私の侍女は転生者
「リリス、それは何なの?」
「お嬢様、こちらはボールペンでございます。」
「すごいわ、インクをつけなくても文字が書けるなんて!」
「インクは中に入っているのです。なんとなく構造はわかっておりましたが、実際に作るとなると大変苦労いたしました。」
「リリスは本当に便利な世界に住んでいたのね!」
リリスは私のお気に入りの侍女だ。不思議な事を色々知っているし、食べたことのない美味しいお菓子を作ってくれる。
リリスにはこことは違う世界で生きた、前世の記憶というものがあるらしい。
リリスは今日の様に、前世の世界にあった物を色々再現して、それを自分の商会で売ったりしている。
リリスの売り出すものは便利な物ばかりで、商会は大儲けしているみたい。
それなのに、何故かリリスは私の部屋侍女を辞めようとしない。
リリスによると、商会は片手間で、本業は私の侍女なんだって。
リリスの口癖は「私がお嬢様を破滅からお救いします。」だ。
何故だかリリスは私が破滅すると思っているらしい。
「お嬢様、そろそろ準備をいたしましょう。本日のお召し物はこちらのブルーのドレスはどうでしょう?」
「あら、素敵ね。私そんな服持ってたかしら?」
「お嬢様に似合うと思い、私がご用意させていただきました!!」
「リリス、あんなに服があるのにまた作ったの?」
「お許しください、私の趣味でございます。推しに貢がず誰に貢ぐのです?お嬢様をより一層美しく着飾るのが私の使命!」
「リリスの見立てに間違いはないものね、ありがとう。」
「...あぁ、福眼!」
いつもの事だが、着替え終わった私を見るとリリスは私を褒めまくる。
それはもう持ち上げてくれる。
けれど、鏡を見るたびに思うのだ。
「ねぇ、リリス。リリスはいつも私を褒めてくれるけど、本当に私って可愛いのかしら?」
「はい、勿論!!」
「けれど、可愛いと言われている他の御令嬢とちょっと違うと思わない?」
「勿論違いますとも。お嬢様より可愛い娘など存在いたしません。お嬢様はこの世で一番尊いお方!」
リリスは自信満々に力強く答える。すごく嬉しいのだが、やはりリリスの評価は宛にならない気がする...。
「お嬢様、今私を当てにならないと思いましたね?」
何故わかったのかしら。鋭すぎるわ。
「私としては可愛いも間違っておりません。ですが、お嬢様はどちらかというと美人なのです。なので、他の御令嬢と顔立ちが違うと思われるのでしょう。」
「...美人。」
「はい。リリスは決してお嬢様に嘘をついたりいたしません。お嬢様のその切れ長の瞳は世界一美しいのです!!その真っ直ぐ艶やかなサラサラシルバーブロンドのお髪も、凛々しい眉も、何もかもが美しすぎです!!こんな間近で見られるなんて、あぁ、もう、本当最高!!!転生ヒャッホー!」
リリスハイテンション。
「...失礼いたしました。ちょっとばかり
想いがあふれでてしまいました。」
「貴女が私の事を思ってくれてるのが、すごく良くわかった。私も自信を持つわ、ありがとう。さぁ、出掛けましょうか。」
リリスを連れてやってきたのは、婚約者の家で開かれるガーデンパーティーだった。
「さぁさぁ、よく来たね。」
「エリックはどこかしら、婚約者の出迎えもしないだなんて。」
私の後ろからリリスの物凄い殺気を感じる。危険だわ。
「ご招待ありがとうございます。エリック様は私が自分で探してご挨拶いたしますね。」
「あの子ったら照れているのかしら、いつもごめんなさいね。」
「いえ、いいのです。」
エリックが私を出迎えないのはいつもの事だ。私達は家同士の政略結婚。私は仲良くしたかったけれど、エリックは私が嫌いなのだ。
そんなエリックをリリスは毛虫のごとく嫌っていた。私には言わないが、それはもうひどい嫌悪感が駄々漏れている。
リリスの言う破滅とはエリックとの結婚なのかもしれない。
エリックに挨拶をしないわけにはいかないので、会場内をぐるりと回る。
エリックは会場の端でいつものメンツと固まっていた。
エリックと仲の良い上流貴族のご子息方3名と、いつものご令嬢。
私が近づくと、エリックも私に気がついたようだ。嫌そうに顔をしかめる。
後ろのリリスを見ると下を向いていた。私はリリスより背が低いのでその顔が見えてしまったが、前にリリスが描いていた般若という鬼にそっくりな顔をしていた。...恐いわ。
「エリック様、ごきげんよう。」
「...何しに来た。」
「...婚約者の家からご招待いただきましたので、参りました。」
すると、エリックは勝ち誇った顔で大声を出した。
「丁度良い。本日を持って、お前との婚約は破棄する!」
「どういう事です?」
