療養の1日(1)
朝起きて随分体が軽くなった明日香。
と言うか、これが本来の健常な感覚なのだろう。
疲労から風邪を引いてしまい昨日は常に体が重く怠かった。
まだ若いので回復が早かったが、今後は注意するに越した事は無い。
何せ心配する娘が3人も居るのだから。
今日は蓮香に大人しくするように強く言われた。
なので外出も控えて、明日香は室内でジッとしている事にする。
そして家事は全て雅が中心に卒なくこなしてくれるので、明日香はする事がなかった。
正確に言えばする事は有る。
動画編集や、動画の撮影、大学の課題などだ。
しかしどれも疲れるので蓮香に禁止されてしまう。
暇そうにリビングでゴロゴロしていると、蓮香が気を使ったのかある提案をしてくれた。
「前に言っていたオイルマッサージをさせて貰えませんか?」
「きっと気にいると思いますよ」
特にする事も無いので明日香は二つ返事で答える。
「約束していたしね」
「お願いしちゃおうかな」
すると蓮香は嬉しそうにリビングを離れつつ明日香に告げた。
「では必要な物を取って来ますので、この間マッサージに使用したベッドで待っていてもらえますか?」
「うん、分かった」
笑顔で送り出す明日香。
そしてふと思う。
『オイルマッサージって、、、裸になるんだよね』
『うわ〜ん、その気が無くても絶対反応しちゃうよ』
と今更ながら気付き慌てる。
掃除をしていた桜がそんな明日香を見て、
「私は明日香さんにオイルマッサージして貰いたいなぁ〜」
「性的な意味で?」
とニヤニヤしながら言った。
「桜は黙ってなさい!」
少し怒った様子を演出して明日香は桜に突っ込みを入れる。
そんな二人のやり取りを見ていて雅がビクッとなり、食器を洗っていた手が止まってしまう。
それに気付いた明日香は逆に驚いてしまった。
『え、、、ひょっとして本当に怒ってると思われたのかな?!』
「雅、、、私は別に怒ってないよ」
「何て言うのかな関西人の突っ込みのような物だから」
と明日香は愛想笑いしながら咄嗟にフォローを入れる。
雅はぎこちない笑顔を浮かべると、
「ごめんなさい、、、」
「私、自分でなくても他人が叱責されていたりすると、、、」
そう言って途中で淀んでしまう。
桜は「不味った」と言いだしそうな顔で明日香を見た。
『そんな顔で見られても、、、』
明日香は内心でぼやくが、雅を放置する訳にもいかない。
直ぐに雅の傍まで行き背後から抱きしめてあげた。
「ごめんね、、、雅はこう言うのが苦手なんだね?」
「次からは気を付けるから、機嫌直してね」
明日香は雅に優しく謝ると、雅は俯いて話し出す。
「昔、父に叱責される事が多かったんです」
「期待に応えられない私が悪いのは当然なのですが、叱責されないように頑張れば頑張るほど上手く行かなくて、、、」
雅はそう言うと振り向き明日香へ正面から抱きついた。
そして弱弱しく続ける。
「だんだんそれがトラウマになってしまって、」
「他人が大声をあげたり、激しく怒ったりするのを見ると自分に対してで無いのに身体が萎縮してしまうんです、、、」
雅が自分を強く我儘に見せていたのは、それも関係しているように明日香は思えた。
だが明日香は違和感も感じる。
『まてよ、、、』
『今の雅の父親は大声をあげて怒鳴りつけるタイプには見えないよね、、、』
『どちらかと言うと我儘娘に手を焼いている、甘くて優しい父親って感じと言うか、、、』
すると桜も同じ違和感を感じたのだろう、デリケートな話なのに率直に雅へ尋ねた。
「昔って事は、今はお父さんに怒鳴られたりしないんだね?」
明日香が躊躇う事を桜は平気でするのだ。
こう言った所が、他人の懐に入り易く他人に好かれ易い桜の秘訣なのかもしれない。
雅はまるで母親に甘える子供のように明日香に抱きついたまま答えた。
「私が父に反発してグレたものですから、」
「それで下手に出て甘くなったんだと思います」
少し驚きつつ苦笑いをする桜。
「そ、そうなんだ、、、」
「雅ちゃん、グレちゃったんだね、、、」
明日香も驚いた。
今のこの雅を見ると、とてもそんな風に見えないからだ。
そうこうしていると蓮香が、バスタオル数枚や大きめの鞄を抱えて戻って来た。
オイルマッサージに必要な道具なのだろう、かなり本格的に思える。
明日香はこの時閃き、ニッコリ微笑んで雅にそれを伝える。
「雅もオイルマッサージして貰ったらどうかな?」
「蓮香はマッサージが上手でプロ級だから、きっと気が晴れると思うよ」
すると雅は予想外の返答をした。
「それでしたら、明日香お姉様にして貰いたいです」
「えっ?!」
と固まってしまい、明日香は返事に窮してしまった。




