第七話 仲間
バーメンズの住民からの声援を受けながら、宗二達は再び王都を目指す旅に出た。
巨兵を倒した後の歓迎は凄いもので、崇められるばかりでこちらから口を挟む隙は全く無かった。
このままでは旅に支障がでると危ぶみ、出発することとなった。
「ソージ殿申し訳ございません!」
町を出て十分に距離を取った後、ディーグアが白い髪を乱すかのごとく、頭を下げてきた。
何が起こったのか理解できない宗二はただうろたえるのみ。
他の2人もその奇行に動揺していた。
「な、何がですか? あ、頭を上げてください」
宗二の言葉に従い、ディーグアはゆっくりと頭を上げる。
その表情は後悔を滲ませた苦悩を表していた。
「巨兵発見時、ソージ殿に避難を勧めてしまったことにございます」
心当たりはあったが、それは間違いではなかった筈である。
ディーグアは正しい判断をした。
今でもそれは覆ることは無い。
「私は最初から出来ないものと決め付け、ソージ殿の意思を蔑ろにした事です。決して許されることではございません。この事、悔いても悔い切れませぬ」
勝手なことを言って、責められるのは自分だと宗二は思っていた。
現実は逆でその場の最善を取ったディーグアが一番自分を責めている。
これはきっと信頼関係が築けていなかった為のすれ違いであり、誰が間違ったということはない。
「僕こそ勝手な事を言ってごめんなさい。結果が良かったから無事だっただけで」
「いいや、私こそ」
お互いが自分を許せなかった。
信頼できる誰かが許さなければ、この場は収まらないだろう。
そう、誰かが。
「師匠、こんな奴に気を使う必要なんて無いですよ。やって当然のことをやっただけです」
口を出したのはドレイッドだった。
いつもの憎まれ口だが、今回は空気を読んでのことだった。
弟子が言うべきことではないので、ディーグアは人を刺す様な視線を送った。
ドレイッドの顔は青ざめ、視線が逃げている。
「馬鹿弟子が余計な事を言って本当に申し訳ない!」
「いえ、本当のことですから」
ドレイッドが犠牲になることでこの場は収まった。
その後、ドレイッドは地獄を見ることになるだろうが。
「はい、話が終わったら、食事にしましょう。今度は私が作ったので美味しいですよ」
唐突にファルが話しに入ってきた。
きっと、入るタイミングを計っていたのだろう。
バーメンズを発ってから結構な時間が経っていた。
ディーグアは護衛という立場から、街中で頭を下げることは出来なかったのだろう。
だから、今このタイミングだったのだ。
ファルの提案から、4人は鍋を囲むように陣取り食事を始める。
空腹を刺激するいい香りが鍋から立ち上っていた。
お椀には赤い色をした野菜スープが注がれる。
ひとくち食べてみると、トマトのように酸味のあるスープに、良く煮えた野菜の旨みが一緒になって舌を楽しませた。
「あ、美味しいですね」
「今、あとか言った。信用してなかったよね」
図星だった。
宗二は胸に痛みを感じつつも理由を口にする。
「えーと、ファルは運動が良く出来るじゃないですか。軽々と木の枝までジャンプしてましたし、走るのも凄く速いですし」
「つまり、そんながさつな私が料理なんて出来るわけ無いってこと?」
宗二は笑顔で答えた。
残りの2人も宗二に賛同して頷いている。
やはり、思うことは同じなのだ。
「しかし、ソージ殿。ファルラクスはスクライブですので、その程度の運動能力はありますぞ」
ディーグア言葉に意味が分からない単語が出てきた。
宗二の理解できていない様を見て、何かをひらめいたかのように手を打った。
「なるほど、ソージ殿はマーパロンでしたか! なるほど、今までのことに合点がいきましたぞ」
また理解できない単語が出てきた。
何気なく3人に視線を送って反応を見ようとする。
どうも3人は呆然自失といった感じだで、頭を抱えていた。
「マジかよ」という言葉が聞こえてきそうな空気が漂っている。
もう、食事とかそんな雰囲気ではなくなっていた。
「冗談ですよね……って師匠は冗談なんか言いませんし……」
ドレイッドが最も深く頭が下がっている。
余程ショックななのだろう。
「いい機会です、ここは皆の理解を深めるとしましょう。この程度の情報共有ではこの旅路を行くことは叶いますまい」
ディーグアは拳を握り締め、やけくそとばかりに伝令を出した。
自然と3人は頷きながら同意した。
確かに宗二は3人のとを知らないし、3人も宗二のことを知らない。
「基本ということで、人種の説明を行いますぞ」
「先ずは人種『マーパロン』についてですな」
「頭の回転が速く、計算、文部、偽政、などで活躍しておりますな。身体能力は低く、他人種に大きく遅れをとっております」
「ですが、人口の80%と数多くがマーパロンであり、こちらの能力を標準とされて使われておりますな」
「人言えば大抵が『マーパロン』を差しますぞ」
平たく言えば一般人を指しているのだろう。
その中に研究者、政治家などの特化した人も含まれているようだ。
その後、ドレイッドが説明を始める。
「正直、こんな事も知らない奴に呆れているが、今後支障をきたしても困る」
「師匠と俺は『ソリーヴァ』だ」
「武芸者として他の人種より優れている。武器を持たせれば5歳児でも他人種に負けることは無い」
