お互いのことを想い合っていながら、すれ違ってしまう二人の話
「…っ! イーリナちゃん! 待って!」
必死に呼びかけても、イーリナちゃんは一瞬私の方を向くだけで、すぐに視線をそらしてしまう。
そして、その一瞬で見えた瞳は冷たく濁っていた。
あの日、確かに同じ気持ちを共有できたと思えたのに、今となっては私に焦点を合わせることすらしてくれない。
イーリナちゃんの心を、もう取り落としたくない。
お願い、どうか行かないで。
唯一無二の才能がイーリナちゃんを孤独にした。
その苦しみに気づくことすらできずに一人戦い続けていたイーリナちゃんを救いたかったんだ。
私たちだって戦えるよ、って伝えたかったんだ。
そう願って必死に手を伸ばすけど、イーリナちゃんの後ろ姿はあまりにも遠くて、どうしたって届かない。
そうだよ、私のお腹には風穴が空いていて、どくどくと命が零れていくのを感じていた。
でも、そんなことは今はどうだっていいんだ。
…お願い、お願いだから。
そのときぶわりと強い風が吹いて、イーリナちゃんの綺麗な髪を巻き上げた。
そうして聞こえたのは、酷く陰鬱でどこまでも沈んでいくような、暗い声。
「…そっか、やっぱり私でなきゃ……ダメなんだ」
違う、って言いたかった。
一緒に戦おうって言いたかった。まだまだ私だって戦えるよって手を差し出したかった。
声を出す力なんてもう無い、零れていく血が熱くて熱くて、火傷しそうなくらいに感じる。
必死に魔力制御装置を作動させようとしていたアイ先輩が、イーリナちゃんに気づいて振り返り、その表情を歪ませる。
あぁ、アイ先輩だってもうボロボロだ。
イーリナちゃん、自分はアイ先輩から疎まれてるって思ってたでしょ?
違うんだよ、イーリナちゃんの輝かしいまでの才能に惹かれて、でも近付けないことに絶望して、その折り合いをつけるまでの時間が必要だったんだ。
あまりにも輝かしい光は私たちを闇に沈めてしまう。
でもみんな、イーリナちゃんに憧れていたんだ。大好きだったんだよ、本当は。
だってその証拠にほら、アイ先輩の潤んだ瞳には絶望と憧憬と後悔が揺らめいてる。
イーリナちゃん、遠くへ行かないで。
お願い、また私と一緒に街へ遊びに行こうよ。
こんなの初めてだ、って言って、また笑顔を見せてよ。
もう指先の感覚も感じない。
いま私がどんな表情をしているのか、分からない。
「…だってみんな、弱いんだから。私が守ってあげないと、何もできないんだから」
イーリナちゃんの呟くような声が、最後に聞こえた。