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魔法青年は部室に集う  作者: 八科
1章 唯一にして最大の弱点
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5話 全ては偶然に過ぎない

下校をする蓮也の気持ちは、相変わらず重かった。

話せば楽になる、なんて言葉をよく聞くが…逆に気持ちは落ち込んだ。どうにかしてこの気持ちを晴らしたい。そう思い蓮也はいつもとは別の道へと歩みをすすめた。大通りだ。かなりの人で賑わっている。いつも通る道とはうるささが違うなあと、蓮也はため息をついた。


そんな喧騒の中、誰かの叫び声がかき消された。その叫び声を聞けたのは、蓮也だけだった。


「助けて、誰か!!」


その声は裏路地から発せられていた。蓮也の首はすぐ、裏路地へと向いた。息が詰まる思いだった。急に進む方向を変えた蓮也に、人々は迷惑そうな顔をしている。そんなことは気にせずに、人をかき分けかき分け、蓮也は走った。裏路地は、とにかく暗かった。間に合え、と蓮也は心の中で思いながら走った。しかし…


遅かった。


そこには生きた人間はおらず、頭を握りつぶされた死体が仰向けに転がり、オレンジ色の光の粉が舞い、地面が赤く染まっていた。顔は判別できないが、服装は、蓮也と同じ高校の制服だった。


死体には何故か、両頬には不自然なくぼみが2つできている。鞄を首の下に置き、死体を起こして見ると、後ろにも8つ窪みができていた。魔法で潰されたなら、こんな窪みはできず、もっと綺麗に潰れているはずだ。こんな力任せにやったような感じではなく…


蓮也はふと気づき、頬の窪みの両方に、親指を合わせた。そこから死体の頭を覆うように手を動かすと、全ての窪みが指の位置と一致した。

おそらく魔法青年に正面から襲われ、顔を潰され、そのまま地面にたたきつけられたのだろう。


人間の頭を素手でかち割るなど正気の沙汰には思えないが、魔法青年の力があれば容易だ。しかしわざわざ素手を使ったとなると、攻撃的な魔法を持っているわけではなさそうだ。


しかし正面から、というのが気になる。魔法青年を見つけたのなら、その時点で通報なり叫ぶなり逃げるなり、何らかの行動が取られるはずだ。使われた魔法として考えられるのは、行動停止魔法…消音魔法…それとも…。


その時偶然足音が鳴り、ただの空間がゆらりと動くのが見えた。[透明化魔法]、すぐさま蓮也の頭にその単語が過った。


蓮也はすぐさま鞄に入っていたリボルバーを手にし、その何かの…おそらく心臓であろう部分に、


1発。そして命中。


ビンゴだ。魔法が解け、魔法青年が現れた。銃声は、喧騒がかき消した。魔法青年は「違う、悪いのは、こいつ…!」と、何故かそれだけ言って倒れた。蓮也は何も言わない。


「…」


街の喧騒が、微かにその場に音を与えていた。

その後、蓮也は悪いと思いながらも死体の学生証を見た。2年生だった。

蓮也は魔法青年を殺したことを機関に報告し、1人の犠牲者が出てしまったことも、同時に報告した。


きっと、蓮也の口座には金が振り込まれるだろう。しかしそんなことはどうでもよかった。犠牲者が出てしまったことが、一番の問題だった。

昨日の死体が、蓮也の脳内でフラッシュバックした。


「…駄目だ。こんな浮ついた気分じゃ」


蓮也は立ち上がった。ようやく、悩みが晴れたという顔だ。やはり魔法青年は、早急に殺さなければならない。そのためには、計画が必要だ。


歩きながら、蓮也は灯の性質を整理した。


まず、光魔法を使う。


次に、怪我の言い訳が下手。あんなピンポイントに脚だけを怪我しているのに「階段から落ちた」は無い。 怪我の経験がない程に隠れて過ごしていたか、強すぎて怪我をする機会が無いかのどちらかだ。


最後に、普段は普通に人間の振りをしている。少なくとも、周りの人間にバレている雰囲気はなかった。粗はあれど、人間の振りは上手い方だと見える。


蓮也はまず、暗殺に使う場所を、学校に定めた。学校なら灯を呼び出しやすい。しかも旧校舎にはほぼ人がいないため、現場を見られるリスクも低くなる。

そして、時間。もちろん日中は無理だ。少なくとも放課後でなければならない。最後に、道具。光に目が眩まないようにする必要がある。そこまで考え、蓮也はふと余計なことを思い出した。

このままでは、折角出来た自分の居場所を壊す羽目になるのでは?と。


…ああ、そうか。


「暗殺者は友人をあまり作るべきではない」という先人の教えは、こういう事を予期しての言葉だったのかもしれない。気がつくと、家の前まで来ていた。部屋の鍵を開け座り込むと、人目がなくなったせいか、暴れ狂いたいという衝動に駆られた。

蓮也は叫び、頭を掻きむしった。やけくそになり、持っていた拳銃に弾丸を入れた。正面戦闘になった時のために、煙玉まで金庫から出し、拳銃と共に学校のカバンに突っ込んだ。ウエストポーチもそのまま突っ込んだ。もうヤケだ。全て終わってから考えよう。


