逃げられない逃走
浜辺に映る月明かりに
釣り人が糸を垂らし
周りよりも明るい家では
パチパチと花火の音
16発の火球が
海側に向けられた筒から
急かされるように飛び出している
自販機の釣り銭出口には
カナブンとカメムシが
縄張り争いをし
フワリと潮の香りが
まだ冷たい風に乗ってくる
ライトが明るい漁船が
エンジン音を残しながら
港を出て行き
見送るかのように
小脇から猫が出て来る
何の心配もせず
自由に待つつもりのようで
毛繕いを始めた
遠くに居る別の猫を見つけると
動きが止まっていた
守る為の行動をしているが
何を守っているのだろう
フナムシの移動を見ながら
砂利道から駐車場へ移動する
カーブミラーが月を見ていて
いつか自分も成れると
勘違いし始めるかのように
鏡面に映る円が美しい
雲の無い月夜は
何もかもを見られている感覚を
無理矢理
与えられているような気がしてくる
車のエンジンをかけて
逃げるように乗り込むと
国道でスピードを上げた
逃げられない逃走だから
成功することはないのだが