第九話 守護刀剣
ファルと共に廊下を走っていく。
宗二を見たディーグアは自然と笑顔になっていた。
それはディーグアが待ちに待った光景である。
「ソージ殿、寝坊は厳禁ですぞ」
「ごめんなさい。遅れた分は頑張ります」
宗二もディーグアの笑顔を見られたのが嬉しかった。
実はドレイッドも期待していたのか、少し口角が上がっていた。
「巨兵はもう1日までの距離まで来てる。さっさと行くぞ」
その顔を見られたのが恥ずかしいのか、ドレイッドは短く言い放った。
ファルはドレイッドの照れている顔を見て、ニヤニヤしている。
前の町に巨兵が現れたのが2日前の距離だった。今回は1日であることを気付いたが、今はそれ所ではない。
「それじゃあ、巨兵を倒しに行きましょう!」
一行はシェックアルの郊外まで出てきた。
巨兵と戦って安全な距離まで行くためには時間があまりない。
巨兵は今でもこちらに向かって来ている。
「あまりゆっくりとしている時間はありませんな」
「さぁ、ソージさん。私の背中に掴まって!」
ファルは子供をおんぶするかのような姿勢をとる。
高校生である宗二には少し恥ずかしい。
それでも、皆と足並みを揃えるためには必要なことだった。
ゆっくりとファルの背中に体を預ける。
「ちゃんと掴まっていて。でも、前みたいにおっぱいは揉まないでね」
「ごめんなさい!」
ドレイッドの視線が冷たく刺さる。
前回のは不可抗力であってわざとじゃない。
ファルが宗二をおんぶすると3人は凄まじいスピードで走り始める。
景色がどんどんと後ろに流れていく。
ものすごい風で髪が後ろに引っ張られる。
このスピードは自動車と競っても負けないくらいだ。
改めてこの世界の人達は身体能力が高いと思い知らされた。
太陽が真上に来たあたりで巨兵と対峙できる場所までやってきた。
ファルの背中から降りると、今までの感覚と勝手が違いふらついてしまう。
踏ん張って体制を元に戻す。
「後は任せましたぞ」
「お願い、ソージさん」
白いカードを手に持ち掲げる。
分かっている。
みんなの信頼を無駄には出来ない。
(今度は自分の番だ!)
「守護起動 守護機装 アディバイスッ!」
視界が漂白され新しい世界が広がってくる。
それは高所から見下ろした世界で、今までとは生きている場所が違う。
そして、眼前には倒すべき鋼鉄の巨人。
(手の震えは無い。前とは違うことを見せてやる)
宗二はレバーを握りしめ拳を敵の顔面を狙って降り抜く。
拳に当たるモノがある。腕に衝撃が走り、拳は割れるような痛みを覚える。
(当たった! 前より的確に殴れたはずだ)
相手も反撃とばかりに拳を振り上げてくる。
それは、あまりに巨大で視界を覆うと思うほどだ。
スピードは無い。よく見て躱せば問題はない。
(おかしい。前と明らかに違う)
巨兵の動きに違和感を覚えた。
以前は攻撃に対してもっとのけ反っていたし、ダメージを受けていた気がする。
今はこちらの攻撃をものともせずに反撃してくる。
見ていれば躱すことができるが、それだけではいつか腕が動かなくなってしまう。
拳を何度も巨兵へ叩き込む。だが、怯む様子はない。
宗二は気付いていないが、全力で拳を繰り出すことができていない。
無意識に痛いことを和らげようとして、結果相手にダメージが通らない。
そちらに気をとられていると、下から腹部へ向けて巨兵のブローが決まってしまう。
(っ!)
息が詰まる。呼吸ができない。
お腹を抱えるように体を曲げてしまう。
そこに、追い打ちのように後頭部への攻撃を許してしまう。
激しい衝撃が宗二の脳を揺らす。
意識を放しそうになる。
だが、ここで倒れるわけにはいかなかった。
次の攻撃が来るのが分かる。
このままでは避けることができない。
何とかしようと手を伸ばす。
そんなことで何とかなるとは思っていない。それでも手を伸ばす。
瞬間、手からピンク色の光が展開された。
その光は巨兵の攻撃を受け止めていた。
(痛くない? これって、バリアか何かなのか?)
攻撃を弾き、次は姿勢を整える。
アディバイスの力が分かると、気分が高揚してきた。
このアディバイスなら行けると。
次は自分の番だとばかりに拳を叩き付ける。
(いつも僕を引っ張っていってくれて、面倒を見てくれるディーグアさん)
また、拳を振るう。
(憎まれ口をたたくけど、何だかんだでついてきてくれるドレイッド)
連続で拳を振るう。
(一緒にいて僕を元気付けてくれる。そして、自分の嫌な部分を打ち明けてくれたファル)
止めとばかりに拳を振り抜く。
(みんなの気持ちに応えてみせる!)
連続で攻撃したため、息が上がってしまう。
相手はまだ倒れていない。
思っていた以上に攻撃が通っていない。
また巨兵が攻撃を仕掛けてくるが、こちらにはバリアがある。
そんなものは通じない。
はずだった。
(バリアが展開しない!)
あの時は必死だったから気付かなかった。
どうやってあのバリアを使ったのか分からない。
防御が致命的に待ち合わない。このままでは、こちらが倒れてしまう。
その時、風が吹く。
風が黄色く閃いた。
結果として、巨兵の攻撃は届くことは無かった。
目の前には、上半身と下半身が真っ二つに分かれた巨兵がいた。
何が起こったのか全く分からなかったが、すぐにその理由が分かった。
倒れた巨兵の先には黄色の剣士がいた。
両手を使わなければ振るえないような大きな剣。
身に纏う黄色の鎧は頭部、腕、肩、胴、腰、足と最低限守るべきものを守っている。
鋼鉄の兜から除く顔は球体。
どこを見ているのか分からないが、しかと宗二を見つめていた。
もう一つの守護刀剣がそこにいた。