誕生石とエンゲージリング
蓮香から自身がデザインしたオーダーメイドの腕時計をプレゼントされてしまった明日香。
初めて貰う誕生日プレゼントに胸が高鳴ったが、それ以上に値段が半端無さそうで恐ろしくもあった。
文字盤の中にアクセントとして小さいが、幾つものダイヤが目に取れたからだ。
流石に金持ちは違う、、、。
このまま雅のプレゼントを開けてしまうと神経が擦り切れそうなので、桜のプレゼントを開ける事にした。
桜は明日香と金銭感覚が同じようなので安パイなのだ。
と言うか桜の実家の事など全然知らない事に、明日香は今更気付いてしまう。
しかし桜の親がどのようなものであろうと、桜と家族になる事には躊躇いは無い。
『でも挨拶には行かないと、、、』
などと桜のプレゼントが入った赤い箱を手に持ったまま、暫く止まっていた明日香。
これには桜が痺れを切らせる。
「ねぇ~早く開けて!」
「焦らされるのは好きじゃ無いの~」
そう言って桜は明日香の横で身体をクネクネする。
ついつい明日香は突っ込んでしまう。
「あ~もうっ!」
「いやらしい言い方をするな!」
嬉しそうに怖がる真似をする桜。
「いやんっ!」
相手してやると余計に調子に乗るのでタチが悪い。
溜息をついて取り敢えず手に持った赤い箱を開ける。
すると中にはイヤリングが入っていた。
黒く光沢のある5mm程の石が付いた銀細工の物だ。
何の石だろうか?
そう不思議に明日香がイヤリングを見つめていると、桜が説明してくれた。
「その黒い石はねキンバーライトって言う鉱石だよ」
「明日香さんの誕生日石で石言葉は"あなたを守る愛"なんだって!」
「守る愛か、、、何だか照れちゃうね、、、」
「ありがとう桜、大切にするね」
少し照れるのを堪えながら明日香は桜に告げる。
そうすると桜には珍しくし、しおらしい表情を見せた。
「うん、、、時々でいいから身に付けてあげてね」
そんな桜を見て明日香は不覚にもキュンとしてしまう。
そもそも桜は黙っていれば美人だし可愛いのだ。
ふざける癖が無ければ完璧だと言うのに、、、。
最後に雅からのプレゼントである白い箱を明日香は開けた。
中には更に小さなケースが入っていて、何となく見知った物である。
『これって指輪のケースだよね、、、』
明日香は少し嫌な予感がした。
雅の父は代議士で母は大企業の令嬢だ。
故に指輪なら高価な物の可能性が出てきてしまう。
そうして開けるのを躊躇っていると雅にジッと見つめられてしまった。
言葉に出さずに目で訴えるのが逆に怖い。
仕方なしに蓮香の時よりプレッシャーを感じながら明日香はケースを開ける。
中には黒い金属で出来たシンプルなデザインの指輪が入っていた。
予想とは少し違いホッとする明日香。
高価なダイヤやゴールドで無くて良かったからだ。
しかし蓮香の目利きで状況が一転する。
「それってひょっとしてタルタンですか?」
小さく頷く雅。
聞き慣れない言葉に明日香は首を傾げた。
そんな様子を見て蓮香が説明をしてくれる。
「お姉様は服飾系のデザインを学ばれてるんでしたよね」
「ならタルタンは馴染みが薄い筈なので知らないのは無理も無いです」
蓮香の話ではタルタンは希少金属の1つらしい。
その為、ダイヤ程では無いがタルタンを使った指輪はそれなりに高額との事だ。
流石、雅である。
只では済まないと思っていたが本当にその通りだった。
蓮香の腕時計もビビったが、雅の指輪にもビビってしまいとてもでは無いが価値を訊けない。
そもそもプレゼントに対して、幾ら掛かったのか訊く事自体失礼になるのだが、、、。
それにしても指輪の希少性は別として、明日香が好む派手さが無いシンプルなデザインなのは意外だ。
「雅は何故この金属でこのデザインを選んだのかな?」
明日香は不思議に思い雅へ率直に尋ねてみる。
雅はニッコリ微笑み明日香に告げた。
「明日香お姉様の衣装部屋には、ハイブランドも沢山ありましたがどれもシンプルでした」
「それに一見してブランド物と分からないのを好んでいるように思えたので、、、」
「それでこの指輪してくれたんだね」
「ありがとう雅、気に入ったよ!」
そう言って明日香は指輪を左の薬指に嵌めた。
サイズは驚く程ピッタリだ。
『さては私が眠っている間にサイズを測ったな!』
明日香が期待通りに指輪を左の薬指に嵌めたので、雅は満面の笑みになる。
「お姉様は本当に優しいですね!」
「雅がね、ちゃんと私の事を見て考えてくれたからだよ」
「それに"そのつもり"で指輪にしたんでしょ?」
と明日香は悪戯顔の笑みを雅に向けて言った。
すると少し恥ずかしそうに頷くと、雅は俯いてしまった。
"そのつもり"を暗にせがんだのが、自分で図々しいとでも思ったのだろうか?
恥じらう姿が何とも可愛らしい。
因みに"そのつもり"とは婚約指輪もとい結婚指輪の事だ。
中々のプレッシャーである。
そして拙くプレゼントの進呈が終わり、皆んなで楽しくケーキを食べたのであった。