「ただ、人口が最も少ない。だいた5 %程と言われている。詳しくは知らないがそれぐらい調べろ」
「『スクライブ』よりは頭がいい。だが、『マーパロン』に敵う者は少ない」
「まぁ、俺はお前より頭がいいがな」
とこどころ棘のある言い方だったが、宗二も概ね理解できた。
身体能力より武道に重きを置いている、達人に近いのだろう。
技術を磨いた末の達人ではなく、先天的に達人の素質が高い人種なのだ。
順番を決めていたかのように、ファルが口を開いた。
「最後は私が説明するね」
「さっきの話でも出たけど『スクライブ』っていう人種なの」
「文武はからっきしだけど、身体能力なら誰にも負けない。自分の身長ある岩だって持ち上げられるわ」
「肉体労働は大抵私達がやっているの。今も敵を探したり、大きな荷物を持ったりしてるしね」
「ただ、他の人と比べると頭が悪いのよ。道具の扱いもあまり理解できないし、文字の読み書きもかろうじて出来る程度ね」
「人口は少なめだから、大抵は『マーパロン』に従って働いているわ」
本来ならアスリートという言葉が似合うのかもしれない。
労働力として重宝されているので、あまりスポーツに触れることが無いのだろう。
次は宗二の番だった。
何を話せばいいか困ったが、とにかく説明するしかない。
「僕は『日本人』です。人種というには少し違いますが、特徴を言いやすいのでこういう表現をします」
「世界的に見ると小柄な部類に入ると思います。人によりますが、運動能力は決して高いとは言えない所があります」
「その代わり、手先が器用で細かな作業が得意といえます。独特な文化を持っており、他国とは違う分野で活躍しているのではないでしょうか」
「島国なので人口は1.5%くらいだと思います」
この世界のように人種で大きな違いがない為、意味合いが少し違うが特徴としては分かってもらえるだろう。
3人は初めて聞く異世界の人種にあまり理解が出来ていないようだった。
「ソージ殿は運動が苦手ですかな?」
「はい、苦手です。どちらかといえば、文学の方が得意だと思います」
文学とは言いすぎだったが、宗二は読書を嗜んでるので大きく外れてはいない。
だが、その言葉に3人は納得したくないという表情をしている。
「つまり、マーパロンのくせに、守護機装を操れるってのかよ……」
ドレイッドはあふれ出す感情を必死に抑えていた。
奥歯をかみ締め、手を強く握っているのがその証拠だろう。
その様子を察したディーグアは代弁する。
「ソージ殿、ドレイッドはディファーチ(召喚された町)の出身で、イジンに強く期待をしておりました。ソリーヴァだとばかり思っておりましたから、予想外のことに頭がついていかないのでしょう」
守護機装で戦った時、これから強くなる、素手だから弱いのだと思うことでドレイッドは自分を抑えているところがあった。
自分と同じ人種であり、将来に期待が出来るのではないか、と思う部分が多分にあり我慢してきた。
戦いにおいて能力が劣る人種に差別とも言える考えが、余計に憤りを感じさせている。
「僕のいた日本は安全で特に目立った危機はありませんでした」
宗二は日本について語り始めた。
自分がどれだけ温い世界にいたのか、自分が不適格者であることを伝える為に。
言ってしまえば楽になるから。
「武器を持って戦うということは無かったですし、素手の喧嘩すらしたことがありません。大抵の人は家を持っていて野宿することも無いです。勿論、人を襲う獣なんて今はいませんでした。そんな恵まれた環境に僕はいました」
宗二が語り終わった時、誰もが口を閉ざし辺りは静けさに包まれていた。
皆、何を話せばいいか纏まっていない状態だっただろう。
「よく分かりましたぞ、ソージ殿」
口を開いたのはディーグアだった。
「色々と語っていただきましたが、あまり関係ないですな。ソージ殿はソージ殿、自らの意思で守護機装を呼び出し、巨兵を倒して見せたではございませぬか。そのような剛の者に何の問題がありましょうか」
その言葉は宗二が求めていたそれとは違っていた。
「確かに人種により得手不得手はありますが、人種は違えど尊敬する人物は星の数。何の問題もありませぬな」
ディーグアは宗二に向けて口、角を上げ楽しそうに言っていた。
それはきっと心の内から出た言葉なのだろう。
ドレイッドは眉間に少し力が入っていたが、特に口を出すことは無かった。
「そうです。ソージさんは強い人です。それに、まだ食事の最中ですよ。お代わりはまだありますから、どんどんしてください。あと、ソージさんはもっと食べた方がいいので、お代わりあげます」
笑顔全開のファルは宗二のお椀を取り上げてスープを注ぐ。
再びお椀を渡されるので少し温くなったスープを口に運んだ。
この温さがちょうどいいのかもしれない。
「なら、私もお代わりをいただくとしよう。王都へはまだまだありますからな、体力をつけなくては」
ディーグアもお椀にスープを注いでもらう。
そして、笑顔は崩さず宗二の方に向いてきた。
その笑顔は信頼に繋がるものだろう。
この話から書き方を少し変えてみました。
読みやすくなると思います。
後、小説のジャンルをファンタジーに変更しました。
今までのが間違いです。
恋愛要素は少ないと思います。