プロローグ(1)
Contradiction(仮)シリーズの第2編です。
その日は天気が良く少し日差しが強かった。
5月の上旬だが、だんだんと紫外線が強くなりお肌に気を使う女子には大変な時期だ。
「日傘持って来て正解だったかな、、」
とシックな装いの女性が呟いた。
その女性の出で立ちは、白いレースをあしらったブラウスに膝丈程の黒いスカート、ワインレッドの薄手のタイツ、高過ぎない黒のヒール。
そして少し大きめのショルダーバッグを肩にかけ、黒い日傘をさしていた。
シック(品が良い)とは彼女の為に有るような言葉に違いない。
妙齢の歳に見え、どこかのお嬢様のようだ。
彼女の名前は神宮司 明日香。
年齢は20歳で、今年大学の総合芸術学部に入った新入生だ。
18か19歳でないのは、訳あって1年間浪人をしていたからだった。
身長が170cm近くあり、ヒールを履いている為かそこいらの女子より頭一つ分高い。
髪型は背中まである黒くて真っ直ぐなロングだ。
そしてかなりの美形で、美人と言うより麗人と言った方がしっくりくる。
すれ違う人間が男女問わず、見惚れて振り返る程だ。
通う大学の近くまで来た時、明日香は後ろから声を掛けられた。
「神宮司さ〜ん」
明日香が振り返ると、そこには少しだけヤンチャそうな女子が立っていた。
その娘はギャル風のメイクで、長い髪をアップに纏めている。
活発そうな感じだ。
そしてお尻が隠れるくらい長いノースリーブのサマーセーターを着ていて、下に何も履いていない様に見えてしまう。
よく見ると白のショートパンツを履いていた。
サマーセーターも白なので、目の錯覚なのか一見するとボディーコンシャスっぽく、生脚も出しているせいで扇情的だ。
更にスタイルも良く胸も大きい。
きっと男性にモテるに違いない。
靴は可愛らしい黒のスニーカーだ。
黒い手提げカバンを持っているので色をどちらかに合わせたのだろう。
このいかにも大学生でリア充っぽい女子は、明日香と同じ学部学科の1回生で、新見 桜という。
歳は19歳で、明日香より1歳年下だ。
桜は人懐っこい笑顔で明日香を見ると、
「おっはー!」
「一緒に行こう」
『あざとい笑顔、、』
『私に媚びても意味無いのだけど、、』
と内心で呟くが、明日香はそんな事をおくびにも出さない。
そして笑顔で返す。
「おはよう」
特に許可を出した訳では無いのだが、桜が明日香に引っ付いてきた。
『私に何故引っ付く、、?』
と内心でボヤく明日香。
まぁ同じ大学に向かうのだから、別に許可云々は必要ないのだけども、。
桜の柔らかく暖かい二の腕の感触と、胸の弾力が明日香の腕に伝わる。
まるで恋人の様に桜が腕を組んで来たのだ。
明日香は困った様子で訴える。
「新見さん、、そんなに引っ付かれたら、、、」
桜は不満そうに口を尖らせた。
「いいじゃん〜、女の子同士なんだし〜」
そして悪戯っ子的なニヤケた表情で、
「なぁ〜に? ひょっとして照れちゃった?」
明日香は諦めたように溜息をついた。
「歩きにくいからだよ、、」
午前中の講義を済ませてお昼を迎える。
最近は手製のお弁当に凝っていた明日香だが、昨晩夜更かししたので睡眠時間を優先にした。
と言う訳で手ぶらである。
どうしようかと考えていると、同じ学科の男共が明日香に群がって来た。
まずチャラ男が切り込んでくる。
「神宮司さん、お昼よかったら奢るよ〜」
チャラいのに爽やかだ。
でも名前も知らない、、誰だったかな。
明日香は申し訳無い様子を前面にだして、
「実は予定と先約があって、、」
「せっかく誘ってくれたのに、ごめんね、、」
超絶美人の明日香に見つめられて照れたのか、チャラ男は目を逸らす。
「そっか、、じゃあまた今度誘うよ〜」
そう言うとそそくさと明日香から離れて行った。
明日香に群がりかけていた他の男子も残念そうに、
「今日は駄目そうだなぁ、、」
「用事あるなら仕方ないか、、」
と、色々小声で口々に呟くと離れて行く。
本当は予定や約束など何も無い。
断ったのは、正直ウザイし面倒だからだ。
それに男は嫌いだ。
男性不信レベルで嫌い。
だがそれを誰にも悟らせてはいないつもりだ。
でも、たまにお昼をご馳走になる時もある。
ある程度は、コミュニケーションを取っておかないと連鎖的に自分周辺の人間関係が悪くなるのだ。
例えば、モテる→常に断る→お高くとまって見える→女子に妬まれる→最終的に男子にも女子にも嫌われる。
こんな感じになる。
すると大学生活が色々としにくくなる訳だ。
思わせ振りな事は絶対にしない、、ここも大切だ。
こちらが興味を全然持たずアプローチもしないものだから、男子は"自分に興味を持ってもらう"為に頑張ろうとする。
しかし無理はして来ない。
強引な男は嫌われるからだ。
そしてそこにつけ込んでヒラリと躱すのだ。
人間関係を上手くコントロールして、自分の生活をし易くする。
それが明日香の処世術でもあった。
そんなに難しい事では無い。
相手の気持ちを洞察して、相手の要求と自分の要求がギリギリ妥協し合えるポイントを探るのだ。
最後はそれを実行するだけ。
しかし意外に難しいようで、明日香のように立ち回っているのは殆ど見ない。
それらしい感じの事は出来ても完璧ではない。
恐らく皆、自分の欲望や感情を完璧にコントロール出来ないからだ。
『コンビニ辺りで何か買ってどこかで食べるか、、』
そう思い教室を出ようかと明日香は席を立った。
すると朝の様に再び背後から声をかけられた。
「相変わらずだねぇ~、、神宮司さん」
朝と同じ声だった。