明日香の特技(1)
水春を助けるために、嘘の面接をさせられる羽目になった明日香達。
そこで特技を訊かれたのだが、明日香はどう答えようか困ってしまった。
『ゲームは得意だし、魔人戦線のファンって事も言った方が良いのかな、、、?』
『あと歌も得意だけど、、、』
そう明日香が逡巡していると、桜が勝手に話し出した。
「明日香さんはゲームと歌が凄く上手なんですよ~」
「魔人戦線3だっけ?」
「あれなんかトッププレイヤーですよ~」
と明日香が躊躇った事を言ってしまう。
これには水春だけでなくメイリンも驚いた表情を見せた。
「こんなに美人でしかも歌まで得意とは、、、」
「是非その歌声を聞いてみたいものですね」
などとメイリン社長がが言い出し、明日香は焦ってしまう。
別に歌うのは構わないのだが、早く撤収したいであろう水春を思うと、時間が伸びて申し訳ない気持ちになる。
心配そうな表情を水春に向ける明日香。
すると水春は笑顔を浮かべて、
「私も神宮司さんの歌声を聞いてみたい」
「君が歌ってもいいと言うならだが、、、」
と安心させるように言った。
急に歌って欲しいと言われると戸惑ってしまう。
別に歌手と言う訳でも無いのだ。
ライブ配信でモニターを前にして歌うのは慣れているが、人前でとなると話が違ってくる。
「私も久々に聞きたいなぁ〜」
桜がわざとらしく煽ってきた。
「って、こないだカラオケで歌ったでしょ、、、」
透かさず明日香が突っ込む。
そんな2人の様子を見て水春と蓮香が苦笑するしかなく、側から見れば最早漫才である。
極め付けに雅が、
「私は明日香お姉様の歌声を直接聞いた事が無いので、出来れば歌って欲しいです」
懇願するように明日香へ言うものだから無下には出来ない。
しかも上目遣いなのだ、、、あざといが可愛い、、、。
仕方なく明日香は歌う事を承諾した。
「分かりました、ではどうしましょうか?」
「アカペラで歌いますか?」
「う~ん、どうするかな、、、」と思案し出す水春。
一方メイリンはソファーから立ち上がると、50インチほどのテレビモニターの方へ歩き出し言った。
「この部屋でならカラオケが出来ますよ」
「部屋にカラオケが有るって、何だかラブホテルみたいですね~」
特に悪気も無い様子で言う桜に、一同が吹き出す。
正直、明日香はラブホを使うような経験が無いので分からないが、経験豊富そうな桜が言うのだから多分そうなのだろう。
それに今ので明日香の緊張が少しほぐれ、いつも通りに歌えそうな気がした。
流石、ムードメーカーの桜である。
明日香もソファーから立ち上がり、テレビモニターの方へ向かう。
するとメイリン社長がテレビ棚の扉を開けて、中の機材を触り始めた。
そしてマイクを明日香に渡すと、
「では、これをどうぞ」
そう笑顔で告げる。
随分と期待されているようで、また緊張してきた明日香。
「え~と、、、どんな歌が良いですか?」
「定番で言えばバラードとかかな?」
メイリン社長は少し考える素振りをしてから答えた。
「そうですね、しっとりとして落ち着いた曲が良いですね」
それからウッカリした様子で水春を見やり、
「あ、、、勝手に決めてしまいましたが大丈夫ですか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「神宮司さんに早速歌ってもらいましょう」
水春は少し恐縮したように言った。
相手は巨大企業の社長なのだ、好き勝手されても中々文句も言えないものだ。
苦笑しながら明日香は頷くと、カラオケの機材を確認する。
良く使うメーカーの物で最新機種であった。
スマホアプリで連動させているので、明日香は自前のスマホで曲を検索し曲目を送信準備する。
それからマイクや音響確認をしておくのだが、
「音とか大丈夫なんでしょうか?」
「上下の階や隣の部屋に迷惑がかかりませんか?」
と心配になって明日香はメイリン社長へ尋ねた。
「心配いりませんよ」
「でなければカラオケ機材なんて設置しませんからね」
そうメイリン社長に笑顔で告げられホッとする明日香。
なら安心して音響確認をして歌えるというものだ。
そうして明日香はマイクテストを始めた。