高級旅館の食堂
浴衣着替えた明日香達。
昼食は離れの部屋では無く、本館の食堂で取れるらしい。
と言う訳で明日香はちゃんとブラッジャーをさせられ、パッドまで仕込まされてしまう。
一応女子4人の宿泊となっているので建前は繕っておかねばならないとの事だ。
浴衣姿とサンダルで食堂に向かうと、思ったより小ぢんまりとした食堂スペースに明日香は驚く。
理由はそもそも団体客を持て成すような旅館では無いと言う事だからだ。
その為、1人当たりの客単価は1泊10万円を簡単に超えると蓮香に言われ、また驚いてしまった。
流石高級旅館である。
6人程座れるボックス席のようなテーブルに案内される明日香達。
こちらは壁際だが反対側のスペースはガラス張りになっていて中庭が望める。
そしてテラスにもなっていて和洋が織り交ざった絶妙なデザインに目を奪われてしまう。
テラスで食事も良いな、、、と思ったが昼間でも今は結構肌寒いので諦めておく。
夏には丁度良いのかもしれない。
蓮香の説明ではデザートがボリュームありとの事で、昼食自体は軽めに設定して貰ったらしい。
そう聞かされると昼食よりデザートが気になって仕方ないと言う物だ。
取り合えず2人1組でテーブルを挟んで向い合せに席に着く。
明日香の隣が桜で、向かいの蓮香の隣は雅だ。
すると丁度、山岸と脇村が連れ立って食堂へやって来る。
「良い感じのタイミングだったようですね」
「私達も昼食をご一緒します」
そう言って近くのテーブルに山岸が腰を掛け脇村もそれに倣った。
それから直ぐに食堂担当の仲居さんやって来る。
お冷を人数分置いた後に飲み物を聞かれた。
全員が満場一致でウーロン茶をチョイス。
流石、美容に気を使う女子は飲み物からして違うのである。
要するにウーロン茶は食事で摂った油を分解してくれるので、健康や太るのを気にする人間が選ぶ定石なのだ。
更に明日香はレモンサワーを注文した。
これには蓮香が少し驚いた様子で明日香に言う。
「明日香お姉様はお酒は大丈夫なんですね?」
「全然飲まれている所を拝見していなかったので、下戸かと思っていました、、、」
「偶にはお酒も良いかな~って」
「それより下戸って、、、若者が使う言葉じゃ無いよ、、、」
「そもそもその言葉の意味を分かっている人も最近は少ないのに」
と明日香は苦笑してしまった。
桜と雅が首を傾げて、
「げこ?」
「げこげこ?」
2人揃ってカエルのような真似をし出す。
明日香は桜と雅を指して笑う。
「ほらね」
蓮香は少し困った様子で苦笑いを浮かべて2人に説明をし始めた。
「げことは”下”と”戸”と書いて下戸と読むんですよ」
「これは古くからお酒があまり飲めない人の事を指して言うんです」
「逆にお酒に強い人は上戸と言います」
そして、
「由来を話すのはウンチクぽいし長くなるので止めておきましょう」
そう言って蓮香はお冷を一口含むと一息ついてしまった。
何と言うか蓮香は自分の事を良く分かっているな、、、と明日香は感心する。
蓮香はしっかり者で用意周到、だからこそ理論派思考で情報を多く知識として蓄えている。
こう言ったタイプはダラダラと自分の知識を語る癖が有ったりするのだ。
詳しく知りたい相手なら未だしも、会話のちょっとした流れで興味が無い事を永延と語られたら堪ったものでは無い。
蓮香がそうならないのは、周囲の人間に気配りが出来て、自分の行動と発言が他人にどう影響を及ぼすのか予測出来るからだ。
正直、自分には過ぎた”嫁”だな、、、と明日香は考える。
「!!」
今、蓮香に対して”嫁”と言う認識を持った自分に驚いてしまう明日香。
そして少し恥ずかしくなってしまった。
そう思う事が別に悪い訳でも無く、きっと蓮香も喜ぶに違いない。
でも明日香は今まで彼女や家族を欲しいなんて思った事が無かったのだ。
それが今では節操の無い男の様に心変わりしている。
そんな事を思っていると桜が頬を膨らませて明日香へ詰め寄った。
「あ~!」
「今、蓮香ちゃんの事を空気が読める嫁だな~とか思ったでしょ!」
ギクっとなる明日香。
『流石、桜さん、、、もはやエスパー並みに感が鋭い、、、』
すると雅が対抗するように、
「私も明日香お姉様の嫁になります!」
「空気読んだらなれますか?」
などと明日香にトンチンカンな事を問いかける始末。
桜も調子に乗って、
「私は空気だけじゃなくて、明日香さんの心を何でも読んじゃうぞ~!」
とニヤニヤしながら言い放つ。
「怖いよ~蓮香助けて~」
本当に怖くなった明日香は、苦笑いをする蓮香に縋りつくしか無かったのであった。