明日香の特技(2)
明日香がカラオケ機材の音響を確認すると問題無さそうであった。
逆にスピーカーやマイクの品質が良くて驚いた程だ。
流石、高級ホテルである。
機材や音響のチェックは済んだので、後は連動させているスマホアプリから曲目を送信するだけだ。
明日香が選んだ曲は、月城レインのwinter memories。
月城レインの冬の代表曲で、クリスマスソングとしても有名である。
カラオケ機材に送信してモニターにそれが表示されると、一同から「おお〜」とどよめきがあがった。
それは名曲ではあるが、カラオケで歌うには難度が高く、一般的には聴き専の曲だからだ。
イントロはピアノで静かに始まる。
そして良く通る澄んだ明日香もとい、雨音の声が歌を紡ぎだす。
「初めて出会った日を、今でも思い出すよ」
「はにかむ貴方は恥ずかしそうに、なかなか目を合わせてくれなかったね、、、」
「そんな貴方の仕草をいつの間にか、切なく愛おしく感じるようになっていたよ」
「あの頃が、とても懐かしく思えるね、、、」
「そして巡る季節が何度も私達を駆け抜けてゆく」
「街を銀色に染める時も、私の体温で貴方を暖めてさせて、、、」
「我儘な私で迷惑ばかりかけるけど、ずっと傍にいさせて欲しいよ」
「貴方は話してくれたね、未来の展望や目標を」
「それはとても真っ直ぐで誠実で、私には眩しく感じる」
「過ぎ去った誤ちを許せる時が来るなら、、、」
「そう思えば思うほどに、涙が零れる」
「街を銀色に染める時も、私の体温で貴方を暖めてさせて、、、」
「我儘な私で迷惑ばかりかけるけど、ずっと傍にいさせて欲しいよ」
この曲は恋愛をした事が無い明日香には、理解し難い気持ちが綴られている。
恋人同士が何年も寄り添い、変化する気持ちを歌にした物だからだ。
だが今の明日香には、少しだけ分かるような気もする。
大好きな桜、蓮香、雅が傍に居て、この先何年も連れ添えば、こんな気持ちになるのだろうと想像した為だ。
だからそんな気持ちを歌に込めて唄う。
そしてそのまま大サビを歌いきり、曲が終了する。
一瞬の静けさの後、一同から一斉に拍手が巻き起こった。
「素晴らしい!」
「神宮司さんは、本当に一般の人間なのかね?」
と驚きを隠せない水春。
メイリン社長は明日香の手を取ると、
「こんな逸材を目の当たり出来るとは、、、」
「本当に私の所に来ませんか?」
「歌手として必ずデビューさせてあげますよ!」
などと目を輝かせて言い出す。
率直に断るのも不味いかと思い、どう対応したものか明日香は困ってしまった。
「えっ、、、いえ、、、」
明日香が戸惑っていると、もう一押しと思ったのか、
「決めました、今日は神宮司さん達と過ごさせてもらいましょう」
「もう少し貴女の事を知りたくもありますし、私の事も知って頂きたい」
とメイリン社長がと突拍子も無い事を告げる。
「ほぁ?!」
と余りにも突然で滅茶苦茶な展開に、明日香は変な声が出てしまう。
これには桜がツボにはまったのか吹きかけた。
「ぶっ!」
蓮香も苦笑してしまっている。
一方、雅は不機嫌そうに明日香に抱き着いて来ると、メイリン社長へ言い放った。
「駄目ですよ! 明日香お姉様は私達のものです!」
「メイリンさんには、あげません!」
するとメイリン社長は雅のご機嫌を取る様に、
「取ったりなんかしませんよ?」
「もし神宮司さんが私の元へ来てくれるなら、貴女や新見さん武野内さんも一緒に来ればいいし」
「纏めて私が面倒を見てあげますから」
少し考える雅。
「う~ん、、、」
「そうですね、、、それなら私は構いません」
『良いのかよ!』
『私の意思は?!』
と慌ててしまう明日香。
そして若干蚊帳の外に居る水春は嬉しそうな顔をしていた。
『フフ、、、ターゲットが私から神宮司さんへ、、、』
『タイミングを見て撤収させて貰おうかね』