まさかのファンクラブと百合的な
"お姉様"と呼ばれる事を了承する明日香。
まさか了承されると思っていなかったのか、今度は蓮香が呆然としてしまった。
「もしもし〜、武野内先輩〜」
と声をかける桜。
我に返った蓮香は、何故か慌てた様子で明日香に詰め寄る。
「ほ、本当に良いんですか?!」
「明日香お姉様!」
『いや、、もう呼んでるし、、』
『しかも下の名前付きで、、』
と内心で明日香は突っ込む。
そして笑顔を蓮香に向けた。
「武野内さん、、そんなに興奮しないで、、」
「好きなように呼んでもらって構いませんから」
すると蓮香が突然拗ねたよう顔をした。
「お姉様、、私の事は蓮香と呼んでください」
少し唖然となる明日香。
『え? そこで拗ねるところなの!?』
仕方なく呼び直してみる。
「え〜と、蓮香さん?!」
次は拗ねるから怒り顔に変わってしまう蓮香。
「違います!」
「"さん"は要りません!」
「蓮香で」
気圧された明日香はそのまま言わされる様に、
「え? あ、はい」
「蓮香?!」
それを聞いた蓮香は嬉しそうな顔をした。
「はい! 明日香お姉様」
そんなやり取りを傍で見ていた桜が羨ましそうに、
「いいなぁ〜」
「私も好きに呼んでいい?」
明日香は蓮香と桜に挟まれて座っているので、右向いたり左向いたりと忙しい。
「え〜?」
「うん、、まぁ良いけど、、」
桜も嬉しそうに明日香を見つめ、
「じゃあ、明日香さ〜ん」
「私も"桜"って呼んでね!」
『はいはい、分かりましたよ』と内心で明日香はぼやく。
そして気になった事を桜に訊いてみた。
「ところで、桜と蓮香は仲良しさんなのかな?」
蓮香は少し考える素振りを見せた。
「そうですね」
「チャットアプリで話し合うくらいには、」
頷く桜。
「うん、そうだね〜」
「友達だよ」
明日香としては、この二人がどのような繋がりなのか気になった。
「え~と、、訊き方が悪かったかな、、」
「どういった事で二人は友達になったのかな?」
まぁ、人懐っこい桜なら特に理由なく友達になるのだろうけど、、。
二人とも逡巡した様子だ。
明日香は”ピンッ”と来た。
この二人は何か隠していると勘が囁く。
わざとらしく抑揚のない喋り方で明日香はカマをかけてみた。
「桜と蓮香は私に隠し事をするの?」
明日香がこんな真似をすると、とても冷たく怖く見えるのである。
本人は自覚していないようだが。
そんな風に言われたものだから桜は慌てだし、蓮香は顔を青ざめた。
桜は申し訳なく俯くと、
「隠すつもりは無かったんだよ、、、」
「ただ、こう言う事は明日香さん訊きたくないんじゃなかな~って」
同じくションボリ俯く蓮香。
「すみません、、お姉様、、」
「伏せておいた方が良いと勝手に判断してしまって、、」
「ですが隠し事をする方が、明日香お姉様に失礼ですよね、、」
そして蓮香は居たたまれない様子で話し出した。
「実は私達、、ファンクラブでの繋がりがあって、、」
「ファンクラブ?」
と呟き不思議そうな顔をする明日香。
その程度の事で何故そんなに怯えるのか?
