明日香の秘密(2)
桜がシャワーを済ませてバスルームから出ると、洗面台の前にある椅子に着替えが置いていた。
白のショーツに黒のキャミソール、そして黒のワンピースだ。
憧れている相手の服を借りると言うのは、初めての体験だが中々に嬉し恥ずかしい。
しかも下着も借りてしまうのだから尚更だ。
バスタオルで手早く身体を拭く桜。
ショーツとキャミソールを身に着けて髪の毛を軽く乾かす。
それからワンピースを着て半乾きの髪の毛をタオルで包んだ。
桜は脱衣所から出てリビングに向かってみる。
すると明日香が広いリビングにある高級そうなソファーに座っていた。
明日香は何やらタブレットをいじって書き物をしていたようだ。
大学の課題か何かかな?
桜に気付いた明日香は笑顔を向けた。
「お帰り、、」
そしてタブレットの画面を閉じると、明日香は桜に何か手渡して来た。
桜は不思議そうに手渡された物を見つめる。
粉薬のようだ。
「薬?」
ウォーターサーバーで紙コップに水を注ぐ明日香。
「それ風邪の引き始めに効く漢方薬だから、」
「念のために飲んでおいて」
水の入った紙コップを手渡され、桜の顔が綻ぶ。
日頃の明日香は人当たりが良くて機転も効く。
そして"一般的範囲"で万人に優しい。
個人に対して特に優しいという訳では無いのだ。
だから今、桜だけを心配して優しくしてくれた事がとても嬉しかった。
貰った漢方薬を言われた通りに直ぐに飲む桜。
苦くはないが、美味しい訳ではない。
明日香は桜のその様子を見て小さく笑う。
桜が不味そうに薬を飲むのが可笑しかったようだ。
今夜の明日香は大学で見る様子と全然違う。
いつもは凛としてクールで綺麗で格好良い。
でも今はキャミソールにショートパンツと肌の露出が多いせいか、扇情的な上に何だか可愛い。
だから小さく笑う明日香の姿がいつになく魅力的だ。
いわゆるギャップ萌えというモノなのだろう。
明日香が再びソファーに腰掛けると、
「適当にくつろいでね」
「お水と紙コップは、そこのウォーターサーバーのを好きに使っていいから」
頷き明日香の左前にある1人掛けのソファーに桜は座った。
いきなり明日香の横に座ったりしたらビックリされるだろうし、嫌がられそうなので自粛。
明日香が思い出したように尋ねてきた。
「そう言えば、、自宅はどこ?」
「服を洗って乾燥用のサーキュレーター使うと結構かかるよ」
「帰る時間遅くなっちゃうけど、、」
桜は不思議そうに、
「サーキュレーター?」
明日香は苦笑しながら説明しだした。
「サマーセーターを乾燥機にかけたら縮んじゃうでしょ」
「だから洗濯物用の扇風機みたいなのを使うの」
「それだと1時間以上乾かすのにかかるからね」
テーブルに置いてあるデジタル時計がPM9時10分を記していた。
もろもろ含めての時刻を考えると、女子が一人で出歩くような時間では無くなってしまう。
桜は困った様子で明日香を見つめた。
「結構遠いかな、、、」
「タクシー使っても30分くらいかかるかも」
溜息をつく明日香。
そして桜に微笑むと、
「じゃあ、時間も遅いから泊まっていくといいよ」
パァーッと明るくなる桜の表情。
「ほんとに?!」
「ありがとう! 神宮司さん、、」
すると明日香は来客用の歯ブラシや洗顔料、化粧水などを何処からか持って来るとテーブルに置いた。
「これ使ってくれたらいいから」
「あと、お腹が空きそうなら何か作っておくけど」
大仰に両手を胸の前で振る桜。
「ううん、大丈夫!」
「飲み会で結構食べちゃったから」
クスッと小さく笑った明日香は、桜を連れてリビングから直ぐそばの寝室に案内する。
「寝る時は私のベット使っていいから、、」
桜は少し驚いた。
「え?! 神宮司さんはどうするの?」
明日香は優しく微笑むと、
「私の事は気にしないで」
少し怒った様子で、桜は明日香の腕にしがみ付いた。
「駄目だよ、、ソファーとかで寝ちゃうつもりだったんでしょ?」
「こんなに大っきなベットなんだから、一緒に寝よっ?」
そう、明日香が日頃使っているベットはクイーンサイズだった。
2人で寝転んでも十分余裕がある。
少したじろいだ明日香。
思ったより桜の押しが強いからだ。
一般的にこの状況は家主を差し置くので申し訳なくなる。
だが家主がキッパリ言えば従うものだ。
桜は従わない、、。
どうやら自身を無下にしてまで桜は気を遣われたくないタイプらしい。
困った顔で逡巡する明日香。
そして溜息をつくと諦めたように桜の頭に手を置いた。
「分かったわ、、」
「取り敢えず私はやる事が有るから、眠くなったら気にせずベッドを使いなさい」
納得したのか桜は、明日香から離れると笑顔を見せた。
「うん」
「じゃあ洗濯仕込んで、私もお風呂行ってくるよ」
と言い明日香は脱衣所に向かう。
明日香は洗濯機に自分の服や下着、桜の服をネットに入れて放り込む。
そして水道水が流れ込む洗濯機の中を見つめたまま、深刻な顔をした。
『新見さんと、、一緒のベッドに寝る、、、』
『不味い、、、ヤバイ、、』
「どうしよう、、バレちゃうかも」
と1人呟く。
脱衣所で全裸になったスレンダーな明日香には、有る筈の物が無かった。
そう、それは"Dカップ"はある明日香の胸だ。
170cm近くある身長に、バランスの良い大きさの美しい"Dカップ"のバストが、、無い、。
その代わりに、下には男の子の"アレ"が付いていた。
静かに洗濯機の蓋を閉める。
続けてブラジャーに居れていたシリコンパットを着替えに包んで隠す。
そうして明日香は現実逃避するようにバスルームへ足早に向かった。