天王山はリゾートホテル?
蓮香達が到着した場所は、開発中のリゾート地であった。
山岸の調べによれば、レジャー施設はまだ殆ど出来ていないらしい。
その代わり以前から温泉が湧いていた場所と言う事もあり、古い旅館に交じって新規参入したホテルが続々と建ち始めていた。
その建って間もない、まだ営業していないホテルにGPSで割り出した住所が重なった。
そこに蓮香が明日香に預けた合い鍵があるのは間違いない。
つまり明日香が誘拐されたなら、そのホテルに監禁されている可能性が高いのだった。
「このホテルの所有者は、、、要木産業グループですね」
と山岸がノートパソコンを見ながら言った。
桜が車の窓から目的のホテルを見つめて訊き返した。
「要木産業?」
山岸はノートパソコンのタッチパッドを動かしながら説明しだす。
「え~とですね、、、」
「政界にかなり密接な企業ですね」
「あの崇城巌代議士の奥さんの実家です」
不快そうな顔をする蓮香。
「やっぱり、、、」
「明日香お姉様が失踪する前に会ったのは、私達を除けば、、、」
桜が思い出したように代弁した。
「あ! 崇城雅さんか!」
蓮香は拳を握り締めて、怒りを抑えるように眉間へ皴を寄せた。
「以前、崇城雅がお姉様を付け回してたのを見つけて、ファンクラブに勧誘したのだけど、、、」
「断られたの、、、」
「あの時、私が潜在的な危険性に気付いていればこんな事にはならなかった筈」
寂しそうな顔をする桜。
「蓮香ちゃんのせいじゃないよ、、、」
「それより今はどうするか考えないと」
少し俯いて蓮香は頷いた。
車を駐車している道から目標のホテルまで、結構な距離がある。
駐車場が広くホテルの敷地を囲うように桜の木が植えられている為だ。
入学式シーズンにはさぞ華やかで美しい景観になるに違いない。
そしてホテルの入り口には見張りだろうか、スーツ姿の男性が2人立っていた。
と言う事はホテルの玄関には鍵はかかっていなさそうだ。
鍵をかけているなら見張りは必要なく、それにまだ監視カメラなどの警備システムも設置しきれていないのだろう。
また営業もしていないホテルの玄関に見張りが立っている事自体、何かあると言っているような物だ。
明日香はこのホテルに居ると蓮香は確信した。
山岸が一番後ろの座席に置いていた鞄から、1ガンレフのデジカメを取り出した。
「私と蓮香さんで、リゾート開発地域の取材に来たと言って近づくから、」
「他のメンバーは死角から近づいて見張りの二人をノックアウトしましょう」
すると桜が意見を言いだした。
「もう1つチームを作って、ホテルの裏口とかから中に侵入できないかな?」
「正面からはそのうち気付かれて人が沢山来ちゃうんじゃぁ?」
少し思案した後、山岸が桜に笑顔を向けた。
「分かりました、そうした方がホテル内を捜索しやすいでしょうね」
「では4人を新見さんに付けるので、私達が正面で暴れている内に裏からホテルに侵入してください」
「ただ無理だけはしないように!」
真剣な表情で桜は頷いた。
再び山岸は後部座席から何かを取り出して桜に手渡した。
それは後頭部から両耳に掛けるタイプのヘッドセットだ。
とても軽くて最小限の大きさの為か、一瞬何か分からなかった桜。
山岸はジャケットの襟内に超小型のピンマイクのような物を着けていて、それを桜に見せると、
「そのヘッドセット型のトランシーバーと、私が着けているこれで音声のやり取りが出来るから、何か有れば報告を」
そう言って自身の耳にイヤホンを装着した。
試しに桜は使ってみる。
既に電源は入っていたので、耳付近に付いているPTTキーを押して桜は一言発した。
「ヨロチクビ」
こんな状況で何を言い出すかと、驚いて桜に振り返る蓮香。
山岸はと言うと「ブッ!」と吹き出して笑い出してしまった。
「いやぁ、、、何と言うか新見さんは肝が据わってるわねぇ~」
「今ので皆の緊張が解けたんじゃないかな」
ここに来た14人全員が、インカム等で桜の発言を聞いていた筈なのだ。
桜は少し照れた様子で、
「あ、、、そっか、これを持ってる皆さんには聞こえちゃうのね、、、」
蓮香は呆れつつも、何だかんだと頼りになりそうな桜が傍にいて嬉しかった。




