表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/134

雨音のRainチャンネル

雨音のライブ配信が0時丁度に開始された。



ゲームセンター・スーパースターで常連達とワイワイ楽しむのは至極の時間である。

だが、こうやって1人で活動する時間も必要で、明日香の人格を形成する根幹でもあった。



大学生の自分が本当なのか?

"雨音"を演じている自分が本当なのか?

そう考える事が最近増えてきた。



大切なものは全て"雨音"に集束されている。

でも演じているのなら、仮初めなのかもしれない。

そう想うととても切なくなった。



でも本当の自分を隠して、人の良い神宮司明日香を演じているのも確かだ。

どちらも仮初めなのか?

解消されない矛盾が明日香の中でいつも渦巻いていた。



そんな思いを振り払うように今夜も唄う。

まずは月城レインの隠れた名曲【clumsy】から。



これは両A面シングルで発売された片方の曲だ。

しかしこちらはミュージックPVも無く、一般的には余り注目されなかった。

タイアップも特に無かったのも原因かもしれない。



でも雨音はこの曲が大好きだった。

メロディーもさる事ながら、歌詞がとても共感出来るからだ。


昔からのファンやレインフリークに月城レインの名曲トップ3はと訊くと、必ずこのclumsyが上がるくらいに人気も高かった。

故に隠れた名曲なのだ。




ゆったりとした静かなメロディーが流れる。

そして雨音は歌を紡ぎ始めた。


「あなたから届いた手紙」


「何度も読み返し この町で暮らす日々」


「顔見知りも増えて 私は元気に暮らしているよ」


「あなたはどう? 元気でいるの?」


「答えの無い問いを繰り返す」


「沢山の出会いから 僅かだけど友達が出来たよ」


「上手に生きるのは やっぱり下手な私だけど」






唄い終わりカメラに向かって笑顔を浮かべる雨音。

「一曲目カバー、月城レインのclumsyでしたぁ〜」



視聴者のコメントを確認してしていく。

いつも通り好評のようだ。

アンチや荒らしも滅多に沸くこともない。

"雨音のRainチャンネル"は平和そのものだ。



そして雨音は雑談を始める。

コメントに返事をしたり、質問の受け答え、たわいもない日常の出来事を話したりする。



勿論、身バレするような詳しい事は話さない。

あとは今後の展望を小出しにして話したりもする。



コメントの中に少し気になる物を見つけた。

ユーザーネームは"華子"。

知らないユーザーだ。

コメントは「今日はライブ無いと思ってた! 嬉し〜!」

と言うものだ。



今夜は定期ライブ配信している曜日なので、これは変だ。

一昨日はゲーム配信で夜更かししてしまい、昨日はスーパースターで閉店まで居て帰りが遅くなった。

結果、夜更かしになった訳だが。



この辺りの事情を知っている訳でもあるまいに。

まぁ寝不足でも今夜のライブ配信はしたけどね!



その気になるコメントは他のコメントに流されてしまった。

わざわざコメント欄をスクロールさせて確認し、思案する程の事も無かったので放置する。



それからライブ配信は順調に進み、1時間程で終了した。

今夜は少し疲れたので続けてのゲーム配信は無しだ。



化粧を落とし服も元の部屋着に戻す。

顔にパックを貼って歯磨きをしつつ就寝の準備をする。

寝室を覗くと、桜がスマホを握りしめて熟睡していた。



就寝の仕度が済むと明日香はソッとベットに横になる。

桜を起こしてしまったら色々面倒そうだからだ。

そして仮眠はしたと言え、連日の寝不足の為か直ぐに明日香はまどろみの中に落ちた。






背中に何か温かくて柔らかい感触を感じ、明日香は目を覚ました。

妙に動きにくいと思い背後に目をやると、桜が明日香に抱きついていたのだ。



桜は巨乳な上にブラジャーをしていない。

キャミソールとワンピースを着ているだけなので、その胸の柔らかい感触が直に伝わってきた。



本来役得なところなのだろうが、別に好きでもない相手に抱きつかれても何とも思わない。

桜は可愛らしい女の子で魅力的ではあるのだが、。



かと言って明日香は男が好きな訳でも無い。

どちらかと言えば男が嫌いだ。

明日香自身、女性の格好をしているが恋愛対象は普通に女性なのだ。



こうなると見た目も相まって百合っぽく見えてしまう。

故に世間体が気になり明日香は恋愛に踏み切れないでいた。

正直、好きになる程の相手に巡り会えていないのもあるが、、。



スマホで時間を確認すると朝の6時になっていた。

起きるにはすこし早いが、桜の乾かしてある服の事を思い出し静かにベットから起きる。

そしてタオルケットを桜に掛け直してあげた。



起こさないようにゆっくり寝室を出て、明日香は脱衣所に向かう。

室内用の物干しに掛けてあった桜の服は、綺麗に乾いていた。

丁寧に畳んで脱衣所の棚に下着も纏めて置いておく。



明日香は寝起きにシャワーを浴びる習慣がある。

桜が起きる前に済ませようと思い、一旦脱衣所を出て衣装部屋に向かう。

今日、大学に来て行く服を選ぶ為だ。



お洒落や洋服が大好きな明日香は、洋服専用の部屋を設けている。

そこには洋服だけでなく、靴やアクセサリーなども沢山収納していた。



今日は少し背中とデコルテが出るワインレッドのワンピースを選ぶ。

裾丈は膝より上なのでニーハイでも履けば絶対領域の完成だ。



でも神宮司明日香のイメージには合わないので、黒のストッキングに黒のショートパンツを履く事にした。

上着は黒のロングカーディガンを選びバランスを取る。



靴はワンピースに合わせて、艶消しされたマットな赤いショートブーツをチョイス。

何気にハイブランドばかりだが、嫌味にならない様にそれが分かりにくい物を明日香は選んだ。



と言うか、ハイブランドでもそのロゴが分かりやすく入った物は絶対買わないようにしている。

はたから見ると自己顕示欲が強く見えて恥ずかしいからだ。



勿論ノーブランドや形が気に入れば安い服でも購入する。

気に入れば価格は関係ないのだ。


明日香的にはお金は贅沢するのではなく、選択と手段が増えると考えていた。

そして目的を達成させる為にお金は存在する、、そう明日香は極論している。



シャワーを手早く済ませて明日香は身なりを整える。

そのまま寝室へ向かい桜を起こす事にした。



ベットに腰をかけ桜の肩に優しく触れる。

「新見さん、そろそろ起きた方がいいよ」

そう言って軽く身体を揺する。



子供がぐずるように小さく唸る桜。

そうすると我に返ったのか桜は驚いたように目を見開いた。

「あれ?」


明日香は、そんな桜を見て苦笑する。

「起きた?」

「おはよう、、」



桜は慌ててベットから身を起こして、

「神宮司さん、、」

「そうだった、、泊めてもらったんだった」


バスタオルを差し出して明日香は笑顔を浮かべた。

「身支度しておいで」

「シャワー浴びるならこれ使って」

「その間に朝食用意するから」



桜は申し訳なくバスタオルを受け取ると呟いた。

「ありがとう、、」


そして立ち上がると寝室から出ようして、思い出したように明日香へ振り返った。

「おはよう、、神宮司さん」



1人とは違い慌ただしい朝に、苦笑して溜息をつく明日香であった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