明日香の秘密(1)
明日香の目の前に、居るはずも無い女子が立っていた。
新見桜、、、明日香と同じ大学に通う1回生だ。
友達と言う訳ではないが、雑談をしたりする程度には顔見知りだ。
更に言えば最近明日香へやけに接近してくる人物である。
プライベートを知られたくない為、注意しようと考えていた。
その彼女が、何故ここに居る?
こんな古ぼけたゲームセンターに、リア充な新見桜が、、。
訳が分からず、明日香にしては珍しく固まってしまう。
「へくちっ」
と小さいクシャミを桜がした。
店内はゲーム筐体で温度が上がる為、割とガンガンに空調を効かせていた。
雨でずぶ濡れになった身体では、直ぐに風邪をひいてしまうだろう。
見かねた古川氏がゲームの手を止めて立ち上がった。
「店長からタオル借りてきてやろう」
我に返った明日香は、少しタドタドしく、
「う、うん、、お願い、、」
古川氏が場を離れて明日香と桜の二人きりになってしまう。
暫くの沈黙の後、桜がおずおずと話し出した。
「神宮司さんだよね?」
「随分雰囲気が違って別人かと思ったけど、、合ってたね!」
明日香はぎこちない笑顔を桜に向ける。
「うん、、、」
「ところで、どうしてこんな所にいるの?」
いつもの笑顔で桜は明日香を見つめる。
「え~とね、、この近所でサークルの飲み会があったんだぁ」
「私、未成年なのに連れてこられちゃって、、」
そして嬉しそうに笑う。
「でも料理はどれも美味しかったよ~!」
内心焦りながら冷静を装う明日香。
「そうなんだ、、、」
「でも何故一人なの?」
困った様子の桜は、、笑顔から苦笑に変わる。
「う~~ん、、、誰にもいわないでね、、」
「あんまり楽しく無くって、こそっと抜けてきちゃった」
明日香も釣られて苦笑する。
「フフ、、、そっか、、」
「じゃあ帰り道に雨に降られたんだね」
全身びしょびしょで見るも無残な状態の桜。
本当に風邪を引いちゃいそうで心配になってしまう。
「バスタオル有ったから借りてきたぞ~」
と言いながら古川氏が戻って来た。
桜は古川氏からバスタオルを受け取ると笑顔を向けた。
「ありがとうございます」
そして髪の毛や首筋、脚などを拭いだす。
「アマネンの知り合いなんだろ?」
「面倒見てやれよ」
と言って古川氏は隣のフロアーに行ってしまった。
明日香は溜息をついた。
『こんな状態でほっとけないか、、、』
愛想笑いを桜に向けた明日香は、
「家が割と近くだから来る?」
「そのままだと風邪ひいちゃうよ?」
少しキョトンとして固まる桜。
それから理解できたのか顔がほころぶ。
「え?! いいの?」
諦めた様子で明日香は頷いた。
「うん、、置き傘置いてるから直ぐ行こう」
「ここだと雨は凌げても身体冷やしちゃうからね」
大きめの傘なので二人で相合傘をすれば、問題なく雨は凌げた。
そして雨の量は多いが、風が無いのでそんなに足下も濡れずに済んだ2人。
15分程で明日香が住むマンションに到着する。
そのマンションは10階建ての新築で広いエントランスがあり、エントランスから先はオートロックの自動ドアだ。
それを見て桜が驚きの視線を明日香に向けた。
「わぁ~、、多分こんな所に住んでるんだろうなぁ~って思ってたら、、」
「その通りだった!」
内心でぼやく明日香。
『どうせ金持ちのお嬢様っぽい感じに見られてるんだろうけど、、』
『それも何だか嫌だな、、、』
そしてロックを解除して先へ進み、エレベーターで10階まで向かう2人。
高級マンションの最上階に住んでいる事を知って、桜はさらに興奮しだす。
「神宮司さんって、やっぱりどこかの財閥のお嬢様??」
部屋の前に着いて玄関の鍵を開ける明日香。
「これくらいの所に住んでる人は、みんなお嬢様なの?」
と逆に聞き返して苦笑する。
玄関の扉を開けて先に桜を中に入れる。
そうして桜の靴を脱がせると、明日香は足早にバスルームへと案内した。
「取り合えずシャワーで温まって」
「下着と服の替えは、用意して脱衣所に置いておくから」
「あ~それと、濡れた服は全部、脱衣所にある籠に入れておいて」
「洗濯するから」
とテキパキと説明して明日香はさっさと脱衣所から出て行ってしまう。
少し呆気にとられた桜だったが、暫くして嬉しそうな顔を浮かべる。
「私、大学で、、神宮司さんの自宅に来た人間第一号なんじゃ!」
小さく「へくちっ」とクシャミをする。
慌てて服を脱ぎ指定された籠に入れると、全裸になった桜は急いでバスルームに入って行った。