明日香達とヤン・メイリン(3)
蓮香がメイリン社長の事も考慮し、明日の予定を今日に早めると言い出した。
予定を早めると言われても、何も聞いていない明日香としては、何が何やら分からない。
「え〜と、どんなプランなのかな?」
「桜や蓮香に任せっきりで、何だかごめんね、、、」
そう明日香が申し訳なく言うと、蓮香は笑顔を浮かべて告げた。
「そんな事気にしないで下さい」
「明日香お姉様の誕生日祝いを兼ねた旅行なんですよ」
「私達に任せてくれれば良いのです」
なんて蓮香は良い娘なのだろうか。
明日香は嬉しくなり泣きそうである。
するとメイリン社長がここぞとばかりに、
「神宮司さん、誕生日だったんですか?!」
「では、お近づきの印に私から何かプレゼントしましょう!」
と言い出した。
これは不味い展開だと感じる明日香。
普通なら嬉しい事だ。
大陸の巨大企業の社長と仲良くなれそうなのだから。
しかし強く大きな伝手と言うのは、頼ればそれなりの見返りも要求されると言うもの。
『メイリンさんはグイグイ来るし、これで"友人"の関係は確定ぽいかな、、、』
『深く付き合い過ぎず、私からは何も頼らないようにしないと、、、』
明日香はそう自身を戒める。
「そこまでして頂かなくても、、、」
「誕生日自体、もう何日も前に過ぎてますから、お気持ちだけ頂きますね」
とメイリンの気持ちも汲みつつ、やんわりと明日香は拒否した。
残念そうにメイリンはそれを受け入れる。
「そうですか、、、」
「相手が望まぬ祝意と言うのは、迷惑なだけですからね」
慌ててメイリンが言ったニュアンスを否定する明日香。
「いえ、迷惑だなんて!」
「ただ余り祝われるのは慣れてなくて苦手なんです、、、」
それを聞いたメイリンは少し思案して、
「では、連絡先を交換してもらえますか?」
「来年は是非お祝いさせて下さい」
と言い出した。
流石にここまで言われて拒否するのは失礼に値する。
仕方なしに明日香は承諾し、スマホを取り出した。
「分かりました」
「でも高価な物とかは嫌ですからね、、、」
そうするとメイリンも嬉しそいにスマホを取り出した。
「フフフ、勿論です」
「これで神宮司さんと、ちゃんした友人になれますね!」
『うわぁ〜、元からこれが狙いだったの、、、?』
『やっぱりメイリン社長は曲者だ、、、』
明日香は上手く誘導された事に項垂れてしまう。
「あの、、、これからの予定なんですけど、、、」
と蓮香がおずおずと告げた。
「あ、ごめん、、、」
「その話の途中だったわね、続けて蓮香」
蓮香が話している途中だったのを思い出して、明日香は苦笑いを浮かべる。
これでは雅だけで無く、蓮香までメイリン社長を警戒してしまいそうだ。
折角知り合いになれたのに、そうなってはメイリンに申し訳無いと言う物である。
かく言う明日香は、若干メイリンを警戒しているので、人のことを言えないのだが、、、。
蓮香は皆が聞く体制にあるのを確認して話し出した。
「ここから車で15分程の所に、お姉様が好きそうなレトロなゲームセンターを見つけまして」
「メイリンさんも宜しければ、どうでしょうか?」
するとメイリンは少し思い出すような素振りを見せる。
「ひょっとして、猫ライズですか?」
少し驚いた様子の蓮香。
まさか大陸巨大企業の社長が、日本の小さな町ゲーセンを知っていたからだ。
「ご存知でしたか、、、」
「では行かれた事があるのですか?」
メイリンは両手を小さく横に振って否定する。
「いえ、行った事は無いです」
「ただ、私の様にレトロなアーケードゲームが好きな人間からすると、聖地のような所ですから」
「それで知っていただけですよ、有名ですしね」
そして笑顔で一同を見渡し嬉しそうに告げた。
「是非、私もご一緒させて下さいね」
「可愛いお嬢さん達と、大好きなゲームが出来るとは良い思い出になります」
メイリン社長は日本の事、もしくは日本のゲームに詳しいようだ。
どちらにしろ明日香と趣味が合う所があり、少し嬉しくなってしまう。
それに社長だと言うのに、気さくで親しみ易い。
『警戒してるのに、上手く懐柔されつつあるのでは、、、』
と明日香は心配になってしまう。
が、一度は行ってみたかった有名なレトロゲーセンに、胸を躍らさずにはいられない明日香であった。