蓮也は風呂をシャワーだけで済まし、髪を乾かしすぐに寝た。睡眠不足は命取りだ。

翌日、蓮也は昼休みから登校した。もちろん、図書室には行っていない。ただ、灯には話がある。予鈴が鳴った後で、蓮也は灯の教室へ足を運んだ。


「お、蓮也じゃないか!会いたかったぞ。いやあ、よかったよかった。今日は図書室に来なかったから心配してたんだ。」


「僕も会いたかったです。すみません、行けなくて…。今日は少し体調を崩してしまっていたんです。」


「そうか、それは大変だったな…。まあ、とにかく元気そうでなにより、なにより。」


こうやって蓮也を気遣うセリフも、嘘なのだろうか。

それとも、本心からそう言っているのだろうか。

蓮也には明確な判別がつかなかったが、なんとなく後者な気がしてしまう。貼り付けた蓮也の笑顔が、少し歪んだ。


「ところで、どうしてここにいるんだ?もう少しで授業、始まるぞ」


蓮也はごくりと唾を呑んだ。


「…実は灯さんに話がありまして。」


それを聞いた灯は首を傾げた。


「今から?それはちょっと厳しいと思うぞ」


話が自然にこの流れになったのは好都合だ。どう呼び出すか考えていたが、これならだいぶ自然に呼び出せそうだ。


「あはは、すみません。そうですよね。」


蓮也はひと呼吸置いて、言った。


「なので、今日の放課後…図書室で話しませんか。」



………。



「あー、すまん。放課後は用事があるんだ…。終わってからだと5時位になるが…それでも大丈夫か?」


「全然大丈夫です。」


「それなら良かった!なるべく早く用事を終わらせて、すぐ向かうからな。」


断られる文脈だと思ったが、大丈夫だったようだ。むしろ都合がいい。蓮也は内心ほっとしていた。


「こちらこそです。それでは、僕は教室に戻りますね…。お時間取らせてしまってすみません。」


「ああ、また放課後にな!」


灯はいつもの様子で手を振っている。蓮也はその様子を見ることなく、振り返らずに自分の教室…ではなく、職員室へと向かった。図書室の鍵を取りに行くためだ。図書室の鍵を受け取りおわった後は、そのまま旧校舎へと向かった。確実に暗殺を成功させるためだ。


図書室に着くと、蓮也はまず、鞄の中からウエストポーチを出した。これを付けているとさすがに怪しまれるため、必要な物のみ中身を出してポケットに入れた。鞄は丸机の上に置いておいた。そしてウエストポーチは、暗殺に必要な色々なものを入れ床に置いた。


図書室には相変わらず、ファンタジーのような空間が広がっている。蓮也にとって居心地がよく、思い出もある場所だ。

もし、魔法青年()を銃弾一発で仕留められなかった場合、この部屋をかなり荒らすことになってしまう。それを避けるためにも、なんとか成功させなければ。


武器のチェックは念入りに、煙玉は右手に握ったままに。メガネはいつもと違う、遮光生のある物に変えた。万が一の脱出ルート確保のため、窓の鍵も、後ろのドアの鍵も開けておいた。そして予め、旧校舎は念入りに調べあげた。どこに何があるのか、ここに向かうにはどうすればいいのか。


大丈夫、これでいける。


蓮也はそう確信し、大きく深呼吸をした。しばらくすると灯が図書室の扉を叩き、入ってきた。時計は4時55分を示していた。


「すまん、もう少し早く行けると思ったんだが…」


「いえ、来てくれて嬉しいです。」


蓮也は椅子に座り、隣の椅子を手のひらで指した。灯は1度頷き、その椅子に座った。蓮也の椅子の下には、ウエストポーチが置いてある。とりあえず第1段階はクリアだ。


「で、話ってなんだ?」


「その…」


灯は蓮也を覗き込んでいる。蓮也はやりにくさを感じつつ、灯の方を見つめた。事前に用意しておいた相談事は、急に呼び出す要件としてはだいぶ薄いような気がしたが、蓮也はそのまま話を切り出した。


「灯さんと悟さんは、いつからここに通っていたんですか?」


灯は、いつだっけな…と小さく言葉を漏らし、上を見ている。しばらくすると、ああ、と呟き、そのまま話し出した。


「私は、まだ1年だった頃の…ちょうどこの位の時期だ。悟は去年の4月だな。悟が入学してきた時に、私がこの場所を教えたからな。」


「成程…灯さんがこの場所を見つけてたんですね。」


「そうだぞ。懐かしいな、何だか。最初は1人で使っていたんだが…1人増えて、1人増えて…凄く嬉しかったんだぞ。」


今、灯の目線は上に向いている。机の下は、完全に死角だ。蓮也はその間に、音を立てずに拳銃を取りだした。拳銃は、すぐに撃てるようにしておいてある。


「ああ。でも、どうやって見つけたかは忘れたな。なんだっけか…。」


灯はまた上を見ながら、うーん…と考えている。今がチャンスだ。蓮也は机の下で、銃を構えた。灯の心臓の位置へ、標準を合わせた。


5.4.3.2.1…


「ああ、そうだ。確か…」


その先は、銃声でかき消された。

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