匂いとパジャマと桜の罠
丁度30分程でショッピングモールに到着する明日香達。
立体駐車場に明日香はZを停める。
青空側に停めないのは、立体駐車場各所に監視カメラがあるからだ。
車上荒らし、車の盗難等の抑止をしてくれる。
マニアックな車を所有していると色々気を遣うところが多い。
まあ、好きで乗っているので仕方ない事だが。
モール内はまだ時間が早いせいか混んではい。
明日香は蓮香と桜を連れて、どこを回ろうか思案する。
蓮香は上から下までハイブランドだし、桜は大学生相応の服装ではある。
2人の服の趣味に合わせて店を回るのは、少し骨かもしれない。
「う~ん」と悩んでしまう明日香。
まあ上の階から下へ順に見て回るか、、。
そう思っていると蓮香が不思議そうに言った。
「明日香お姉様、、、カーディガンを羽織らないんですか?」
モール内が意外と暑く明日香はカーディガンを脱いでいた。
理由は5月という時期の為か、空調がそれ程強く効いてなく、照明等で結構暑いのだ。
蓮香と桜は平気そうだが、、。
明日香は困った様子で蓮香に答える。
「うん、、、こういう所って結構暑い時があるでしょ」
「混んでなくて良かった、、、人混みで更に店内の温度あがっちゃうから、、」
蓮香は納得して笑顔を見せると、明日香に向かって両手を差し出した。
「では、お持ちしますよ、カーディガン」
「え?」と戸惑う明日香。
然も当たり前かの様に蓮香がそんな仕草と申し出をするからだ。
何だか”人を使っている”ような感じがして嫌だったが、蓮香の気持ちを無下にする理由も無かった。
少し逡巡しながらも明日香は蓮香にカーディガンを手渡す。
「じゃ、じゃぁ、、お願い」
笑顔で蓮香は明日香のカーディガンを受け取った。
その様子を大人しく見ている桜。
桜にしては静かだ。
取り合えず明日香は先頭をきって歩き出す。
さて適当にフロアーの端から歩いて店を順に見て行こう。
明らかに明日香の趣味ではない洋服店は除くとして、。
その旨を背後の2人に伝えようかと振り向くと、カーディガンに顔を埋めている蓮香の姿があった。
「あ、、、、」
と不味い所を見られた的な顔をする蓮香。
明日香が振り向いた事に気付いていない桜が、
「ね!、、、良い匂いするでしょ明日香さんの服、、」
「明日香さん本体はもっと良い匂いするよ~」
と小声で蓮香に話しかけていた。
『いつ私の匂いを嗅いだの!!?』
と内心で桜に突っ込みを入れる明日香。
もはや困った顔で笑うしかなかった。
そして大げさに言えばハラスメント行為だ。
本来これは怒るべき状況かもしれないが、やっぱり怒れなかった。
この二人が可愛いので怒りにくいのが主な理由かもしれない。
更に明日香は他人に対して怒る事はない。
注意したりはするが、。
それは他人に対してそれ程親密になった事がないからだ。
だから感情を他人にぶつける様な行動など出来るはずが無かった。
まず単純に疑問に思った事を明日香は蓮香に訊いてみた。
「その、、私の服の匂いを嗅いで何かいいことでもあるの?」
そんな明日香を見て驚いた様子の桜。
「え、、そこ訊いちゃうの?」
蓮香は困った様子で思案していた。
そして恥ずかしそうに、
「え~と、、好きな人の温かさとか匂いとか、、体感したいって思うのは変ですか?」
少し納得した明日香は腕を組んで唸る。
『う~~む』
『確かに、、分からないでも無い』
そして蓮香へお願いするように笑顔を向ける。
「じゃあ、余り露骨なのは控えてね、、」
「私も恥ずかしいから、、」
蓮香は申し訳ない表情をして、
「す、すみません、、、今日会ったばかりで、こんなハラスメントみたいな事をしてしまって、、」
明日香は苦笑した。
なんだか今日はこんなのばっかりだな、、と。
桜が真顔で言い放つ。
「そうだよ~、露骨なのは駄目だよ~」
「私みたいに気付かれないようにしなきゃ!」
