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明日香と桜

明日香はシャワーを済ませると素早く体をバスタオルで拭う。



まさかいきなり脱衣所に桜が入って来たりしないとは思うが、念の為すぐに服を着ることにする。


まずブラジャーの中身がシリコンパットとバレないように、ぴっちりとした白のTシャツを着て中身をガードする。

これでウッカリ見えたりシリコンパッドがポロリなんてことも無い。



下は少しゆったりめのグレーのスエットにしておいた。

ゆったりにしたのは、まぁ言わずても分かろう、、。



洗面台にある鏡に自分の姿が映る。

一応、変では無いか確認しておく。

こう見ると自分で言うのも何だが、くびれたウェスト、バランスの良い大きさの胸、長い脚、、、完璧ではないか!



明日香は女装した自分を見て毎回溜息をつく。

何故、自分は男に生まれてしまったのかと、、。


皆が羨ましがる容姿、、でもこれは偽りの姿なのだ。

想いが自身の肉体と相容れない、、矛盾した自分。

それが分かっていて、自分は抗うように日常的に女装をし続ける。



”自分の好きな”自分を演じるた為に。

”自分の好きな”人生を歩む為に。



頭を振って自分の意識を”現実”に戻す。

髪の毛をちゃんと乾かし、、緩くサイドに纏めてヘアゴムで留める。

洗濯が丁度終わったので、洗濯物を洗濯機から取り出す。


そして折り畳みの室内用物干しを取り出し、組み立てると洗濯物をテキパキと干していく。

最後は洗濯物用のサーキュレーターをかけて完了。



リビングに戻ると二人掛けのソファーに桜が座って自分のスマホをいじっていた。

明日香はヤバイ、、と感じた。

これはアドレス交換のフラグ、、。



取り合えず上手く躱せないか明日香は試みる。

「充電したいなら好きにコンセント使ってくれていいからね」

先ずは桜の手元からスマホを離す作戦だ。



だがあっさり失敗する。

桜は明日香を見ると、

「おかえりなさい~」

「充電は大丈夫だよ~、モバイルバッテリーあるし」

「それに今日はあんまりバッテリーも減ってないんだ~」



ガッカリしたが、そんな素振りは見せずにウォーターサーバーに近づく明日香。

「そう、、」


紙コップに水を注いでいると背中に桜の視線を感じる。



桜は感心したように明日香の全身を見ると、

「神宮司さんって本当にスタイルいいよねぇ~」

「それに今日は全然違った恰好してたけど、、似合ってたし」

「何か凄く恰好良かったよ~」



明日香は一人掛けのソファーに座り、大学に居る時の様に対応した。

「そう? ありがとう」

「新見さんも、中々の物だと思うけど」

「胸も大きいしスタイルも良いし、それに可愛いし」

「男子にモテるでしょ?」



苦笑する桜。

「ううん、、神宮司さん程じゃないよ~」


コロっと様子を変えて、桜は首を傾げた。

「ところで、今日は何であんなところに居たの?」

「何だか凄くレトロなゲームセンターだったけど、、」



「うっ」と明日香はなりそうになったが、堪えて顔には出さなかった。

ここで変に誤魔化すのは後々余計に事態を悪くしそうなので、ある程度伏せて真実を話すことにした。

「私、レトロゲームが好きでね」

「よくあそこに息抜きで遊びに行くのよ」



凄く意外そうな顔をする桜。

そして内心でぼやく明日香。

『どうせお嬢様がするような趣味とか遊びをしてると思っていたんだろうな、、』



桜はポツリと呟いた。

「アマネンって呼ばれてたねぇ」


ドキっと心臓が大きく脈動したように明日香は感じた。

焦ったのが顔に出たかもしれない、、。

「うん、、、そうだね、、」


楽しそうな笑顔を桜は浮かべた。

「あだ名? ニックネームっていうのかな?」

「何だか可愛いね、、」

「でも意外~」



明日香は焦る自分を抑え込んで冷静さを装う。

「ゲーマーネームっていうのかな、、」

雨音(あまね)って名乗ってるから、それでアマネンとか他にも色々略されて呼ばれたりね、、」



そして『しまった』と思う明日香。

普通なら大したことではないが、、私は生憎普通では無かった、、。

”雨音”の名前を出したのは色々不味かったやもしれない、、。

雪崩式に私の秘密が漏れてしまうかもしれないのだ。



この思いが杞憂であって欲しいと切に明日香は願った。

すると桜は眠たそうに欠伸をした。

「なんだか眠くなってきちゃった」



コロコロ展開と表情が変わる娘だなと思う。

更に明日香は話がそれた事を安堵する。

「寝る前に歯磨きしておいで~」

「私はまだやる事が有るから、先に寝ててね」


「は~い」

と言ってソファーから立ち上がり桜は洗面台がある脱衣所に向かって行った。



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