ゲーム談議(1)
時刻は既に昼を通り越して午後の2時だ。
旅館で軽食を取っただけで、まだちゃんとした食事を明日香達は済ませていなかった。
何気なく桜が「お腹空いた~」と言い出したので、メイリン社長が気を使ってランチを御馳走してくれる事になる。
しかもこの高級ホテルにあるレストランでのランチだ。
ホテルの中層階にレストランがあり、お昼時を過ぎていたので客はまばらであった。
その為、見晴らしの良い窓際の席に案内された。
明日香の右隣に桜、左にメイリンが席に着いた。
テーブルを挟んで向かいに蓮香、雅、山岸と座る。
雅と桜、そしてメイリン社長を一緒にしなかったのは、雅は桜に強くメイリンには相性が悪そうだったからだ。
こんな時に人間関係の相性や序列が分かるので面白いい。
そして皆、思い思いにメニューを品定めし始める。
明日香は少し申し訳ないような気持になって、あまり高いメニューを注文しない様に考えていた。
だが桜や蓮香、雅どころか山岸まで遠慮せずに高い物を注文する始末。
明日香がどうしようかとメニューを眺めていると、
「皆さんの様に遠慮なく注文してくれる方が、私は嬉しいですよ」
そうメイリンが笑顔で明日香に告げた。
正直な話、明日香と桜以外全員がお金持ちなのである。
山岸さんもそんな蓮香の教育係であった訳で、これくらい慣れっこなのであろう。
まぁ桜は遠慮無い性格?と言うか、この程度の事は気兼ね無くやってしまうタイプだ。
ならば郷に入っては郷に従えである。
明日香は食べてみたかったフカヒレスープや、A5ランク子牛のサイコロステーキなどを注文する。
明日香は日頃、飲食に関しては贅沢をしない。
その為、高級レストランの料理の美味しさに驚いてしまった。
所得もWorld Tubeの広告料やスポンサー料でそれなりに有る。
故に贅沢しようと思えば出来るのだが、将来的な不安を考えると自身の投資以外に散財は控えめなのだ。
自身の投資とは、女性の様相で着飾る為の服やコスメだったり、配信者としてのIT機器を揃えたりなどだ。
これらは形として残る物であり、継続しての利用価値がある。
思い切った買い物と言えば、レトロ車であるスーパーZくらいかもしれない。
これも趣味ではあるが、ちゃんと資産として残るものであった。
『お金は天下の回りものと言うし、、、』
『ある程度使って、こう言うのも経験した方が良いのかもね』
明日香がそう思っていると、メイリンが話しかけてきた。
「明日香さんとお呼びしても構いませんか?」
折角友人となったのだから、親しみを込めて下の名前で呼びたいと言う事だろう。
明日香は笑顔で了承する。
「勿論です、メイリン社長」
すると嬉しそうな顔をメイリンは浮かべるが、直ぐに不満そうな表情にかわった。
「よかった、、、」
「なら私の事も"社長"は抜きで呼んで下さいね」
「まるで会社にいるようで堅苦しいですし、、、」
それはそうだ、、、。
水春氏が居ないので今は完全なプライベート扱いなのだろう。
実際、仕事とは関係なしにメイリンは明日香達と一緒に居るのだから。
「分かりました」
「では、メイリンさん、これからも宜しくお願いしますね」
と笑顔で告げる明日香。
先ぽどより増してメイリンは嬉しそうな顔になる。
そんな様子をテーブルを挟んで見ていた雅だが、段々と不機嫌な顔になってきた。
少しメイリンに対して愛想を振りまき過ぎたかな、、、と反省する。
若干、メイリンとのやり取りを控えめにしようとした矢先、再び話し掛けられてしまう。
「明日香さんは、格ゲー以外に何をされるのかな?」
割とグイグイ来るメイリンに戸惑う明日香だが、失礼の無いように対応する。
「アクションゲームが好きで、その辺りなら何でもしますね」
「ただ、シューティングやパズルは苦手です」
「メイリンさんは、どうなんですか?」
少し考える素振りを見せるメイリン。
「そうですね〜」
「私も明日香さんと同じような感じですね」
「後は自宅でオンラインゲームもしますよ」
お互い知り合ったばかりなので探り合いである。
明日香はメイリンに失礼の無いように、無難に対応。
一方、メイリンは少しでも明日香と距離を縮めようと積極的だ。
何と言うか、明日香達が居るテーブルは微妙な緊張感が漂うのであった。