頷く蓮香は続けた。
「はい、明日香お姉様のファンクラブです」
「私はそのファンクラブの会長で会員No.1なんです」
いつの間にか昼食を食べきった桜が愛想笑いをした。
「で、、私が会員NO.2なの、、」
「他にも50人くらい居るよ、、」
余りのカミングアウトに明日香の脳が停止してしまう。
「、、、、、」
心配した桜が明日香の肩を揺らす。
「明日香さん!」
「気を確かに!!」
蓮香は悪いことをしてしまったと思ったのか、泣きそうな顔になる。
「ごめんなさい、、、お姉様、、」
「迷惑でしたよね、ご自身の知らない所でファンクラブが出来てたなんて、、」
蓮香の泣きそうな顔を見て我に返る明日香。
泣かれたら余計に困るので、自分を慰める前に蓮香を慰める事にした。
「迷惑というか、、びっくりしたけどね、、」
「その、、ファンクラブは二人で作ったの?」
小さく頷く蓮香。
同じく頷いた桜もバツが悪そうな様子だ。
明日香は溜息をつくと笑顔を蓮香に見せた。
「作ってしまったものは仕方ないよ」
「だからそんなに落ち込まないで、、」
「気にしないようにするから、、」
そう、これはどうしようもない。
金銭が絡んだ利権問題でも無いのだ、第三者が私をネタに楽しんでくれているなら放置するしかない。
故に明日香が、”気にしないようにする”しかないのだ。
蓮香はおずおずと伺いを立てて来た。
「お姉様、、怒ってませんか?」
明日香は蓮香の頭に手を置いて撫でる。
「うん、怒ってないよ」
「だから蓮香も機嫌直してね」
すると桜が間髪入れずにニッコリ微笑んで、
「良かったね! 蓮香ちゃん!」
『良かったね! じゃないよ! お前も当事者だよ!』
とツッコミそうになるが堪える明日香。
しかもいつの間にか武野内先輩から蓮香ちゃんになってるし、、。
笑顔が戻った蓮香は、明日香に何か言いたげな顔を見せた。
「、、、、」
気になった明日香は率直に訊いてみる。
「うん? どうしたの?」
少し不満そうに可愛らしく頬を膨らます蓮香。
「本当に怒っていないなら、ハグしてください!」
気の強そうなイメージの蓮香が、こんな可愛らしいところも有るのかと明日香は感心しかける。
そう、蓮香は滅茶苦茶な事を言っているような、。
蓮香が柔らかく両手を広げて微動だにしないので、明日香は諦めた。
明日香は椅子から立ち上がると、両手を広げる。
「おいで、蓮香、、」
するとパァ~と蓮香の顔が明るくなり、そのままユックリと明日香に抱き着いた。
「ずる~い!」
と背後で言い出す桜。
気が付くと桜にも背後から抱き着かれてしまう明日香。
前は蓮香、後ろは桜に挟まれてサンドイッチ状態だ。
二人の柔らかい感触と体温が伝わって来て何とも心地よい。
それに女の子特有の優しくて甘い匂いがした。
桜は言うまでも無く巨乳なので、明日香の背中に中々の感触を伝えてくる。
そしてスレンダーだと思っていた蓮香が、結構なお胸を持っていて明日香の身体を刺激する。
蓮香は着痩せするタイプなんだ、、、と感心している場合では無かった。
これでも明日香は男な訳で、、意識していないつもりの”男の子”が反応しそうなのだ。
慌てて蓮香と桜を引きはがす。
そして何も無かったように椅子に座った。
残念そうに、名残惜しそうな桜と蓮香。
今後こんな事が増えそうな気もするので明日香は心配になって来た。
もし、バレた時の為にも釘は刺しておいた方がいいかもしれない、、。
明日香は少し真剣な様子を演出する。
「2人は私と仲良くしたいのかな?」
「”親密”になりたいって事なのかな?」
桜も椅子に座ると、然も当たり前かのように言った。
「うん」
「私、バイだからその辺り全然気にしなくていいよ~」
爆弾発言だった。
負けじと蓮香も言い放つ。
「私も明日香お姉様が好きなので、、」
「男だとか、女だとかで好きになった訳じゃないです」
明日香は頭を抱えた。
『こいつら、、マジだ、、、』
『なら真実を知ったらどうなるのだろう、、』
腹を括った明日香は、ゆっくりと話しだす。
子供に言い聞かせるように。
「私と親しくなればなる程、驚く事になると思うの、、」
「あなた達が知らない私を知れば、幻滅する事になるかもしれないよ」
「それでも、今のように私を慕っていられる?」
蓮香は真剣な表情で頷いた。
「無論です」
「例えばですが、もしお姉様が男だったりニューハーフだったりしても、」
「私の気持ちは何も変わりませんよ!」
『おおぅ、、』
と内心で明日香は怯む。
核心を突かれたからだ。
桜も笑顔だが真剣な目で、
「私も蓮香ちゃんと同じ気持ちだよ」
「逆にどんなビックリ箱が見れるか楽しみなくらいだよ~」
言質は取った。
後は、もし裏切られた時、自分が耐えられるかどうかだ。
そう、、私は裏切られるのが怖くて今まで人と親密にならなかったのだから。