明日香とサークルと社長令嬢
明日香は大学の近くにあるコインパーキングに車を停めた。
そして周りに同じ大学にの人間が居ないか確認しつつ、車を降り駐車場を離れる。
大学に着き敷地内を歩いていたら、顔見知りのイケメン男子に声をかけられた。
「神宮司さん、おはよう」
「今日は雰囲気が少し違うね」
明日香はその男子に笑顔を向ける。
「おはよう」
『誰だったかなぁ、、』
男子は好きでは無いので基本的に名前も覚えない。
その男子は明日香のパーソナルスペースぎりぎりまで接近すると嬉しそうに、
「いつもは綺麗で凛としてるけど、」
「今日は可愛らしくて色っぽいよ〜」
苦笑しそうになるが我慢して、明日香は普通に笑顔を作る。
「ありがとう」
そうして世間話をしながら教室に向かう。
途中で物凄く視線を感じたので、明日香は振り返ってて確認した。
すると少し離れた廊下の壁際に、気が強そうで綺麗な女子がこちらを見つめていた。
上から下までハイブランドで固めた格好をしていて、お金持ちなどこかの令嬢ぽい。
明日香のその様子に気付いたイケメン男子が、
「あ〜、2回生の武野内先輩だね」
「神宮司さん、知らないの?」
「有名人だよ」
明日香は首を傾げた。
聞いた事あるような、無いような、。
苦笑するイケメン男子は、丁寧に明日香へ説明してくれた。
彼女は武野内 蓮香と言い、武野内芸能プロダクション社長の娘らしい。
そしてこの蓮香さんは学生をしつつ父の仕事を手伝っているとの事だ。
スカウトやマネージメント、プロデュースと中々に忙しいようだ。
その蓮香に見つめらるた明日香。
イケメン男子は、ニタリと笑む。
「武野内さんに見初められたら、芸能への道が開けるみたいだよ〜」
「実際、モデルやらタレントのスカウトされた娘もいるしね」
全く興味無さげに歩き出す明日香。
「そう、、私には関係ないかな」
「行きましょう」
さっさと行ってしまう明日香を見て、蓮香は声をかけ損なった為か名残惜しそうにしていた。
イケメン男子は再び苦笑して明日香の後を追う。
「神宮司さんは、そんな所も魅力的だよね!」
「ガツガツしてないって言うか、、サラッとしてる所が」
イケメン男子のおべっかを笑顔で聞き流し、明日香は足早に教室へ向かった。
教室に着き教壇傍にある出席管理用のICカードリーダーに、学生達が次々に学生証をかざす。
明日香も学生証を認識させた後、1番後ろの席に座った。
イケメン男子は教室に着くと離れた席に着く。
後で知った事だか、男女問わず人気がある明日香を長い時間独占すると諍いの原因になるとか。
また講義直前までと、講義後のフリーな時間しか明日香に話しかけてはいけないらしい。
それは授業の邪魔をされると露骨に嫌な顔を明日香がするからだ。
本人は自覚していないようだが、。
故に明日香に好意がある人間は、嫌われない様そして周りと争わず、明日香に興味を持ってもらう為チャンスを伺うのだった。
遅刻ギリギリになって桜が教室に到着する。
そして慌てて学生証をICカードリーダーにかざす。
苦笑しながら桜は明日香の傍の席に座ると、
「危なかった、、」
そんな桜を見て微笑む明日香。
桜の行動は1つ1つが何だが可愛らしいのだ。
だからついつい笑顔が漏れてしまう。
今日の桜の出で立ちはいつもと少し違った。
白いブラウスにコルセット調のアクセントが付いた黒いスカート。
裾は膝上で黒のニーハイを履いている。
だから絶対領域が出来上がっていた。
明日香が躊躇う事を容易にする桜。
しかも似合っていて非常に可愛い。
羨ましいばかりだ。
講義が始まり暫くすると、桜がメモ用紙をさり気なく渡して来た。
メモの内容は、
『午後に付き合って欲しい事があるの』
『大丈夫かな?』
明日香は逡巡する。
午後は自分のプライベートな時間が欲しい。
しかし下手に桜の申し出を断るのは何だが不味い気がした。
それは微妙に明日香のオフを桜が知っているからだ。
言いふらすような悪い娘では無いだろうが、気をつけた方いいのは確かだ。
だから明日香はメモの裏に「大丈夫」とだけ書いて桜に返す。
すると桜は一瞬だけ笑顔を明日香に向けて、また教壇の方に視線を戻した。
午前中の講義と授業を済ませて桜と共にそそくさと教室を出る明日香。
のんびりしていたら人気がある二人なので、すぐに人が集まって動きがとりにくくなってしまうからだ。
桜に手を引かれて明日香はまず購買に到着する。
昼食を買う為だ。
少し早めに来たので余り混んでいない。
混みだす前に手早くパンを2種類とコーヒーを買う。
桜はサンドイッチと菓子パンとイチゴミルクを買ったようだ。
昼食のチョイスまで可愛らしい、、。
そして明日香は再び桜に手を引かれる。
連れていかれた場所は、サークルや部活の部室が集まる旧校舎だ。
総合芸術学部がメインの大学なだけに、殆どがインドアな部活やサークルばかりだ。
それでも体育会系はいくらか存在する。
嗜む程度の野球サークルや、ガチ系のビリヤードサークルやボウリング部などがそうだ。
これらサークル部室のどこかに連れていかれると明日香は身構えた。
何故なら、部室に連れていかれるという事は、そのサークルや部に勧誘されると同義なのだから、、。
溜息が出そうになる明日香はグッと堪えた。
『以前も色々勧誘はあったけど、、まさか新見さん伝えとは、、』
桜が立ち止まった場所は”エンタメサークル”部室の前だった。
エンタメサークルとは、エンターテイメントサークルである。
多種多様に渡る娯楽を研究するサークル、、、と以前、誰かに説明されたな、、と明日香は思い出す。
桜は扉をノックして、そのまますぐに扉を開けた。
「新見で~す、お疲れ様です~」
部室に入ると割と広い部屋で、中央に大きめの長机が2つ引っ付けて置かれていた。
机の周りにはいくつもパイプ椅子が置かれており、窓際のパイプ椅子に1人の女性が座っている。
それは午前中に見かけた、あの気の強そうなお嬢さん、”武野内 蓮香”であった。