昔と今の桜
喉が渇き目が覚めてしまった明日香。
傍には桜が、明日香の胸に顔を埋める様に眠っていた。
お互い裸で抱き合って、いつの間にか眠ってしまい昨夜の記憶が少しあやふやである。
覚えている事と言えば、随分と夜の営みに励んでしまった事だ。
もう恥ずかしいと言う気持ちも殆ど無く、愛し合う者同士求め合った事に心が満たされていた。
桜を起こさない様にソッと身を起こし、枕元に仲居さんが用意してくれていたコップと水差しを手に取る。
コップに水を満たし、それを一気に呷った時、桜が突然抱き着いて来た。
「おはよぅ~、明日香さん」
「私にも一杯お水ちょうだい~」
と眠気眼で桜が告げる。
明日香は苦笑いしながらコップに水を注ぐと、
「びっくりしたじゃない!」
「危うく吹き出す所だったよ、、、」
そう言って桜に手渡した。
悪戯顔でコップを受け取る桜。
「ヒヒヒ、、、」
そんな桜を見て明日香は少しホッとした。
いつもの桜に戻っていたからだ。
別に昨夜の桜が嫌な訳では無い、、、。
只、いつもと違うので心配になってしまっただけだ。
でも気になるので明日香は訊いてしまう。
「ねぇ、、、昨日の桜は少し雰囲気が違ったけど、、、」
「何て言うか、格好良いというか」
「酔ってたからとか?」
「え?!」
と気まずそうな表情を桜は浮かべた。
明日香も気まずくなって、思わず愛想笑い。
「あれ?」
「ひょっとして訊くのは不味かった?」
桜はコップの水をグビグビと飲み干すと一息ついた。
そして苦笑いを明日香に向けて小さく首を横に振る。
「ううん、、、大丈夫だよ、、、」
そう言った後、恥ずかしそうに続けて呟く。
「あれはね、昔の私なの、、、」
「酔った時に稀にだけど、地が出っちゃうのよね」
昔の自分と聞いて明日香は余計に心配になってしまった。
何故なら今の桜が無理をして、明るくて人懐っこいキャラを演じてるのではと思ったからだ。
だからつい尋ねてしまった。
「無理してない?」
すると桜は自嘲するような、又はにかむような織り交ざった表情で答える。
「昔の自分はね、ほんと愛想が悪くって、自分勝手で強引で、、、」
「そんな自分が嫌で変わろうと頑張ったの、、、」
「初めは今みたいに上手く立ち回れなくて苦労したんだよ~」
「無理もしてたしね、、、」
そしてニカッと笑みを浮かべて明日香へ告げた。
「でも今はこの通り!」
「無理なんか全然してないし、多分これが本当の私だよ~」
『多分って、、、何てアバウトな、、、』
そう明日香は突っ込みかけて、ふと昨晩の桜の事を思い出す。
昨日の桜は、自分で言うような昔の愛想の悪い性格ではなかったと思えた。
どちらかと言うと、ハッキリしていて男前な感じだ。
もっと言うと、面倒見の良い少し気の強めなお姉さんと言った感じである。
そんな明日香の感想を桜に伝えると、
「あ~、、、それはね、多分だけど、、、」
「昔の私と、今の私が混ざっちゃったんだね」
「いわゆるハイブリットって奴ぅ~?」
若干うざい感じに答えられてしまう。
流石にうざいと面と向かって言うのは可哀そうなので、堪える明日香。
その代わり、
「なにそれ少しキモイかも、、、」
と言ってあげた。
「酷い~!」
「じゃ~キモイ奴に抱きつかれて、明日香さんもキモくなっちゃえ~!」
そんな意味の分からない事を言って、桜は戯けて明日香に抱き着く。
2人とも全裸のままなので、お互いに柔らかい肌の感触を伝え合う。
そして2人ともムラっと来て、キスをしようとしたその時、襖が少し開く音がした。
そうして10cm程開いた襖の間から、雅が顔を覗かせる。
突然の事にビックリして硬直する明日香と桜。
「もう朝ですよ、お姉様、桜さん」
「早くシャワーを浴びて来て下さい!」
そう少しだけ不機嫌そうに雅は言い放つ。
明日香が寝室に置いてある置時計を見ると、既に9時を回っていた。
『あ~、、、楽しみ過ぎて寝坊しちゃいました、、、』
などとも言えずに、
「は、はい、、、直ぐ行ってきます、、、」
と畏まった様子で明日香は返事をするのであった。