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勧誘と急展開

武野内蓮香は、部室に入って来た明日香と桜を見て立ち上がった。



蓮香は笑顔で、

「よく来てくれました」

「さっ、座って下さい」



桜はさっさと座ると購買で買った昼食を広げ出す。

明日香は蓮香の近くにある椅子を勧められたので取り敢えず座った。


蓮香と桜に挟まれるような位置になる明日香。

何だが居心地が悪い。



そして蓮香も持参していた手製の弁当を広げだす。

「私は武野内蓮香と言います」

「時間も限られてますし、昼食を摂りながら話しましょう」


午後の講義までの時間を言っているのだろう。

私は帰る予定だが、、。



蓮香は少し申し訳ない表情で、

「突然ごめんなさいね、、」

「どうしても神宮司さんと話がしたくて、仲の良さそうな新見さんにお願いしたの」



明日香は購買で買ったパンの袋を開けると苦笑する。

「そんな事かと思ってましたよ、、」

「で、話というのは?」



おずおずと話しだす蓮香。

「入学して直ぐにサークル部活勧誘懇親大会があったのだけど、、」

「覚えてないかな? 私の事、、」



記憶を探る明日香だか、蓮香の事は朧げにしか記憶に無い。

なにせ今朝まで名前さえ覚えていなかったのだから、、。


勧誘懇親大会も「あ〜、そう言えば、、」程度で興味さえ薄かったのでこちらも記憶が朧げだ。



なので明日香は正直に言った。

「すみません、、覚えてませんでした、、」



苦笑する蓮香。

「そっか、、」

「あの時、うちのサークルに体験で来てもらって、皆んなでカラオケに行ったんだけど」


そして蓮香は自分の弁当に箸をつけ始める。

「神宮司さんが歌った時、凄く上手くて感動したの」

「これはサークルだけじゃなく、うちの芸能事務所に誘いたいなって、、」



サークル勧誘では無く、まさかの芸能事務所のスカウト?!

少し驚きつつもパンを食べ始める明日香。

無言で蓮香の話の続きを促す。



真剣な表情に変わった蓮香は明日香を見つめる。

「うちの、、武野内芸能プロダクションは業界でも最大手よ」

「貴女の望むマネージメントをしてあげれると思うの」

「うちに所属してくれないかしら?」



明日香はコーヒーを一口飲むと少しだけ俯いて思案する。

有り難い話だ。

でも明日香からすれば、そう言った事は"今"では無いのだった。


いつか歌手としてプロになれたらと思ってはいるが。



きっと武野内さんは、私に才能と魅力があると判断してくれたのだろう。

しかしいくら才能や魅力に溢れていたとしても、世間にその需要が無ければ成功しない。



中には月城レインのように自らが流行を演出し、世間に需要を求めさせた特例はある。

でもそれは色々な苦労と努力、更に奇跡が成し得たものなのだ。



明日香は、とてもそんな真似は出来ないと考えていた。

だから蓮香に丁重に断りを告げる事にする。

「高く評価していただいて、、恐縮です」

「でも、今のままの私では成功しないと思います」

「ですから、、お断りします、、すみません」



凄く残念そうな顔をする蓮香。

そして何か言い淀むが、桜を一瞥すると何故か諦めた様子で、

「そっか、、、」

「分かりました」


「でももし気が変わったら、連絡して下さいね」

と言って蓮香は明日香に名刺を差し出した。



すると今まで大人しくサンドイッチを食べていた桜をが怒りだす。

「あ〜ずるい!」

「私でもまだなのに、、」

「武野内先輩、そうやって神宮司さんと連絡先交換するつもりでしょ!」



驚いた様子で慌てる蓮香。

「え!? そんなつもり無かったのだけど、、」

「と言うか、神宮司さんと新見さんって友達じゃなかったの?」



「ぶぅ〜」と不満顔の桜。

「友達だけど、まだそこまで進捗してないの!」



『進捗って、、私は何かのプロジェクトか?!』

と内心で明日香はツッコミを入れる。



苦笑する蓮香は明日香と桜を交互に見て、

「じゃあ、これを機会に連絡先の交換をしませんか?」

「私達3人、友達と言う事で」



やはりそう来たか、と溜息をつきそうになる明日香。

"私達、友達だよね〜"な雰囲気を出されて、それを否定するのは社会的に問題があるように思える。

いわゆる空気読めない問題である。



詰まる所、それに連携する連絡先交換は拒めないと言う訳だ。

初めから"それ"が目的だったのでは?、と勘繰ってしまうくらいスムーズな流れだった。



明日香は仕方なく承諾する事にした。

笑顔が愛想笑いになってしまったが、、。

「わかりました」



嬉しそうな蓮香。

そしてしたり顔の桜。

してやられた、、。



そうして3人はスマホを取り出すと、チャットアプリのIDと携帯の電話番号を交換し合い、登録を済ませる。



ようやく明日香は落ち着いたと思い、途中だった昼食を再開する。

しかし、まだ何かあるようで蓮香がおずおずと話しかけて来た。

「あの〜神宮司さん、、」



もはや諦めを通り越して驚きに変わってしまう。

溜息をついて明日香は訊き返した。

「まだ何か?」



蓮香は恥ずかしそうに顔を赤くした。

「もし、、ご迷惑でなければ、、、、」



「お姉様、、と呼んでもいいですか、、?」



「え?」と声を漏らして固まる明日香。


何故だかニヤリとほくそ笑む桜。



明日香は聞き間違えたと思い問い返す。

「え?」

「お、お姉様?」

「多分、私と武野内さんは同い年ですよね?」



桜はやれやれと言ったジェスチャーをすると、

「違うよ〜、神宮司さん!」

「武野内先輩は、好意が有ってそう呼びたいんだよ!」



照れた蓮香は、しおらしく俯いてしまう。

「、、、、」



恐らく今年1番に驚いた出来事かもしれない。

驚愕の余り明日香は呆然としてしまった。



蓮香は呟くように話しだす。

「少し前からお慕いしておりました、、」

「二週間程前に助けていただいたのがキッカケで、、」



『助けた? 何を?!』

と明日香は脳裏で何度も反芻してしまう。


見兼ねた桜が説明を付け足す。

「その時、私も神宮司さんと一緒に居たんだよ」

「コンビニの駐車場で、武野内先輩がしつこいナンパに絡まれてて、、」



そう言えば、、と朧げに思い出す明日香。

『確か大学の近所にあるコンビニだったか、、』



はにかむ様な、そして嬉しそうな表情の蓮香。

「あの時、神宮司さんが颯爽と現れて、3人組のナンパを追い払ってくれたんです」

「神宮司さん凄く格好良くて、一瞬で一目惚れしたと言うか、、」



少し焦りながら明日香は愛想笑いをしてしまった。

「そ、そうなんだ、、」

「別に構わないけですけど、、」

思い詰めた様子だし、嫌がれば泣き付かれそうで怖かった為、"お姉様"の件を了承してしまう。



まさか同い年で1回生上の先輩に"お姉様"と呼ばれるハメになるとは、、。

でも慕われるのは悪い気はしない。

しかもこんな美人の娘に。



だがここから明日香は更に驚くはめになる。

まさの急展開である。


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