予想外の出会い(2)
明日香が高級ホテルに来ている理由を訊くと、水春氏は答えに少し窮した様子であった。
『訊いたのは不味かったかな、、、』
そう明日香が思った時、水春が溜息をついた後、話し始めた。
「実はね、接待を受けていてね、、、」
「要するにヘットハンティングだよ」
端的過ぎて要領を得なかったが、補足するように詳しく説明してくれた。
元々このホテルには商談で訪れたらしい。
だが先方の目的は水春氏を引き抜くのが目的だったようで、高級ホテルで過剰な接待を受けてウンザリしていた所だそうだ。
『部外者に話して良い内容なのだろうか、、、?』
明日香は心配になったが、勝手に喋られたのだから仕方ない。
なら乗りかかった船である、聞けるところまで伺いましょうかと腹を括る。
明日香は冗談ぽく話を切り出してみた。
「でもこんな所で油を売っていていいんですか?」
「商談相手が血眼になって探してるかもしれませんよ?」
すると嫌そうな顔をしてから小さく笑い出す水春。
「全くその通りだね、、、」
「一応重要な取引先ではあるのでね、邪険にもできないし、、、」
「何か他に重要な事があって撤収出来れば良いのだが」
そして明日香達4人を水春は見渡す。
う~ん、と何か思案すると、
「これも何かの巡り合わせだろう」
「もし迷惑でなければ手を貸してもらえないかい?」
「勿論君達を拘束するのだから報酬は支払うよ」
などと言いだした。
これには突然現れた山岸が待ったをかける。
「申し訳ありませんが、そう言った事は私を通して頂きませんと、、、」
いつの間にか自分のは背後に立っていたスーツ姿の女性に驚く水春。
「私は”今”は彼女達のマネージャーみたいなもので、山岸と言います」
「何か彼女達に依頼したい事が有れば、私にお話し下さい」
そんな水春を他所に要点だけを山岸は伝えた。
少し呆気に取られていたが、直ぐに気を取り直し山岸にお辞儀をする。
「これは申し訳ない、、、私は水春です」
「アイオーンエレクトロニクスというゲーム制作会社の取締役とプロデューサーをしています」
すると透かさず山岸が名刺を水春に差し出した。
慌てて水春も懐を探すと、何とか名刺入れを見つけ山岸に差し出す。
この感じを見ると余り商談は慣れていない様子に見える。
なら接待など、するのもされるのも嫌なのかもしれない。
元々、水春氏はゲームエンジニアとして有名な人物であり、ビジネスマンと言う訳では無いのだろう。
そうこう明日香が考えていると名刺交換が終わった様で、山岸がこちらを見つめて言った。
「取り合えず内容を伺う前に、明日香さん達の意思を確認しておきましょう」
「どうしますか? この方のご依頼受けますか?」
桜は二つ返事で答える。
「明日香さんが力を貸したいって言うなら、私は構わないよ~」
蓮香と雅も、桜と同意見のようで何も言わず頷いた。
詰まり家長である明日香任せと言う訳だ。
これは責任重大である。
しかし水春氏は著名人なので、この依頼を受けて迷惑を被ったり、犯罪に加担するような事は無いだろう。
なので水春氏を手助けした所で問題も無く、報酬まで貰えるなら得という物だ。
その上、明日香としては大好きなゲームのプロデューサーであり、ゲーム界では憧れの人物なのだ。
そんな人と知り合いになれる良い機会でワクワクが止まらない。
上手くすれば次回の新作の話も聞けるかもしれないと言う打算もあった。
「私は水春さんのファンなので、困っているなら力添えしたいです」
そう明日香が伝えると、山岸が笑みを浮かべて水春へ告げた。
「では成立ですね」
「内容をお伺いしましょう」
「ですが、余りに突拍子もなくて怪しい内容でしたら、私が強制的にお断りさせて頂きます」
「ありがとう」
山岸の言い様は当然だが、少し威圧的だったので水春は苦笑する。
そして明日香達に手助けして欲しい内容を話し出すのであった。