水面の美女達(2)
明日香の突然のカミングアウトに驚きを隠せない桜、蓮香、雅。
それは明日香が、泳ぎの練習どころか水に潜った事も無いと言い出したからだ。
普通の人なら20年も生きていれば、水泳の練習ぐらい一度はする筈。
例えば小中高と学生時分に水泳の授業が必ずある。
どれだけ水が苦手でも避けては通れない道なのだ。
なのに明日香は水に潜った事さえ無いと言う。
そんな明日香がにわかには信じ難い為、3人は驚いてしまったのだ。
おずおずと蓮香が尋ねる。
「ひょっとして、今まで全ての水泳の授業を欠席されたのですか?」
デリケートな話に繋がるかもしれないので、ダイレクトだが口調だけでも遠慮がちだ。
すると困ったような顔で明日香は答えた。
「うん、、、」
「子供の頃から女の子ぽいってよく揶揄われたのよ」
「それから身体を他人に見られるのが嫌でね、、、」
「だから水泳の授業は色々理由を付けて欠席してたの」
あぁ〜、やっぱり、、、と聞こえてきそうな表情を蓮香は浮かべる。
そして「そうですか、、、」と呟くと、それ以上は何も訊こうとはしなかった。
明日香に気を使ったのだろう。
しかし桜は違っていた。
明日香を心配するように優しく手を取り、切なそうに訊いたのだ。
「まさかイジメられたりしたんじゃぁ?」
そんな桜を窘めるように、蓮香が慌てて止めようとする。
「ちょっと桜さん!」
「そんなプライベートで繊細な事を訊いては、、、」
慌てる蓮香を他所に、雅も桜と似たような反応をした。
明日香へ背中から抱きつくと、
「お姉様をイジメた奴らを見つけ出して、あらゆる手段で報復してやります!」
などと怖い事を言い出す。
雅は金の力に物を言わせて本当にしそうである。
明日香の為に強引な手段に出て、犯罪紛いの事をしてしまったら目も当てられない。
だがその心配は杞憂なのだ。
明日香は後ろ手に雅へ触れ、
「心配しなくても大丈夫だよ」
「イジメなんてされた事無いから、そんな怖い事言わないで」
そう安心させるように告げた。
だが事実は違う、、、。
本当はイジメにあってしまい不登校になった現実があった。
しかしそんな事をこの子達に伝えて、悲しい思いをさせ気落ちさせることは無いのだ。
そして桜にも笑顔を向ける明日香。
「それに桜もね」
それを聞いた桜と雅は安心した表情を浮かべた。
「そっかぁ、、、なら良かった!」
「きっと昔から明日香さんは上手く立ち回っていたんだね」
「そうですね」
「こんな格好良くて綺麗なお姉様がイジメられる訳ないですよね」
桜や蓮香、雅にしても明日香に対する評価が高すぎる様に思えた。
『私は逃げてばっかりで、大した人間ではないのだけど、、、』
『そんな事を口に出したら3人に怒られそう』
余り自虐的だと、明日香自身の自己評価が低いと3人に諭されそうだ。
余計な事を言わずに黙っておこう、、、。
蓮香が少し残念そう言った。
「泳ぎの練習をした事がないなら、当然泳げませんよね?」
「私とした事が、、、選択を間違えてしまいました、、、」
「申し訳ありません、お姉様」
明日香はプールから上がり、淵に腰を下ろす。
「ううん、気にしないで」
「別に泳がなくても、皆でビーチボールで遊んだり出来るし」
「それに初めての経験で何だか楽しいよ」
「連れて来てくれて有難う、雅、、、」
配慮が足らなかった蓮香に、明日香はフォローどころか礼まで言ってしまう。
「明日香お姉様は、何て奥ゆかしくて優しいのでしょうか、、、」
「濡れてしまいそうです、、、」
そう言って蓮香は股間を抑えて少し前屈みになった。
『おおい!』
『濡れるのは冗談にしても、男みたいに前屈みになるのは止めて~!』
苦笑しながら内心で突っ込む明日香。
すると桜がわざとらしく蓮香と同じような恰好をして、
「た、確かに、、、」
「明日香さんの髪が水で濡れて、何だかすっごくエロく見えちゃうし、、、」
「私も濡れるのは吝かではないです~」
などと意味を理解しているのか、していないのか滅茶苦茶な言い方をする。
「じゃぁ私も!」
と真顔で前屈みになる雅。
『もう何なの?! この娘達は!』
と明日香は笑いを堪えるのに必死になってしまうのであった。