崇城雅と明日香(1)
午前中の授業が済み、明日香は桜を伴ってエンタメサークルの部室に来ていた。
この部室は代表専用の部屋になっている。
要するに蓮香専用の部室な訳だ。
そして仲の良くなった明日香と桜と蓮香は、ここで毎回昼食を摂る事にしたのだ。
今日は蓮香から事前に連絡が有って、昼食は蓮香が用意するので手ぶらで、と言う事だった。
蓮香が用意してくれた昼食は、重箱に入った高級そうなお弁当で桜は大喜びする。
「わ~~、凄い!」
「しかも美味しそう」
明日香は少し申し訳なくなる。
「こんな高そうなお弁当、本当にいいのかな?」
「無理して負担になってない?」
蓮香は明日香に気を使わせてしまった事に顔を曇らせた。
「明日香お姉様、、、そんな気遣い無用です」
「私はお姉様に喜んで頂けることが、喜びなのですから」
明日香は少し困ったが、顔に出さないよに努めた。
蓮香の色んな意味でのやる気を削いでしまい、ションボリさせたくないからだ。
「うん、、じゃあ遠慮なく頂くね」
桜は全く遠慮なしに美味しそうに食べている。
流石、桜だ、、、。
蓮香が用意してくれたお弁当は、どうやら高級な料亭の物のようだ。
バランスの取れた内容だが、素材のそれぞれが如何にも高級そうで食べるのが躊躇われる。
毎回このような物を用意されても困るので、一応釘は刺しておこう。
「蓮香、、、嬉しいのだけど、、、」
「こう言うのは、偶に食べるから価値があるの」
「だからね、、、」
と意味ありげに明日香は蓮香に言ってみた。
蓮香は聡明な娘なので、、2、3言えば10把握し理解できる。
スーパースターでD&D3をやった時にそれは分かっていた。
少し教えれば、すぐ理解して視野も広がり応用もしだすのだ。
すると蓮香は理解したのか、
「確かに、そうですね、、、」
「分かりました、次はもっと一般的な物をご用意しますね」
と、ションボリする事無く納得した様子だった。
明日香は胸を撫でおろした。
大好きな蓮香の気分を損ねたら、自分の気持ちも落ち込みそうだからだ。
しかし明日香は別の問題を抱えて、落ち込みそうだった。
それは午前中の授業が終わった直後に起きた出来事が発端だ。
朝、明日香に視線を投げかけていた人物、”崇城雅”がわざわざ明日香に会いに来たのだ。
別に知り合いでも無いのだが、午後に時間を設けて話がしたいらしい。
まあ知り合いじゃないから、話の席を設けるのか?
どちらにしろ何かトラブルに発展しそうな予感がして、明日香は憂鬱な気分だった。
少し暗い表情が出てしまったのか、桜と蓮香が心配する。
「お姉様、、、何か心配事でも?」
「あ、、、さっきの崇城さんの事?」
桜とは同じ講義だったので、崇城雅が明日香に会いに来たことを知っているのだ。
それを聞いた蓮香が訝しんだ。
「崇城さんが、お姉様に何かしてきたんですか?」
どうやら崇城雅の事を蓮香も知っているらしい。
とくに何かされた訳でも無いので明日香は正直に答えた。
「午後に私と話がしたいから、時間を作って欲しいと言われたの」
蓮香は何か思案する様子でハシを止めて呟いた。
「そうでしたか、、、」
明日香は崇城雅がどんな娘なのか気になり、蓮香の持つ印象を訊いてみる事にした。
「崇城さんは、どんな娘なのかしら?」
「話しかけられた時は、到って普通の娘に感じたけど、、、」
難しい顔をした後、蓮香はゆっくりと話し始めた。
「あまり良い話は聞きませんね」
「親の威を借りると言えばいいのでしょうか、、、」
「私も人の事を言えないのですけど」
それに対して桜がやんわりと否定した。
「蓮香ちゃんは、崇城さんとは全然違うよ〜」
「我儘じゃ無いし、優しいし〜」
そして思い出すような仕草をして、
「でも、崇城さんは逆に自己中なところがあって、相手するのが大変」
「私は近づきたくないなぁ〜」
桜が言うなら相当な問題児なのかもしれない。
私から見れば桜は、誰とでも上手くやれそうなコミュニケーション能力がある。
その桜が嫌がる程とは、、、。
更に客観的な分析が出来そうな蓮香も、良い印象を持っていないようだ。
『これは覚悟しておいた方がいいかな』
そう内心で呟き明日香は溜息をついた。




