商談相手は大陸大企業(2)
水春はEVOからのヘットハンティングに対して、明白な拒否の意思を示そうとしない。
何か弱みでも握られているのだろうか?
兎に角この場をあやふやにして逃げ出したいのは確かなようだ。
「EVOは世界的な大企業ですから、」
「誘いを断るのは後々怖いですよね」
と明日香が水春に言うと、少し違う様子だった。
「いや、、、それも無くはないのだが、、、」
「きっぱりと断り難い理由があってね、、、」
そう困った表情で水春が答えたのだ。
「そこまで仰るのなら、その理由は教えて頂けるんですよね?」
業を煮やしたのか、雅が少し不機嫌そうに水春へ尋ねた。
苦笑する水春。
「まぁ隠す事でも無いし、この業界では知ってる人は知ってるしな、、、」
そう言って訳を話す口火を切った。
「私はねゲームの制作を社内ベンジャーで行っているんだよ」
「アイオーンエレクトロニクスは、そんなに大きい会社じゃ無いからね」
「ゲーム制作の予算は外部からなんだ」
社内ベンジャーとは聞き慣れない言葉である。
水春氏の説明によれば、アイオーンエレクトロニクス社は、今でこそ中規模程度の会社だが少し前までは零細企業であったらしい。
だがアーケードゲームの魔人戦線シリーズが、日本だけで無く海外でも人気が出てコンシューマ機でも移植された。
それにより利益が格段に上がり、株価も上昇し確固たる格闘ゲームメーカーの地位を築いたのだ。
そのアイオーンエレクトロニクスの出世作となったのが魔人戦線1であり、その制作予算が何と外部からの融資だと言うのだ。
ここまで聞いて明日香はピンッときた。
「ひょっとしてその融資をしたのがEVOだったと?」
そう尋ねると、水春は頷いた。
「本当はねクラウドファンディングで開発費を用意するつもりだったんだがね」
「それをネット上で呼びかけた途端、いの一番でEVOの社長から連絡が来たんだよ」
「私の才能に投資させてくれとね、、、」
とほんの少しだけ、はにかんで水春は言う。
それを聞いた雅は、訝しむ様に思案し呟いた。
「その投資ですけど、無償という訳では無いですよね?」
「何か条件が有ったのでは?」
雅の言い分は正にその通りで、この世での企業活動に無償など存在しない。
何かしらの見返りが無ければ、”投資”や”融資”や”援助”など有り得ないのだ。
分かり易い例えでは、企業が行うボランティア活動である。
結構な大金を動かしてまで行う事が有るが、それは企業の演出と言わざるを得ない。
つまりボランティアとして出資し、それによって企業に良いイメージを持って貰う見返りを狙っているのだ。
そしてEVOは水春氏に何を見返りに要求したのか?
「開発上で出来上がった技術の共有、、、」
「それと何か有れば、私のゲームデザイナーとしてのアドバイスが欲しいと言われていてね」
すんなりと答えてくれた水春氏。
要するにこれは融資してやったので、EVOが困った場合は無償でアイデアを寄こせと言う事であろう。
更なる狙いが有るとするなら、そこからEVOのアドバイザーや顧問に引き入れる魂胆なのかもしれない。
「結局のところはEVOに今は頭が上がらないし、かといって言いなりにもなりたくない訳ですね?」
そう明日香が言うと、水春は苦笑した。
「まぁ、そう言う事だ」
「ここまで話したのは君達だけだよ、、、」
「兎に角だ、私を忙しく見せてここらら逃がして欲しい」
「お願いできるかい?」
ここまで聞かされて、そう水春に言われてしまえば断れる訳が無い。
明日香はまるで執事のように、軽く首を垂れた仕草を見せて水春へ告げた。
「水春さんの1ファンとして、出来うる限り協力させて貰います」
「乗りかかった船ですしね」
「そうか、有難う、、、」
「しかしその船が泥船だったりしても、怒らないでくれよ?」
と冗談交じりに礼を言う水春。
折角協力するのに失敗を暗示するような事は言って欲しくないものである。