「てっ、、おおい!」と明日香は桜にツッコミを入れてしまった。
少し落ち込みそうになっていた蓮香が笑い出す。
意外とこの3人はバランスが良いのかもしれない。
ふと、明日香はそう思ってしまった。
先頭を歩いていた筈の明日香が、いつの間にか桜に手を引かれる状態になっていた。
その後ろから蓮香が付いて来る形だ。
桜が嬉しそうに指さした。
「次、あそこ行こう、あそこ!」
そこはランジェリーやパジャマを専門で販売している店だった。
それを見て明日香は狼狽えた。
『よりによってそこ選ぶか、、、』
何故狼狽えたかと言うと、どうせ私にエッチな下着を試着させたり、買わせたりするのが見え見えだからだ。
そのまま桜に手を引かれて明日香は店に向かってしまう。
後ろからは蓮香が明日香の背中を押すし、、、逃げれそうになかった。
店に入ると色とりどりの下着で目がチカチカした。
ここから下着を選ばされるのかと思えば違っていた。
明日香はパジャマコーナーまで手を引かれたのだ。
まあ、パジャマも色っぽいのとか結構あるんですけどね、、。
すると蓮香が明日香と桜を交互に見やると、
「気に入ったものがありましたら、お二人にプレゼントしますよ」
「仲良くなった記念に」
「わ~い」と喜ぶ桜。
蓮香の気持ちを無下に出来ないので、ここは有難く受け取る事にしよう。
そう思い明日香はうっかり口走ってしまった。
「ありがとう、、」
「私も蓮香に何かしてあげれたらいいのだけど」
何となく桜の目が鋭く光ったように見えた。
きっと錯覚だよね、、、。
蓮香は嬉しそうに明日香を見つめた。
「も、もし迷惑でないのでしたら、明日香お姉様のご自宅にお邪魔すると言うのはいかがでしょうか?」
首を傾げる明日香。
「そんな事でいいの?」
「うちに来ても大した物はないのだけど、、」
桜がここぞとばかりに被せてきた。
「じゃあ、私が昨日泊めてもらったみたいに、蓮香ちゃんも泊めて貰えばいいじゃん!」
「勿論私も行くけど!」
羨ましそうな顔で桜を見る蓮香。
そして明日香に向き直ると切なそうな表情をして、
「私も桜さんと同じように扱って欲しいです!」
「駄目ですか?」
「う、、」と言葉に窮する明日香。
やられた、、桜に。
初めから私の家に泊まりに来るつもりだったのだ。
『それでこの店に入ったのか、、』と後悔する。
明日香が実は”男”だ、とバレるリスクが跳ね上がる。
桜一人でも持て余しているのに。
でもこのまま先、この2人と親密になったなら避けては通れない道でもある。
以前の私なら、こんな状況にならない様に立ち回っていた。
ふと、明日香は自分自身を思い返す。
自分は今、優しすぎるのだ。
この2人を前にすると、、。
桜も蓮香も明日香に対してグイグイ迫ってくる。
それが何とも可愛く見えてしまうのだ。
だからなし崩しに許してしまう。
まさか、男の私に母性本能が芽生えてしまったのか?、と錯覚する程に。
考え込むように動かない明日香を見て、蓮香はションボリしてしまう。
「ごめんなさい、、、無理を言ってしまって、、」
そんな蓮香を見ていると、明日香が悪い事をしてしまったような錯覚に囚われてしまう。
だから慌てて否定してしまった。
「違う違う、、」
「晩御飯とか、お風呂の順番とかどうしようか考えてたのよ、、」
蓮香の顔が明るくなった。
「それって、、泊めて貰って良いって事ですか?」
明日香はニッコリと蓮香に笑顔を向ける。
「そうだよ」
「だから替えの下着とかパジャマとか選んでおいで」
それを聞いた桜が「ひゃっは~!」と変な声を上げて喜んだ。
そしてそのまま店に並ぶ下着を物色し始める。
『おまえはジードか!』
とツッコミそうになるが明日香は我慢した、、きっと通じないからだ。
蓮香も明日香の返事に満足したのか、気を取り直して桜と共に下着を選びだした。