙っていないだろうし、今ある均衡が崩れるのは明白だ。
そんなリアの心境を嘲笑うかのように、クシロス卿は丸められた羊皮紙を広げ、わざとらしく咳払いをし、読み上げる。
「こほん。此度の件に関して、勇者の体内から勇者にあるまじき魔力が感じられたというだけではなく、勇者の一部。厳密には、腕が魔物化していたことや魔物にしかないはずのオルクスが感じられたことにより、勇者は穢れた失敗作とし、処刑と処す。また、彼の者を召喚したシネラーリアも同等の罰を与えることとする。なおシネラーリアには、再度違う勇者を召喚する責務があるため、後日、再度勇者召喚後、処罰を与えることとする」
リアは途中から頭が真っ白になり、クシロス卿の声がどこか遠くで響いているかのような、不思議な感覚に襲われて理解が及ばないでいた。
陛下はいったい何をお考えなのか。私と勇者様を処刑にして、代わりの勇者を召喚? こんな横暴を国民や聖光教会の信徒が許すはずがないことくらい分かりきっているのに。
色々な考えが脳裏をよぎる中、クシロス卿から信じられないなら自分の目で確かめてみろ、と言わんばかりに押し付けられた羊皮紙の内容を自分の目で確認する。
だがしかし、先ほどクシロス卿が読み上げた内容と同じことが書かれている上、国王自らのサインまであることを確認してしまった。
クシロス卿は勝った!と言わんばかりに口角を吊り上げ、リアに向かって恭しく手を差し出す。
「それではシネラーリア様。地下牢までご同行願えますかな?聖女様に乱暴は働きたくないもので」
その仕草に悪寒が走った。そもそもリアはこの男が嫌いなのである。
「手を引いていただかずとも自分で歩けます」
リアは訳が分からないまま牢屋までの道を自らの足で進んだのだった。





