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美紀ちゃんとツバメ

ポカポカと暖かい春の日…。

小学3年生の美紀ちゃんの家の軒下に、ツバメが巣を作りました。

美紀ちゃんは、大喜び。

しばらくして、4羽のヒナがかえります。

美紀ちゃんは、学校から帰って来ると、真っ直ぐ庭へ向かい、ツバメの巣を見る事が日課になりました。


ヒナ達は、“ジャー、ジャー、ジャー”と鳴いて、エサを欲しがります。

ツバメのお父さんとお母さんは、忙しく飛び回りヒナに餌を与えていました。


ある日、学校から帰った美紀ちゃんの耳に、“ツピー、ツピー、ツピー”と聞きなれない鳴き声が聞こえてきました。

美紀ちゃんは、庭へ急ぎます。


庭に居たのはカラス。

カラスは、巣から落ちた一羽のヒナを狙っています。

そのカラスの周りを母ツバメが飛び回り、“ツピー、ツピー、ツピー”と鳴きながらヒナに近寄らせない様、頑張っていました。

父ツバメは、近くに居ないようです。


美紀ちゃんは、ランドセルから、ものさしを抜き取りカラスに立ち向かいます。


「しっしっ! あっち行け!!」


ものさしをブンブンと振り回す美紀ちゃん。

恐れをなしたカラスは、ヒナを諦め飛び去りました。


ピピュピュチュ…。


母ツバメが、心配そうにヒナに寄り添います。


「ちょっと待っててね。」


ヒナが無事なのを確認した美紀ちゃんは物置へ行き、ハシゴを持ってきました。

美紀ちゃんは、ハシゴを壁に立てかけ、右手にヒナを乗せます。


「すぐお家に帰してあげるね。」


美紀ちゃんはハシゴに登ると、ヒナを巣へ戻そうと頑張ります。


「うーん…、もう少し…。」


思いっきり右手を伸ばし、何とかヒナを巣に戻す事が出来ました。

その時…。


グラッ…。


「きゃっ!」


美紀ちゃんを乗せたハシゴが、傾き倒れます。


ドサッ…。


倒れた先に庭石があり、美紀ちゃんは頭を強く打ってしまいました。

美紀ちゃんの頭から血が流れます。

母ツバメが、心配そうに美紀ちゃんに近付きました。


ピピュピュチュ…。


母ツバメが声をかけても、美紀ちゃんは動きません。

母ツバメは、家の塀を飛び越えると、道行く人に助けを求めます。


ピピピュピュチュチュ…。


しかしツバメの言葉は、人間に届きません。

通行人は、うるさそうに手を振って去って行きました。


しばらくして美紀ちゃんのもとへ戻って来た母ツバメは、頭からヘアピンを抜いて口に咥えます。

花の飾りがついた可愛いヘアピン。

母ツバメは、空を見上げると飛び立ちました。


母ツバメが向った先は、美紀ちゃんのママが働く郊外のビル。

以前、働いているママを見かけたことが有ったのです。

ママなら美紀ちゃんの危機を分かってくれると思ったのです。


母ツバメは、必死に羽ばたきます。

時おり苦しそうな顔を見せるのは、カラスに傷を負わされているから…。

それでも母ツバメは、力を振り絞りママの所へ急ぎます。


ママが働くビルまでもう少し…。

ビルの2階、窓側の席で、仕事をしているママの姿が見えました。

母ツバメは、真っ直ぐママへ向って、飛んでいきます。


バンッ!


突然、ビルの一室に大きな音が響きました。


「きゃっ!」


驚いたママが、音のした方を見ると、窓に黒い染みが付いています。

それは、母ツバメが、ぶつかった跡…。

母ツバメは、戦いの疲れと傷の痛みから、目が霞んでいたのです。

霞んだ目には、ビルのガラスが見えなかったのです。


ママは、窓を開け辺りを見回します。

眼下の道路にツバメが一羽横たわっていました。


(ぶつかったのかな?)


と、ママが窓を閉めようとした時、窓枠に花の飾りが付いたヘアピンを見つけました。


「これって…、美紀の…?」


不思議に思ったママは、家に電話してみましたが、誰も出ません。


(この時間、美紀は家に居るはずなのに…。)


不安になったママは、急いで家へ帰ります…。


ママは、庭で倒れている美紀ちゃんを見つけ、救急車を呼びました。

美紀ちゃんは、発見が早かった事もあり大事には至りませんでしたが、頭を強くぶつけていたので、検査の為、しばらく入院することになりました…。


1週間後、美紀ちゃんが家に戻ってきました。

美紀ちゃんは、車から降りると真っ直ぐ庭へ向かいます。

軒下を見上げるとツバメの巣は空っぽでした。


「ねえママ…。

みんな無事に巣立ったのかな?」


「えぇ、3日前だったかしら…。

みんな無事、巣立って行ったわよ。」


「えーっ、私もお別れしたかったなー…。」


美紀ちゃんが、残念そうな顔で庭から立ち去ろうとすると、突然、空が暗くなりヒラヒラと何かが降ってきました。


「えっ! なにっ!?」


驚いた美紀ちゃんが、空を見上げると沢山のツバメが、空を覆っていました。

ツバメ達は、口にピンク色の花を咥えていて、美紀ちゃんの上に降らせます。


「わあー! 凄い!

お花のシャワーだ!!」


美紀ちゃんは、大喜びです。


「美紀ちゃん、これはかすみ草よ…。

花言葉は『感謝』なの。

きっと、美紀ちゃんが助けたツバメさんが、お礼に来てくれたのよ…。」


舞い落ちる花の中、美紀ちゃんは両手を広げ大きな声で叫びます。


「ツバメさーん!

来年も美紀のお家に来てねー!!」


ツバメ達は、美紀ちゃんの家をクルリと一周すると山の方へ、飛び去っていきました。


ママは、かすみ草を拾い集めると庭の片隅へ…。

そこに小さなお墓がありました。

ママは、かすみ草をお供えすると…、


「ありがとう…。 ツバメさん…。」


と、手を合わせお祈りします。

そこには、美紀ちゃんを助けてくれた、母ツバメが眠っているのでした……。

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