明日香のプライベート(2)
スマホで時間を確認すると午後4時を回っていた。
夕食を摂るには少し早い時間だ。
少し逡巡して明日香は時間を潰す事に決める。
潰すと言うのは語弊があるかもしれない。
明日香にとっては大事な趣味の1つなのだから。
明日香が向かったのは、割と活気がある商店街だ。
どんどん商店街のアーケードを進んで行き、突如横路地に入る。
すると4階建の古い雑居ビルが姿を現わす。
周りの建物に紛れて境目がよく分からない。
二階の窓の下に古臭い看板がかけてあった。
"ゲームセンター・スーパースター"
80年代からありそうな古臭いゲームセンターだ。
出来たばかりの当初なら、今や絶滅危惧種の特攻服なヤンキーや不良がたむろしていたに違いない。
そして明日香は、何とその"スーパースター"に躊躇いもなく入っていったのだ。
店内を見渡すと暗めの照明が点いており、独特で落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
静けさが支配していて初見の人はきっと怖がって帰るに違いない。
少し不気味だ。
偶にデモ音楽がゲーム筐体のスピーカーから流れて、ビクッとなってしまう。
店内は一階が大小2フロアーに別れていて、広い方はかなりレトロなテーブル筐体が半分以上を占めている。
ゲームの内容も多岐に渡り、パズルからシューティング、格ゲーまでいろいろだ。
残りの半分は通常のゲーム筐体で、格ゲーやアクションゲームが主体のようだ。
通常のゲーム筐体と言っても、90年代にどこのゲーセンでも置いてあったシティ系で、もはやレトロと言って良いだろう。
明日香は千円札を両替機で100円10枚に交換し、さらに500円分を50円に崩す。
パーカーのポケットは100円玉と50円玉でジャラジャラ言ってしまっていた。
そして小さい方のフロアーへと進む。
フロアー同士の境目は段差があり、小さめのフロアーが後から増設された感バリバリであった。
そこには最新機種のゲーム筐体が13台程ひしめきあっている。
中央のトイメンで設置されている筐体の奥に、30歳位の細面の男性が座っていた。
その筐体のゲームは格ゲーで、2台トイメンで1組なのだ。
片方は勿論対戦者が座る用だ。
明日香はその男性に笑顔で声をかけた。
「こんにちは〜」
大学に通っている時とは全く違う、フレンドリーな感じだ。
その男性は、明日香を見やると笑顔で言った。
「お〜、アマネン、、今日は早いな」
明日香は椅子を引いて来て、彼の傍に座りゲーム筐体のモニターを眺めた。
「そう言う古ちゃんも早い」
「暇人か!」
彼はこのスーパースターの常連で古川氏と呼ばれていた。
そして仲の良い間では、明日香のように"古ちゃん"と呼んだりもする。
苦笑する古川氏は、器用にコントローラースティックと、6ボタンを操作しながら言った。
「まぁ暇だわ」
「土地貸しと家賃収入があるからな!」
「まるでニートだぜ」
同じく苦笑する明日香。
「ははは、、それ自慢出来ないよ、、」
対戦モニターを見て、ふと気付く明日香。
古川氏が連勝していない、。
今現在、古川氏はオンラインで他のゲームセンターのプレイヤーと対戦している。
勿論トイメンに置かれた対の筐体で店内だけのローカル対戦も可能だ。
スーパースターに古川氏以外居なかったのでオンライン対戦にしたのだろうが、"あの古川氏"が勝ったり負けたりしているのだ。
古川氏は自他とも認める、卑怯かつ楽をして対戦に勝つ達人であり、大会でも優勝経験があるその道の有名人。
その古川氏が連勝出来ないのだから只事では無かった。
明日香は驚きながら訊ねる。
「どうした古ちゃん!」
「負けてるよ?!」
古川氏は少し難しい顔をした。
「いやぁ〜、こいつ強いわ」
「勝てるには勝てるが、、連勝出来んわ、、」
そして真顔で明日香を一瞥した。
「ひょっとしたらこいつ、アマネン位強いぞ」
少し驚いて、それからニヤリと笑みを明日香は浮かべた。
「マジか!」
そんなこんな言っている内に、古川氏は連勝出来ずに負けてしまった。
疲れたように溜息をつく古川氏。
残念そうにモニターを見る明日香。
明日香と古川氏は、この対戦格ゲーに稼働直後からハマっていた。
このゲームのタイトルは、demon front 3 "魔人戦線 3"だ。
異能に目覚めたキャラクター達を使って戦う3Dの格ゲーである。
そして世界的人気を獲得し、3作目となる。
開発会社は、ゲーム会社としては新興企業のアイオーンエレクトロニクス社、、略してアイトロだ。
古川氏は店外の自販機で二本缶コーヒーを買って戻ると、一本を明日香に投げた。
明日香は片手であっさりとキャッチすると笑顔で、
「ありがと!」
そして不敵な笑顔を古川氏に見せると、先程のゲーム筐体の前に座る。
「お礼に古ちゃんの仇は私がとってあげるよ」
古川氏もニヤリと笑むと、
「じゃぁアマネン、一回でも負けたらメシ奢れよ!」
「オッケー!」
と言い放ち明日香は勢いよく50円をゲーム筐体に投入した。