ヤン・メイリン(2)
水春の自作自演で明日香達の面接をする振りをしたのだが、予想外の展開になってしまった。
それはEVOの社長であるヤン・メイリンが興味本位なのか、その面接に同席させて欲しいと言い出したからだ。
本来であるなら突発的に起きた面接に対して、メイリン社長にお引き取り願うところであったのだが、、、。
これには水春が逡巡する。
そして怪しまれると焦った明日香は、
「私は別に構いませんよ」
と言ってしまった。
きっと皆は「やっちゃった」と思っているに違いない。
しかし蓮香がフォローするように明日香に同調した。
「私達は面接して頂けるなら、どなたが同席しようが関係ありません」
「水春さんの判断次第かと、、、」
何て良い娘だろうか、、、。
桜と雅も慌てて同調し、コクコクと首を縦に振った。
水春は仕方なさそうに頷くしか無く、
「分かりました、、、」
「では取っている部屋で4人同時に面接しますので、同席を許可しましょう」
そうメイリン社長へ告げた。
するとメイリンは嬉しそうな表情を浮かべる。
何と言うか、凄く嬉しそうなのだ。
それ程、アイオーンの新作に興味が有るのか?
ひょっとしたら新作のイメージガールの面接に同席して、少しでもその情報を引き出そうとしているのかもしれない。
メイリンは明日香に軽く会釈すると、
「神宮司さんの様な綺麗なお嬢さんの面接に同席出来るとは、本当についてますね」
「私は綺麗な女の子に目が無くて、、、」
「っと勿論、新見さんや武野内さん、それに崇城さんも美少女で水春さんが羨ましい程ですよ」
などと言いだした。
「え?!」
となってしまう一同。
これが冗談なら一枚も二枚も曲者だが、本気だったら結構な変わり者である。
それにセクシャリティー的に目が無いと言う事なら、明日香は貞操の危険さえ感じてしまう。
更に言うと、先程の一瞬で全員の名前を覚えたのも凄いと言わざるを得ない。
正直、自己紹介など社交辞令のようなもので、覚えてもらう為なら名刺を渡すものだ。
詰まり流石、巨大企業の社長と言うしか無く、曲者なのは間違いないだろう。
兎に角、先ずは水春氏のホテルの部屋に行かなければ話が始まらない。
後は臨機応変に面接を装って場を凌ぎ、メイリン社長が帰ってくれるように誘導するしかない。
「部屋は今日の為にメイリン社長がとって下さってね」
「最上階のスイートなんだよ、、、」
と笑顔で語る水春の目は笑っていなかった。
蓮香がこっそり教えてくれたが、1泊10万~15万円程するのが一般的なスイートの価格らしい。
そう考えると、よっぽどの用事がないと水春氏はホテルを後に出来ない訳だ。
さぞ胃が痛い事だろう。
ホテル自体はタワーマンションの様に立派で、最上階までは高速エレベーターで向かう。
勿論スイートエリア専用のエレベーターで、最上階まで直通であった。
そして1階から最上階まで随分な高低差がある為、気圧で耳が不快になる明日香達。
特に雅が苦手なようで、
「うぅ~、、、」と言って明日香に抱き着いて来た。
何とも可愛らしい仕草である。
そんな雅の腰に片手を回して、
「どうしたの? 気分が悪くなっちゃった?」
と明日香が優しく訊く。
抱き着いたまま小さく頷く雅。
「こうして居れば大丈夫です、、、」
そうするとメイリン社長が目をキラキラさせて、
「崇城 雅さんだったかな、、、」
「君、小さくて凄く可愛らしいね」
「良かったら私の元で働かないかい?」
などと言いだす。
これには不満顔で雅は正直に反応してしまう。
「嫌です、、、私は明日香お姉様と一緒がいいので、お断りします」
巨大企業の社長に怯むことなく意思を口にできるのは、流石政治家の娘と言った所か。
傍で見ていた明日香は気が気でなかったが、、、。
と言うか、、、このメイリン社長は美少女愛好家なのか?
それとも所謂レズと言うやつなのか?
どちらにしろ色々やばい気がする明日香。
本当に一筋縄では行きそうで無い感じがして、明日香は内心で項垂れるのであった。