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魔法青年は部室に集う  作者: 八科
1章 唯一にして最大の弱点
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偽5話 生麺と乾麺は大違い

エイプリルフールです。

起こって欲しくないと思っている出来事というのは、そう思えば思うほどそれを引き寄せてしまうもののようで。翌朝重い気持ちで登校した蓮也は、ラーメン屋でばったり、今1番会いたくない人に会ってしまった。


「蓮也!下駄箱で会うのは初めてだな。」


「」


蓮也はなにか喋ろうとしたが、喉からヒュッ、みたいな音が鳴っただけで、声にならなかった。昨日の一連の出来事が無ければ、とてもうれしい出来事だったはずなのに。

現実とは非情である。しかも灯は蓮也より身長が低いため、蓮也が灯と会話する際には、視界を下に向けざるを得ない。ダメだ、左脚が見えてしまう。

蓮也はとにかく灯の左脚を見ないように、視線をひたすら上に向けた。その様子を見た灯は、首を傾げてメニュー表をひらひらとさせている。


「メニューは天井には書いてないぞ?」


蓮也は怪しまれたか?と心配になり、ちょっと灯の顔に目線をやった。灯は上目遣いで蓮也の方を見ていた。…すごく可愛いが、昨日の出来事のせいで、蓮也はそう思う気にはなれない。


「今日はちょっと上を見たい気分で…」


と苦しい言い訳をした。


「なるほど、前向きでいいと思うぞ。」


それを聞いた灯は、曇りの一切ない笑顔で答えた。

蓮也はなんだか気まずくなり、灯の顔を見るつもりでうっかり下を見てしまった。


灯の足には包帯はなかったが、代わりに何故かかそうめん!!!!!と書かれていた。昨日の魔法青年に、銃弾を当てた場所だ。全くもって意味がわからないと、蓮也は酷く混乱した。


「そ、そうめん…?」


何も言うつもりは無かったのに、蓮也の口は自然に動いた。慌てて、口を塞いだ。灯は蓮也のそんな様子を見て、にっ、と笑った。


「ん?これか?大した事ないぞ。それともうどんの方が好きだったのか?」


灯は文字を気に止める素振りすらしない。しかもそれを、「大した事ない」等と言って笑っている。状況が全く理解出来ず、蓮也はさらに青ざめ、おそらく人生で一番程の速さで靴を替えた。言う言葉が見つからなかったが、なんとか


「うどんより、蕎麦の方が…」


と、言葉を絞り出した。


「ああ、私も蕎麦は好きだ。だが、ここはラーメン屋だからな。ラーメンを食べるといい。」


灯はにっと笑い、蓮也にメニューを差し出す。ここは味噌ラーメンが有名なようで、メニュー表には味噌ラーメン系統のものが多く書かれていた。蓮也が1番安いラーメンを注文すると灯はニコリと笑ってその場から立ち上がった。


「それじゃあ私は食べ終わったから帰るぞ。またな蓮也。学校でな!」


灯は大きく手を振り、ラーメン屋から去っていった。

その後、教室に着いた蓮也はさっき頼んだラーメンの名前を見て青ざめた。ラーメンには「学生は20%off!」と書かれていた。言うのを忘れていた。普段ならこんなの絶対に見逃さないのに、焦りすぎだ。はあ、とため息をつき、またメニュー表をながめた。灯はもう居ない。


「あ、蓮也くん」


代わりに悟がラーメン屋に入ってきた。その瞬間、蓮也に昨日のことが思い浮かんだ。灯の足にそうめんと書かれていた今、何としても悟にそうめんの話をしなければならなかった。依頼も受けているし、蓮也には学費を払うための金も必要だった。


つまり、灯は足にそうめんと書かれているのにラーメンを食べていたことになる。おそらく悟にとっては、辛いだろう。突然それを知るよりは、予告しておいた方がいい。

友人の足にそうめんと書かれていたらどうする?という程度には聞こうと思っていたが、それじゃだめだ。さっきもう見てしまった。


「あの、悟さん。」


「どうしたの?」


「どうしても、話しておかなければならない事がありまして。ちょっとここで待ってていただいてもいいですか?」


「分かった。いいよ、待ってるね。」


悟はひらひらと左手を振り、自分の席へと向かって行った。それを見送った蓮也は、箸を取り、ラーメンを啜った。

そういえば…秘伝の味噌ラーメンデラックスは蓮也が転校してきてから1度も味わっていない。絶対に美味しいだろうな、と蓮也は何となく考えていた。



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