予想外の出会い(1)
トイレを済ませてプールのBARカウンターへ戻って来た明日香と蓮香。
すると桜と雅が40歳代くらいの男性と和気あいあいな様子で会話をしていた。
その男性は少し神経質そうな様相だが、その自然な笑顔を見ていると人が良さそうに感じる。
しかし何処か見覚えがある顔で、
『会った事あるような無いような、、、?』
と明日香は首を傾げてしまう。
「ただいま」
そう明日香は告げて桜と雅の傍に近づくと、その男性はこちらを見て驚いた顔をした。
「お帰り~遅かったねぇ?」
「手間取っちゃった?」
と少し意味ありげに桜が言った。
『おいおい、止めて頂戴、、、他人が居る所で、、、』
『変に思われちゃうじゃないの、、、』
少し焦りながら明日香は内心でぼやく。
すると桜達と談笑していた男性は、そんな様子を気にした風も無く告げた。
「これはこれは、また綺麗なお嬢さんだね」
「皆さん友達同士かい?」
明日香がどう答えようか迷っていると、雅が少し考えてから代わりに答えた。
「私達は家族です」
男性は意外そうな表情を浮かべる。
「ほほう、姉妹だったのか、、、」
「それにしては似てないね」
「共通点は皆んな美人だと言うところか」
明日香はハラハラしてしまう。
自分達の関係が少々複雑で、余り他人には知られたく無いからだ。
こう言う時の為に打ち合わせしておくべきだったのだ、、、。
そうすると桜が嬉しそうに、
「やだなぁ〜、水春さん〜」
「美人だなんて、本当の事言っちゃって!」
とワザとらしく照れて言った。
『これは桜のボケなので放置しよう、、、』
『と言うか、この男性の事を"水春"って呼んだ?!』
明日香は聞き覚えの有る名に驚く。
そんな明日香に雅が抱きつく。
「私達は姉妹じゃ無いです」
「明日香お姉様のお嫁さんなんです!」
雅の発言に再び驚かされる明日香。
『いや、それ他人に話す事では無いよ!』
『勘弁して雅〜!!』
これには蓮香も悪い意味で驚愕の表情を浮かべる。
そして明日香と目が合い、苦笑いをした。
その上、バーテンダーのお姉さんも聞いていたようで、「ぶっ!?」と吹き出した。
水春氏はと言うと、「えっ?!」と呆気に取られた様子を見せる。
だが直ぐに真顔に戻ると明日香達4人を見渡し、
「ふ〜む、、、」
「何だか複雑な事情のようだから、聞かなかった事にしよう」
と言ってくれた。
流石、大人である。
雰囲気が気不味くなりそうなので、明日香は透かさず別の話題を振ることにした。
「え〜と、水春さんってもしかして魔人戦線のプロデューサー、、、」
それを聞いた水春は、嬉しそうな顔して少し驚いた。
「お!?」
「魔人戦線と私の事を知っているとは、ひょっとしてゲーマー女子かい?」
「こんな綺麗なお嬢さんにまで知って貰えているとは、光栄極まりないね」
才色兼備と大学生活で持て囃されて褒められ慣れている明日香だが、面と向かって綺麗綺麗と連呼されては逆に恥ずかしいと言う物だ。
それに少し申し訳ないような気がする。
何故なら明日香が本当は男であり、それを知れば水春氏は相当驚くに違いないからだ。
『まぁ、そこまで私が気にかける必要もないのだけどね、、、』
そう自嘲する明日香。
大学生活でも桜達以外の周囲の人間は、明日香の事を女性と思い込んでいるのだ。
偽って生活しているのだから今更である。
水春氏が言ったゲーマー女子と言う言葉に桜が反応した。
「そうなんですよ~、明日香さんはすっごくゲームが上手なんですよ~」
「私のD&D3の師匠でもあるんですから!」
これまた驚く水春。
「またマニアックなゲームのタイトルが出て来たね」
「D&D3ならアーケードゲーマーと言う事か、、、」
「何と言うか嬉しいね、一般の人間でコアなゲーム好きに出会えるのは」
そう言って屈託のない笑顔を見せた。
出会いは一期一会と言うが、まさか大好きな格ゲーのプロデューサーに会えるとは思わなかった明日香。
明日香こそ嬉しさが込み上げてしまう。
しかし、ふと不思議に思う。
水春氏は次回の新作に向けて忙しい筈だ。
どうしてこんな所に居るのだろうか?
気になってしまった明日香は遠回しに尋ねてみる事にした。
「軽井沢にはお仕事で来られたんですか?」
すると水春は少し言い淀んだ。
何か訳が有りそうな様子であった。