明日香と崇城巌(2)
明日香の元へ崇城巌がやって来た。
ワガママ娘、崇城雅の父親であり、第一党の幹事長をしている代議士でもある大物だ。
だからといって怯む理由は無いし、何も譲歩する気も無い明日香。
出会って早々キツイ嫌味でも言ってやって、逆に怯ませてやろうと思ったくらいだ。
しかしそんな展開にはならなかった。
蓮香に案内されて明日香のマンションに上がり込んだ崇城巌は、リビングで明日香を目にすると会釈した。
「神宮司 明日香さんですね?」
「初めまして、私は雅の父親の崇城巌です」
崇城巌は明日香を改めて見つめる。
「これは、、、」
「成程、、、雅が惚れ込む訳だ、、、」
そうして慌てて頭を下げた。
「いや申し訳ない、初対面の相手に分躾を、、、失礼しました」
崇城巌は明日香の様相に驚いた。
話には聞いていたが、これほどの麗人だとは直に見るまで思わなかったからだ。
そして娘の雅が持っていない物を全て持っている、、、そう崇城は感じた。
明日香としては何とも拍子抜けだ。
『取り合えず話を始めるために、お互いに席に着かなくては、、、』
そう思い崇城へソファーに座るように促した。
明日香が一人掛けのソファーに腰を下ろすと、対話しやすいよう正面のソファーに崇城が腰を掛けた。
すぐさま桜が明日香と崇城に淹れたてのコーヒーを出す。
そして桜はそのままキッチンの方に引っ込んでしまった。
蓮香はと言うと、まるで秘書のように明日香の座る背後に控えるように立つ。
『何だか2人で崇城巌を威圧してるようで嫌だな、、、』
そう思いつつも明日香は蓮香の好きなようにさせる事にする。
崇城巌がコーヒーカップを手に取り一口すする。
そうして静かに受け皿へカップを戻すと溜息をついた。
「今回の事は本当に申し訳なく思っている、、、」
「武野内氏の介入がなければ、もっと大事になっていただろう」
明日香は首を傾げた。
「どう言う意味ですか?」
崇城は明日香を真っ直ぐに見つめると説明を始めた。
「あれは、純真な故に真っ直ぐで自身の欲に忠実なのだ」
「失礼な言い様かもしれないが、貴女はうちの娘が今まで出会った中で最も逸脱した存在だ」
「きっと本当に惚れ込んだのだと思う、、、」
「そうなれば娘は手段を選ばないだろう」
「どれだけ時間をかけても、どんな手段を講じても貴女を手に入れようとした筈だ」
想像して明日香の背筋に悪寒が走った。
蓮香と桜がいなければ、ひょっとしたら監禁程度では済まなかったかもしれない。
そんな事を思っていると蓮香が抑揚のない声で言い放った。
「ここまで来ておいて、謝罪の言葉はないのですか?」
明日香が背後の蓮香を一瞥すると、その表情は氷のように冷めきっていた。
蓮香は怒っている。
煮え切らない明日香に代わって蓮香が怒ってくれているのだ。
慌てたように崇城巌は深く頭を下げた。
「すまない、、、本当に申し訳なく思っている」
「娘に代わって私に出来る事なら何でもしよう」
明日香は何だか申し訳なくなる。
出来の悪い娘の為に、その親が深く頭を下げているのだ。
いくら代議士の大先生であっても、娘の不始末の前では形無しである。
「顔を上げて下さい、、、」
「直接の謝罪、確かに頂きました」
「ですが、もう一つの私からのお願いが残っています」
そう明日香は崇城巌に告げた。
崇城は顔を上げると、それが分かっているのか困った表情を浮かべる。
「、、、、、」
そして逡巡して直ぐに思い直すように明日香を見つめた。
「先程、娘と顔を合わせた、、、」
「随分と反省しているようだったが、、、根本的な所は何も解決していないようだった、、、」
「その要求を実現するのは難しいかもしれん」
「え?」
と明日香は訊き返してしまった。
『何を言っているんだ、このオッサン、、、』
蓮香も同じ思いだったようで躊躇わずに言い放っていた。
「何を言っているんですか!」
「明日香お姉様の要求は、今後我々の周囲で崇城雅が迷惑をかけない事です」
「どこが難しいんですか!」
すると突然、崇城巌はソファーから立ち上がる。
そして横に移動して床に屈み込んで土下座をしてしまった。
唖然となる明日香と蓮香。
「娘は貴女に奉仕して罪を償うと言っている」
「もしこれを拒否して娘を強引に貴女から離せば、何を仕出かすか想像もつかん!!」
「もう私ではお手上げなのだ、、、」
崇城巌は床に額を擦り付けて、訴える様に告げた。
「なななな、、、!?」
と蓮香は怒りで取り乱しかける。
明日香は元より嫌な予感がしていた。
あの雅が簡単に引き下がるようには見えなかったからだ。
深く溜息をつく明日香。
「では、私にどうしろと?」
崇城巌は土下座したまま言った。
「娘を貴女に預けたい、、、」
「あれは貴女に完全に惚れ込んでいる」
「何でも言う事を聞く筈だ、、、いや現に本人はそう断言している」
「だから頼む、あれを真っ当な人間に再教育してやって欲しい!」
怒りの為か前のめりになって、今にも崇城に掴みかかりそうな蓮香。
その蓮香を明日香は片手で優しく触れて制すると、
「随分都合の良い話ですね、、、」
「自分ではどうにも出来ないからと言って、被害者である私に丸投げするとは、、、」
辛辣な声を演出して崇城へ告げた。
明日香は静かにソファーから立ち上がると、土下座する崇城巌の前に歩み出た。
「先程、出来る事ならなんでもすると言いましたよね?」
崇城は叫ぶように答えた。
「そうだ!」
「何でもしよう!」
するとそれを聞いた明日香は、その足で土下座する崇城巌の頭を踏みつけた。
「!!!!?」




