事態の収拾は、新たな始まり
土下座する崇城巌の頭を、明日香はその足で踏みつけた。
「ぬぐぅ、、、」
そう崇城巌の声が洩れる。
足に体重をかけて踏みつけた訳では無いので痛くはない筈だ。
だが精神的には痛かったかもしれない。
明日香としては苛立って意地悪をしたい訳では無い。
崇城巌の意思がどれだけ固く本気なのか試したかったのだ。
「こんな事をされても、崇城さんは土下座したままなのですか?」
そう冷たく明日香は崇城に告げる。
するとキッチンからこちらを観察していた桜がおずおずと声を発した。
「あのぅ~、、、明日香さん、、、」
どうしたのかと思い、明日香は崇城を足蹴にしたまま桜を見つめた。
「うん?」
「どうしたの桜?」
人差し指で、ちょいちょいと土下座している崇城巌を指す桜。
「その人、、、多分、喜んでるよ、、、」
「「え?」」
と明日香と蓮香は目が点になってしまう。
明日香は崇城巌を踏みつけたまま上半身を横に逸らし、その表情を確認する。
そうすると崇城巌の横顔は恍惚とした表情を浮かべていた。
「うわっ、、、」
と思わず声を上げて明日香は崇城から足を離した。
桜は特に驚く事なく言う。
「雅ちゃんのお父さんは変態さんだったんだね~」
明日香は頭を抱えた。
事が更に悪化したように思えたからだ。
そんな明日香に崇城が四つん這いになった状態で、その足に触れようと近づいてきた。
「え!?」
と気持ち悪くて焦ってしまう明日香。
すかさず蓮香が明日香の前に立ち、崇城を足で蹴飛ばした。
「無礼ですよ! この変態め!」
蓮香に蹴飛ばされた崇城は四つん這いのまま横転する。
「うぐ!」
そして身を起こすと我に返ったのか表情が真っ青になった。
「わ、私としたことが、、、」
『な~にが私とした事がだ、、、』
『まさか親子そろって変態だったとは、、、』
そう思い明日香は蓮香を窺った。
蓮香も明日香と同じ思いだったのか呆れた顔をしている。
明日香は何とか落とし所が無いか思考した。
この父親の方はスイッチが入ればドMになってしまうのだろう、、、。
しかし通常時は至極真っ当な人間の様に思える。
何せ第一党の幹事長をしている程なのだから、話が通じる相手だ。
問題は娘の雅の方だ。
放っておけばまたトラブルを引き起こすに違いない。
しかもそれが明日香の周辺で起こり、明日香にも影響が出る及ぶのは目に見えていた。
父親では管理しきれないのなら、自分を守る意味でも雅を預かるしか方法は無いのかもしれない。
明日香は諦めたように項垂れると崇城へ言った。
「分かりました、娘さんを預かりましょう、、、」
それに驚いたのは蓮香であった。
「えええ?!!」
「正気ですか? お姉様!?」
明日香は蓮香を落ち着かせるように優しく抱き寄せる。
「多分、これが一番安全な選択肢だよ、、、」
「蓮香と桜には色々迷惑かけるかもしれないけど、、、」
「雅の面倒を私に見させて欲しいの」
そう明日香に言われてしまっては蓮香としても反論する余地が無かった。
「お姉様はズルいです」
「お願いされれば断れないのはお分かりでしょうに、、、」
少しぐずり始めた蓮香をあやすように、明日香は抱きしめたままその背中を優しく撫でた。
一方、桜はと言うと、この事態は予測できたかのような表情を浮かべている。
相変わらず何とも底の見えない奴だな、、、と明日香はほくそ笑んだ。
崇城巌は乱れた服を直しながら立ち上がった。
そして真剣な目で明日香を見つめ問いかける。
「神宮司さん、、、本当によいのだね?」
頷く明日香。
「仕方ないでしょう、、、」
「雅は私が出来るだけ躾てみましょう」
「ですが父親である貴方にも、色々お願いする事が出てくると思います」
崇城は満面の笑みを浮かべて今にも泣きそうである。
そうして明日香の手を取り、しっかりと握手を交わす。
「勿論だとも!!」
「何でも言ってくれ! 金で解決する事なら何でも可能だぞ!」
「人員が必要なら問題無く揃えても見せよう」
明日香は苦笑するしかなかった。
きっとこの父親も娘の扱いに困り果てていたのだろう。
今までの苦労を想像すると若干肩を持ちたい気持ちになってしまう。
それにしても”将来的”にはどう考えているのだろうか、、、。
まさか私に預けっぱなしと言うのも困る。
「崇城さん、、、将来的にはどう考えているのです?」
「躾が出来ればお返しするのが道理という物かと思いますけど、、、」
そう明日香は崇城に訊いた。
すると崇城は滅茶苦茶な事を言い出した。
「その頃には雅は貴女にゾッコンかと思うがね、、、」
「まあ今でもなのだが、、、」
「そのまま貰ってやってくれまいか?」
それを聞いて再び蓮香が取り乱した。
「ななな!!!??」
「何て馬鹿な事を言うのですか?!」
「お姉様に雅の面倒を一生見ろいうのですか?!」
桜も驚いたように声を上げた。
「わお!」
明日香は崇城を訝しむ様に見つめた。
「私には桜も蓮香も居ます」
「二人とも私の家族となる女性です」
「こんな環境下に娘さんも含めろと?」
そして自身の胸に片手を置く。
「それに私は娘さんの事を好きでも何でもないのですよ」
「仕方なく預かるだけなんですよ」
崇城は真剣な表情で頷く。
「分かっている」
「だが人は考えも心も変わっていく生き物だ」
「この先どうなるか分からないだろう」
「だから、、、」
「その時になって改めて話し合うと言うのはどうかね?」
「はぁ~、、、」と再び深い溜息を明日香はもらした。
明日香は崇城を見据えると、
「分かりました、取りあえずはここが落とし所ですね」
「ですが私からの協力要請は断らせませんから」
そう強めに言い放つ。
「何度も言うが、勿論だ!」
と崇城巌は笑顔で答えた。
明日香が蓮香の様子を窺うと、不安そうで納得のいかない表情をしていた。
『お姉様は他人に甘過ぎます』
そんな蓮香の声が聞こえてきそうだった。




