問題児のお迎え
明日香は雅を預かる事にした。
明日香を誘拐し監禁した相手を、再教育もとい躾し直す為にだ。
桜はと言うと、特に気にした様子も無い。
まるでこの展開を読んでいたかのようだ。
一方、蓮香は渋々了承した様子だ。
雅と喧嘩にならなければ良いのだが、、、。
そして明日香は崇城巌といつでも直接連絡が取れるように、電話番号をお互いに交換しておいた。
これで雅に関して何か困った事があれば、父親の崇城巌を頼る事が出来る。
「娘さんはいつから預かればよいのです?」
と明日香は崇城巌に尋ねた。
崇城はもう用は済んだとばかりに玄関に向かおうとしていたが、
「あ、あぁ、そうだった」
「実は交渉相手だった山岸さんが娘を連れてきていてね」
「いま下に居るはずだ」
そう言って再び玄関へ向かってしまう。
『うわ、、、この人、元から娘を私に押し付けるつもりだったのか、、、』
と明日香は内心でぼやいた。
そうして玄関のドアを開ける崇城巌。
「山岸さんにお願いして、ここへ娘を来させよう」
「済まないが後はお願いする」
そしてそのまま出て行ってしまった。
”雅の面倒を見る”、その言質を与えたのが後の祭りだったようだ。
明日香は余りの展開の速さに呆然としてしまう。
そして気が抜けてしまい床に座り込んでしまった。
慌てて蓮香が明日香に駆け寄り、その額に掌で触れる。
「お姉様、、、また熱が上がって来ています」
「崇城親子なんか放っておいてベッドで休んでおくべきでした、、、」
少し目眩がして目を開けていられない明日香は、傍に居た蓮香にしがみ付いく。
「問題は絶対に先送りにするべきでは無いの、、、」
「これは私の性分だから、、、ごめんね、、、」
明日香はそう蓮香に告げて俯いた。
桜も心配そうに傍に来る。
「明日香さん、大丈夫?」
「ベッド行こうか?」
明日香は首を横に振った。
「雅が来るでしょ」
「取り合えず、ここで待つわ、、、」
「肩を貸して蓮香、、、」
蓮香は溜息をつくと、諦めた様子で明日香の片腕を自分の肩に回す。
そして「よいしょっ」と呟いて明日香を担ぎ立ち上がらせた。
何だか蓮香がそんな掛け声を出すなんて意外で可愛いな、、、とこんな時に明日香は思ってしまう。
そのまま明日香はソファーに座らされた。
桜はと言うと玄関で雅を迎えるために待機しているようだ。
それから2分程経過したくらいでドアホンが鳴った。
直ぐに蓮香がリビングの壁に設置してあるドアホンの親機で確認する。
「山岸さんが雅さんを連れて来られました」
その声は嫌悪感を薄っすらと帯びている様だった。
明日香は頷くと辛そうに蓮香に言う。
「中に入れてあげて、、、」
熱だけではなく頭痛も酷くなってきたのだ。
『このタイミングであの雅と一緒に過ごすのはハードルが高いな、、、』
そう明日香は自嘲する。
暫くすると桜が雅を連れてリビングまでやって来た。
いつの間に来たのだろう、、、。
明日香は自分の意識が熱で少し危ういのを自覚しだした。
『早くベッドで横になりたい、、、』
雅は明日香の傍までやって来ると頭を下げた。
「昨夜は申し訳ありませんでした」
「どんな償いでも致しますので、何でも言って下さい、、、」
心配そうに状況を見守る蓮香と桜。
深呼吸をして明日香は雅を見やった。
「貴女のお父様からも直接の謝罪をしてもらいました」
「もう過ぎた事ですし、昨夜の事は水に流しましょう」
「でも本当の問題はこれからよ、、、」
不安そうな表情で雅は明日香を見つめた。
そして意を決したように話し出す。
「お父様から掻い摘んで先程話を伺いました」
「私に償う機会と、明日香様にご奉仕させていただく機会を頂けると、、、」
『『明日香様?!』』
そう内心で桜と蓮香は同じように驚いた。
明日香は困った様子で答える。
「様付けはどうにかならないかしら、、、」
「流石に公衆でそんな呼ばれ方したら、私が凹んでしまうわ、、、」
オロオロと戸惑った様子の雅。
「え? では、、、どうお呼びしたら?」
「ご主人様? 主さま? マスター?」
明日香は熱と頭痛で辛いのに、更に頭を抱える事態に巻き込まれた気分だ。
『この娘は色々極端だ、、、』
『少し中二病でも患ってるのかしら、、、』
明日香がそう思い困っていると桜が呟いた。
「蓮香ちゃんみたいに、お姉様でいいんじゃない?」
ムッとする蓮香。
それに気付いた明日香はフォローを入れようと、傍に居た蓮香に触れようとした。
が、目眩がして前屈みに倒れかける。
「あ!、お姉様!?」
「明日香さん!!」
蓮香と桜が直ぐに明日香を抱きとめようと動く。
しかし一番早く反応して明日香を抱き留めたのは雅であった。
「危なかった、、、」
本当に危ない状況だった。
そのまま倒れていれば、明日香は顔から床に強打するところだったのだから。
蓮香と桜はそんな結果を想像して、寒気が体中を巡った。
雅は今、出会って早々に明日香の様子がおかしいことに気付いていた。
体調が凄く悪そうだと。
そして確信した。
明日香を抱き留めて密着しているせいで、明日香が発熱している事が分かったからだ。
「武野内さん、、、新見さん、、、」
「明日香お姉様を運ぶのを手伝って貰えませんか?」
そう雅は2人を見て言い放った。
蓮香は少し顔をしかめて言う。
「蓮香と呼んでください」
桜はニッコリ笑みを浮かべて言った。
「私は桜でいいよ~」
頷く雅。
蓮香は明日香に駆け寄ると、
『はぁ、、、お姉様扱いは私独占だったのに、、、』
そう内心でぼやくのであった。




