Act1~無理ゲーにもほどがある!1~
彼の名前は御縁 結人。今年の三月に大学を卒業予定だ。つまりは後二ヶ月ほどで社会人の仲間入りということだ。
就職先は某有名ゲーム会社に決まっているため、早く働きたくてうずうずしている。
そのゲーム会社を受けに来ていた同志はいっぱいいたし、採用枠二人という狭き門を通過することができたのは、過去に「あなたの描いたシナリオをゲームにしてみませんか?」という内容のチラシに応募し、つい先日、結人が描いたシナリオがゲーム化して、来月発売するに至ったという経緯があるからだと思われる。
なんでも、そのゲームが今日、自宅に送られて来るらしい。
結人はそのゲームを早くプレイしてみたくて、大学が終わると同時に友達との挨拶もそこそこに全速力で家へと帰ってきた。
どきどきとわくわくが入り混じりながらポストを確認する。
ポストの中に少し厚みのある封筒が入っている。結人は、その封筒を手に取るや、さっと宛名を確認し、家の鍵を開け、狭い部屋の隅にあるパソコン机の椅子にダイブした。
あまりに勢いよく座ったので、危うく転倒しそうになったのをどうにか持ちこたえる。
封筒を開封すると、新品のパッケージに覆われたゲームが入っていた。結人は期待に胸を膨らませながらゲームを取り出し、パッケージを眺めた。
異世界物を連想させるパッケージの上には【Another Tale】というこのゲームのタイトルが表記されていて、その左横には結人が就職することになっている会社のロゴが記されている。
自分が描いたシナリオというだけでも相当に嬉しいのだが、この某ゲーム会社で働けるのかと思うと嬉しさも倍増だった。
「あー、早くこの会社で働きたいなー」
とぼやきながらパッケージを開封する。一世代前まではSDカードほどの大きさのチップが主流だったのだが、一昨年発売されたPC接続型のこのゲーム機は、インプットボードと呼ばれる板にシールを貼るだけでゲームが出来る仕様になっている。
このシールが今まででいうところのカセットであり、インプットボードはカセットを挿入する場所と言ったところだ。結人はインプットボードへ丁寧にシールを貼る。
「我ながら上手く貼れた!」
などと自画自賛しつつPCの電源を入れる。
その面に貼っていれば斜めになっていようが逆さになっていようが読み取れるのだが、そこは自分のこだわりみたいなところだ。
画面に「シールからデータをインストールしています」と言うアイコンが表示された後、関連会社の名前が次々と表示されていき、オープニングムービーが演出される。
結人はそれをじっくり堪能した後、時が経つのも忘れてただひたすらに、その世界観にはまっていったのだった。