商談相手は大陸大企業(1)
水春からの依頼を完遂する為に、明日香達はプールを出る事にした。
先ずは個室の更衣室でお着換えだ、
一方、水春は商談相手から逃げるように温水プールに来たので、ビジネススーツのままであった。
因って明日香達が着替え終わるまでホテルのエントランスにて待機である。
男である明日香が女性の水着に着替えられるように色々細工していた物を元に戻す。
そして手際が良い3人のお陰で直ぐに服に着替える事が出来た。
明日香達が私服に着替え終わって、エントランスで落ち合うと初めて明日香を見た時のように再び驚く水春。
「こうやって私服姿を見ると、また水着の時とは違った趣があるな、、、」
「皆、本当にモデルとかタレントさんでは無いのだよね?」
明日香は少しおどけたように答えた。
「一般人で唯の大学生ですよ」
「それは褒められてると解釈すればいいのかな~?」
「勿論褒めているんだよ」
と苦笑しながら水春は言う。
それから独り言のように小さな声で呟いた。
「これは本当に掘り出し物かもしれないな、、、」
明日香が良く聴こえなかったので、
「え? 何ですか?」
と訊き返すが、水春は「何でもないよ、、、」と笑顔を浮かべて言うだけであった。
水春が何を呟いたか若干気になったが、それ以上に商談相手が何者なのかが気になった明日香。
訊いてもいいのか迷っていると、ズバッと山岸が訊いてしまう。
何と言うか迷いがない、、、女性だが男前である。
「商談相手は、どのような方で?」
「差し障りなければ聞いておきたいのですが、、、」
「あぁ、そうだね、話しておいても問題無いかな、、、」
そう言って水春はエントランスのロビーに移動する。
そして疲れたようにソファーに腰掛けると、溜息をついて語った。
「エボリューション・テクノロジーグループという大企業だよ」
「ゲーム制作会社では世界の四皇と呼ばれているね」
明日香はその企業名を聞いて驚愕した。
エボリューション・テクノロジーグループ、、、略してEVO。
ゲーム制作だけでなく、電子部品やIT機器の製造販売を手掛けている誰でも知っている大陸の巨大企業だ。
それを踏まえると水春氏が相手方を邪険に出来ないのが理解出来た。
「今を時めく水春さんが、そんな大企業にヘッドハンティングされるのは当然でしょうね、、、」
「やっぱり偉い方が引き抜きの交渉に来たんですか?」
とついつい興味本位で明日香は尋ねてしまう。
いつもなら他人にそれ程興味を持たない明日香だが、水春氏なら話が違った。
好きなゲームのプロデューサーであり、水春氏の動向によってナンバリングの次回作や新作の行く末が決まってしまうのだから。
もし引き抜かれて大陸に渡れば、明日香が大好きな魔人戦線の続編は開発されないだろう。
水春氏の躍進を考えると引き抜かれる方が良いだろうが、ファンとしては複雑な所であった。
水春は困ったように頭を掻く。
「あぁ、、、社長が直々に来られたよ、、、」
「しかも直接引き抜くような交渉はしてこないんだ」
「EVOに来れば報酬は倍以上、待遇も取締役とプロデューサーは確定、好きな物を作る予算の用意、、、」
「そんな話をしながら綺麗なコンパニオンにお酌をされては、中々逃げれなくてね」
訊いてもいない事を喋ってくれるとは、随分ストレスが溜まっていたのかもしれない。
これには明日香も苦笑するしか出来なかった。
それにしてもEVOから水春氏への待遇は破格と言わざるをえない。
何故、水春氏は嫌がっているのだろうか?
本人はどう見ても引き抜きに対して、断りたいようだが、、、。
すると黙って聞いていた桜が不思議そうに水春へ訊いた。
「凄く良さそうな待遇なのに断りたいんですよね?」
「もったいないなぁ~」
水春は苦笑いを桜へ向けた。
しかし「うん」とは言わない。
そう、水春は商談相手から逃げたいと言ったが、引き抜きに対して断りたいとは言っていないのだ。
何か理由がありそうである。