ファンクラブの真実
明日香は桜と蓮香に、自分の傍に居て何をしたいのか率直に訊いてみる事にした。
「桜、それに蓮香、、、」
とまず声をかける。
すると2人は何か改まった雰囲気を感じたのか、食事を止めて明日香を見つめた。
「はい、何でしょうか?」
「な~に?」
明日香はあまり堅苦しくならないように、笑顔で話しかけた。
「2人は、私の傍に居てどうしたいのかな?」
「何か私にして欲しい事があるの?」
桜は少し考えた後、笑顔を浮かべる。
「う~ん、、わかんない」
「でも明日香さん一緒に居ると、何だか楽しいの」
困った表情をうっかり浮かべてしまう明日香。
「私も一応する事があるから、、、相手出来ない時もあるけど、いいの?」
それを聞いた蓮香が、申し訳なさそうに少し俯いた。
「すみません、、、お姉様にもご都合がおありですよね、、、」
「ずうずうしく居座ってしまって、、、」
『あ~しまった』と明日香は後悔した。
蓮香にはそんな風に思って欲しくなかったのに、、、。
では桜はいいのか?というと、そう言う訳では無い。
可愛い2人がしょんぼりする姿を、明日香は見たく無かったのだ。
明日香は2人に笑顔を向けてフォローする。
「違うの、、、そうじゃ無くて、」
「2人の好きにしてくれていいの」
「私も桜と蓮香が傍に居ると楽しいし」
そして少し申し訳なく愛想笑いをしていまう。
「だだ、今日は個人的にしなきゃいけない作業があるから、」
「2人の相手が出来ないの」
「それが申し訳なくてね、、、」
それを聞いた蓮香は少し機嫌を直し、明るい表情になる。
「でしたら、傍で見ていてもいいですか?」
「ファンクラブ会長としては、お姉様の傍にいて、その日常を知りたいのです」
「勿論口外などしませんから!」
桜もノリノリの様子で、
「私も一緒に居たい〜」
「もし暇になりそうなら部屋のお掃除とか片付けとか、私得意だからするよ〜」
蓮香も桜を見て頷く。
「ご迷惑で無ければ私も、」
仕方ないな、、、。
明日香は諦めて、このまま2人を家に居させ好きにさせる事にした。
「分かったわ」
「とりあえず食事を済ませましょう」
それにしても困ったものだと思う。
それはファンクラブの事だ。
芸能人でも無い明日香に、そんな物が出来る事自体おかしいのだ。
100歩譲って雨音なら分からないでもないが、、、。
World Tubeで雨音のチャンネル登録数は100万を超えている。
言わば、これがライトなファンクラブのような物なのだ。
つまり雨音は今や著名人となってしまっている。
しかし明日香は只の大学生だ。
学内にまさかのファンクラブが出来ているなど想像出来るであろうか?
蓮香に言われるまで、その存在に気付かなかったのだから、ファンクラブのメンバーはある意味奥ゆかしいのだろう。
明日香の日常を荒らさないと言う点では、無害でホッとする。
しかし一応活動内容を蓮香に確認しておいた方がいいように思えた。
故に気になる事は直ぐに調べて解決する。
問題を先送りにしない明日香のもっとうが発動した。
「ねぇ蓮香、、、」
「私のファンクラブの事なのだけど、」
「どういった活動をしてるの?」
美味しそうにパスタを食べている蓮香のフォークが止まり、キョトンとした表情を浮かべた。
「え?」
「至って普通かと思いますが、、、」
『いやいや、蓮香と桜がNo.1とNo.2を務めていて普通は無いでしょ!』
と声に出しそうになるが明日香は我慢した。
明日香は警戒されないように笑顔でお願いしてみる。
「聞きたいなぁ〜」
「蓮香や桜がどんな風に他の人達と楽しんでいるのか、知りたいよ」
少し思案する蓮香は納得した様子で、
「当のご本人が詳しい活動内容を知らないのは良くないですね」
「分かりました、ご説明致します」
桜が食べながら喋り出す。
「え~とね、会員内で協定みたいなのがあるの~」
「明日香さんに迷惑かけないっていうね」
『桜さん、行儀悪いから飲み込んでから喋りましょうね、、、』
声に出して注意しようか迷う明日香。
まあ、こんなところが桜の可愛いところなんだけど。
蓮香はというと、フォークを綺麗に置いて話出した。
こちらは実に行儀が良い。
「明日香お姉様の平穏を乱さない様に遠くから愛でる、、、と言うのが基本方針です」
「また会員も男女半々で、恋愛感情を持っても良いですが、明日香お姉様に無理なアプローチはしない決まりになっています」
「更に学内で悪い虫が寄り付かないよう、それとなく会員のメンバーが周囲に牽制も行っております」
『マジか、、、、』
明日香は項垂れる。
確かに最近は無理なアプローチをされる事が無くなった。
相変わらず声は掛けられるし、告白も後を絶えない。
しかし、そこから相手が強引なアクションに移る事が無いのだ。
まさか自分のファンクラブに守られていたとは、、、。
これは見返りを求めない善意だ。
故に、会員達の明日香に対する熱狂さが怖くもあった。
ここから”それ”がエキサイトし過ぎないとも限らない。
ならその中心にいる桜や蓮香に自身の事を打ち明けて、トラブルを未然に防ぐよう立ち回って貰った方が良いだろう。
明日香は二人が食べ終わるのを待ち、自身の秘密を1つカミングアウトする事にした。