リリスの前でそんな事を言うなんて、反応が恐ろしすぎる...。
「お前の様な卑劣な女はもうウンザリだ!」
「卑劣? 私、貴方に何かいたしまして?」
「俺ではない、このマリアにだ!」
マリアというのは、いつもエリック達と一緒にいるご令嬢の名前です。エリックは守るようにマリアの前に立ち、私を睨み付けます。
「私、マリア様とはまともにお話したこともございませんが。」
事実、エリックと違い、私とマリアにはほぼ接点がない。
「しらばっくれるな! お前が陰で何をしていたか、全てマリアに聞いているのだ!」
「...私、何をしたのですか?」
「そうだな、直近だと3日前にマリアを池に突き飛ばしたそうじゃないか!」
「私はそんな事しておりません。」
「お前の言い訳など聞きたくないわ!」
ここですかさずリリスが割って入ってきた。
「失礼ながら、お嬢様は5日前から3日前まで学園には行っておりません。風邪で寝込んでおりましたので、屋敷から一歩も出ておりませんので、お嬢様に犯行は不可能でございます。」
「ふん、そんなものどうとでも口裏を合わせられるではないか! 先週だってマリアの制服にわざとお茶をかけたそうじゃないか!」
「私はその様な事はしておりません。勘違いではございませんか?」
「なんだその態度は! 全く反省する気がないのだな! 本当に嫌な女だ。」
「失礼ながら、それは先週のいつ頃でございますか?」
エリックはマリアを振り返り、いつ頃だったかな?と聞いている。
「週明けの放課後に...」
「放課後! それはおかしいですね。お嬢様は授業が終わりましたら、学園に残ることはございません。あなた方と違ってお忙しいのです。特に先週は我が商会のモデルをしていただき、時間がなくてなくて大変でした。ですが、さすがお嬢様! 何を着てもお美しい。そう、明後日には新しいポスターが出来上がるのです! あぁ、楽しみ!!」
「...こいつは何を言っているのだ?」
本当よ、リリス。何を言っているの。
「失礼いたしました。ですが、お嬢様にはそこの、ご令嬢と係わる時間等ございません。こちらにお嬢様の行動全てを分刻みでメモした手帳がございます。御覧になりますか?」
...分刻み!?
なにそのメモ!やだ、そんなもの見せないでよ!恥ずかしいじゃないの。
そこへ、騒ぎを聞き付けたエリックの両親がやって来た。
「エリック、何だこの騒ぎは?」
「父上、母上、丁度良かった。私は本日を持ってこの女との婚約を破棄します!」
エリックの父は青ざめ、母は倒れそうになっていた。
「エリック! お前なんて事を言うんだ!!」
「こんな陰険卑劣な根暗女はうんざりなんだよ! 俺はこのマリアと婚約する!」
まぁ、なんて言われ様でしょう。
さすがにここまで言われてしまっては、関係の修復は不可能でしょう。
「わかりました。婚約破棄を受け入れましょう。父には私から伝えます。ご心配なさらないで。私から破棄したと申しますので。」
「そうか、素直に受け入れるのだな。だが、なぜお前から破棄した等と言うのだ! ふざけるな!!」
エリックの母が倒れた。
「無実のお嬢様を罵って、寛大なご処置をいただいたのに、尚この暴言!許せんっ!!」
「リリス、落ち着いて!」
「愚息が申し訳ございません!!」
エリックの父は青ざめて平謝り。
「父上、何をなさっているのです!」
「お前こそ、何をしたのかわかっているのか!」
「はい、真実の愛を掴み取りました!」
エリックの父は、エリックに強烈な張り手を食らわせた。
「こちらから頼み込んでやっと婚約していただけたのに! このバカ息子め!!」
「お嬢様、帰りましょう。」
リリスに促され、私は帰ることにした。
「そうね。それでは、エリック様、皆さまごきげんよう。」
その後、エリックは勘当され家を追い出され、マリアにも振られたとかなんだとか。
リリスは今日も私を着飾らせ、褒めちぎる。
「あぁ、素敵! お嬢様、必ず私が破滅からお救いいたしますわ!!」
私の破滅ってなんなの?
とりあえず、リリスがいれば安心なのかな。
「...本っ当、福眼!」
リリスが転生したのはマリアが主人公の乙女ゲームの世界で、お嬢様は悪役令嬢。
リリスは前世からお嬢様推し。
お嬢様にが悪役令嬢にならないように、陰で色々やってました。
お嬢様の近くにいれて、すごく幸せ。
百合じゃないよ。
リリスが福眼って言ってますが、本当は眼福なんですよね。なんですけど、リリスはネット用語で福眼だと思ってて、しゃべってるのです。(ただ、よくよく調べるとネット用語でもなかったみたいですね。私がネット用語と勘違いしてたんですけど。)でも、この子はちょっとアホっぽいので、このままです。私もリリスも勘違いです。