"最"強者の邂逅
明日香はゲーム筐体に50円を投入した。
そして思い出したようにパーカーの内ポケットから財布を取り出す。
誤魔化すように笑みを古川氏に向ける明日香。
「カード認証忘れてた、、」
この対戦格ゲーは、カードに自身の対戦成績を記録しておく事が出来るのだ。
勿論プレイヤーネームも登録出来て、それが対戦時に表示される。
明日香は財布から魔人戦線3の認証カードを取り出して、筐体に付いているカードリーダーに置く。
スタートボタンを押してカード認証開始。
すると明日香のプレイヤーネームが表示された。
プレイヤーネーム【雨音】
所属【ゲームセンター・スーパースター】
称号段位【覇者】
対戦回数【15368回】
勝利数【12587回】
敗北数【2781回】
引き分け数【0回】
勝率【82%】
去年の末にリリースされたこの魔人戦線3。
すでに対戦回数が1万5千を超えていて、しかも勝率が8割。
はっきり言って明日香は格闘ゲーマーとしては規格外の化け物であった。
その上、称号が最上位の【覇者】である。
この覇者は、全国で3人しか居ない。
つまり頂点3人の内に明日香が存在するのだ。
そしてプレイヤーネームが"雨音"で登録されており、このスーパースターでもそう名乗っていた。
故に神宮司や、明日香ではなく"雨音"とスーパースターの常連に呼ばれて、、、いなかった、。
常連は皆各々に適当に呼ぶ。
古川氏のようにアマネンだったり、他にはアメヤンだったり、、。
当の明日香は特に気にしておらず、好きに呼ばせているようだった。
取り敢えず明日香は、スーパースターからのリベンジマッチを要求する。
暫くすると古川氏を負かしたプレイヤーがマッチングして来た。
相手側のプレイヤーデーターを確認すると、
プレイヤーネーム【ヒカリ】
所属【ゲームセンター・ももひき】
称号段位【名人・魔人】
対戦回数【7152回】
勝利数【6472回】
敗北数【680回】
引き分け数【0回】
勝率【90%】
明日香はプレイヤーデーターを見て驚く。
勝率9割、、。
9割維持していると【魔人】という称号が追加される。
対戦回数は明日香の半分程で、段位称号も全体の真ん中辺りだ。
しかし古川氏を負かす実力はデーターを見れば有ると判断出来た。
それにしても初見の相手だよね、、?と、思い返す明日香。
明日香自身かなりの対戦回数なので、この"ヒカリ"というプレイヤーとは当たっていそうだが、記憶に無い。
恐らくプレイする時間帯が今まで噛み合わなかったのだろう。
キャラクターセレクト画面で明日香はいつも使用しているキャラクターを選んだ。
それは超能力とレイピアで戦う女性キャラクターで、サイキックピアッサーと言う。
攻守のバランスが取れていて、サイキックで操り飛ばす飛び道具、レイピアでの突進技、無敵対空技など技も揃っている。
だだオールラウンダーである為、器用貧乏感が半端なく一般的には弱い部類のキャラクターであった。
しかし明日香が使うとその真骨頂が発揮され、最強キャラに変貌する。
対して【ヒカリ】が使用するキャラクターは、刀と闘気を使って戦うフォースブレイダーだ。
学生服を着た若いイケメンキャラである。
フォースブレイダーは対戦ダイヤグラムでも上の方に位置し、苦手なキャラは居るものの一般的に強キャラ認定されている。
技の方は闘気を飛ばす烈風斬、空中からの強襲技の疾風斬、当て身技、投げ技など、無敵対空は無いが攻守にバランスが取れている。
そして全体的に攻撃の振りが遅く、威力が高めだ。
故に逆転率が高いキャラとも言えた。
両者ともキャラ選択が終わり対戦が開始される。
最大3ラウンド、2本先取で勝利が確定し、1ラウンドは99秒設定だ。
開幕1ラウンドは様子を見る明日香。
だが、驚く程のヒカリの猛攻で明日香はいきなり1本先取されてしまう。
「どわっ!」
と、明日香は変な叫び声を上げる。
続けて嫌そうな顔をして呟いた。
「これはしんどいわ、、」
「古ちゃんが負けるの分かるよ、、」
嬉しそうにニヤつく古川氏。
「だろ?」
しかしそれでスイッチが入ったのか、今度は明日香の猛攻がヒカリを追い詰める。
そうしてあっさり1本、2本と取り返し1試合目を勝利してしまった。
古川氏は感心して明日香を見つめた。
「やっぱりアマネンはつえ〜な!」
「さすが、"2"の世界大会優勝者だな」
明日香は照れた様子で笑むと冗談ぽく、
「それ程ですぅ〜」
と頭に手をやる仕草をした。
嫌そうな顔の古川氏。
「うぜぇ〜のも流石だな、、」
「ほら、同じ奴がマッチングして来たぞ!」
再び【所属、ももひき】の【プレイヤー・ヒカリ】が オンライン対戦で乱入して来た。
そしてそのままトータル10回、【ヒカリ】と連戦する事となった。
最終対戦成績は、9ー1で明日香が最後に負けて終了となってしまう。
最後に勝ち逃げとは、、と内心悔しかったが、相手は9割負けたのだ。
悔しさは明日香の比では無かっただろう。
明日香は対戦を思い返して相手に感心する。
結果的に明日香が9割勝ち越しだが、正直ギリギリの判断ポイントで読み勝っているだけなのだ。
経験を積めば互角にやり合える相手かもしれない。
そうして明日香は不敵な笑みを浮かべて筐体の席から立ち上がる。
「将来有望だよ」
「無名の最強候補さん!」
その時、古川氏に横腹を突かれた。
「何、格好つけてんだよ、、」
「メシ食いに行こや、、約束通り奢れよ」
「ぶおっ」
と横腹を突かれて変な声を出す明日香。
そして悶絶しながら、
「牛丼でもいい?」
古川氏は苦笑する。
「妙齢の女子が牛丼て、、俺は構わんけど、、」
「まぁ行くか、腹減ったし」
明日香がスマホで時間を確認すると、既に午後の6時を回っていた。