そう言えば誕生日祝い
取り合えず精の付きそうな昼食を済ませる明日香達。
流石高級旅館の料理だけあって味は抜群であった。
しかも恐らくこれは蓮香がお願いして作って貰った物に違いない。
そう考えると色々と先の事に余念がないなぁ、、、と蓮香に感心してしまう。
それからデザートが運ばれてくるのだが、何とバースデーケーキだ。
何故?、、、首を傾げている明日香に、
「言ったじゃないですか、このプチ旅行はお姉様の誕生日も兼ねると」
そう蓮香が告げる。
今更思い出した明日香。
「あ、、、そう言えばそうだったね」
「マンションのリホームが済むまでの旅行だとずっと勘違いしてたよ、、、」
「それも合ってるけど、メインは明日香さんの誕生日祝いね!」
と桜が苦笑する。
続けて雅が急かす様に言う。
「さぁ明日香お姉様、火を消してください!」
明日香は言われるがままケーキの上に飾られたローソクの火を吹き消した。
「明日香お姉様、誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう! 明日香さん!」
「お姉様、お誕生日おめでとうございます」
3人が笑顔を浮かべて明日香へ祝いの言葉を告げる。
物心ついた頃から誕生日を祝われた記憶が無い。
言わばこれは明日香にとって初体験であった。
何だかとても照れく臭くて切なくて、そして凄く嬉し気もちで一杯になってしまう。
泣きそうになるが、それでは白けてしまいそうなので何とか堪えた。
すると次は脇村がそれ程大きくない紙袋を持って、明日香達の傍にやって来る。
そしてその紙袋から10cm四方の小さな黒い箱1つと、それより一回り小さい白い箱と赤い箱をテーブルに置いた。
「これは3人のお嬢様方からの明日香さんへの誕生日プレゼントです」
そう告げて脇村は自分のテーブルに戻ってしまう。
蓮香が少し申し訳なさそうに、
「勝手な判断で申し訳無いのですが、お姉様は祝われたりするのが余りお好きでは無いように感じたので、、、」
「ですから凝った演出は無しで、シンプルにバースデーケーキとプレゼントのみにしました」
「バースデーソングなんて歌われたら、、、嫌ですよね?」
とおずおずと明日香に尋ねる。
「う、うん、、、何だかごめんね、、、」
「する方は良いのだけど、されるのは照れ臭くって、、、」
苦笑しながら答える明日香。
そんな事をされたら感極まって本当に泣いてしまいそうである。
桜が明日香の前にプレゼントの箱を丁寧に置いていく。
「黒いのが蓮香ちゃんね」
「赤いのは私、そして白いのは雅ちゃんのね!」
3人とも明日香をジッと見つめて笑顔を浮かべる。
早くプレゼントを開けろと暗に言っているのだ。
『こ、これは下手な感想は言えないぞ、、、』
と3人のプレッシャーに明日香は顔が引きつりそうになる。
正に嬉しさ3倍、怖さ3倍である。
兎に角、1つずつ丁寧に開封する事にした。
先ずは蓮香のプレゼントである黒い化粧箱からだ。
どの箱も開ける事を考えて余計なラッピングは省いている。
『蓮香らしいな、、、』
そう思いながら箱を開けると、中には時計が入っていた。
綺麗なシルバーを基調に文字盤の周囲はピンクゴールドをあしらった腕時計である。
派手過ぎず、かと言って地味過ぎない絶妙なバランスだ。
良く見ると文字盤の中にダイヤが幾つも、、、。
蓮香が笑顔を浮かべて説明をし始めた。
「装飾デザインの勉強をしていまして、それで試しに作ってみたんですよ」
「凄くできが良かったので、記念の1つ目は是非お姉様にと、、、」
大学にはデザイン学科がある。
そこで蓮香は学んでいたのだろう。
しかしこれは個人が練習でデザインするような物では無い。
言い変えるなら個人がデザインした物をオーダーメイドした品と言える。
『掛かった金額を訊くのは怖すぎる、、、』
明日香はそう思いつつ笑顔を雅に向けた。
「ありがとう!」
「大事にいつも身に付けさせて貰うね」
その明日香の言葉に蓮香は大満足の様子である。
さて、後は桜と雅からのプレゼントだ。
明日香は意を決して開封に挑むのであった。