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第六話 守護機装

バーメンズから遠く離れた平原に巨兵と対峙する純白のロボットがあった。

その姿は西洋の鎧。

それは騎士を連想させる。

頭部は兜によって完全に覆われている。

視界を保持する為か、瞳の部分は縦格子になっている。

大きめな小手が特徴といえる。


「これが、守護機装(ガーディアン)ですか、想像より力強い」


ディーグアは守護機装を見上げている。

その大きさに感嘆の言葉を口にしていた。


「守護機装ってとても綺麗なんですね」


初めて見る守護機装にファルは心奪われている。

その姿から、視線を外すことができない。


「チッ! こいつは失敗作だぜ」

「え? どういうこと?」


ドレイッドは苦渋に満ちた顔で苦言を発する。

ここは喜ぶべき場面だというのに、そう言うしかなかった。


「この騎士様、腰に帯びている筈の剣がねぇ」


ドレイッドに指摘どおり、守護機装は武器のようなものを持っているように見えない。

3人は守護機装の動向を見守ることしかできなかった。





―――白い光が弱くなってくる。

視界が晴れていくと、広大な草原が広がっていた。

その視界はあまりに高く、こんな風景は初めて見る。

宗二は辺りを見回すと、何か個室にいるような錯覚を覚えた。


(ここは、どこだ? 僕は守護機装を呼び出せたのか?)


気が付くと、左右に付けられたレバーを握っている。

足元にはペダルのようなものがあった。

これを使って動かせということなのだろうか。


落ち着いてくると、眼前に巨大な人影があった。

大きい。

今は視線が同じだが、風景と相まって凄く大きく見える。


(ビビッている場合じゃない。こいつを倒さないと)


レバーを動かしたり、ペダルを踏んだりして、どうやって操縦すればいいか確かめる。

レバーとペダルはあまり意味が無いようだ。

むしろ、自分のイメージが動かしている感じがする。

操縦装置はイメージしやすい為のものなのだろう。


巨兵は緩慢な動きでアディバイスに近づいてくる。

そうだ、武器。

巨兵を倒すのには武器がいる。


体のあちこちを触れたり、何か出てこないか確かめたりした。

何も無い。

あるのは拳だけ。

武器があるような気がしない。


巨兵が近づいてくる。

やけくそだ。

宗二は右手に持ったレバーを前方へ突き出す。

それと同時にアディバイスの拳がうなりをあげて拳を振るう。


強烈な金属音、そして、拳に走る激痛。

つい、苦痛が口から零れていた。


(な、なんだよこれ……。なんで、拳が痛いんだよ)


拳が痛くてズキズキする。

どうも、アディバイスのダメージを共有しているらしい。

ただの高校生だった宗二にとって、物を全力で殴るということ未知の領域だった。

だから、こんなに痛いのは想像を超えていた。


(殴るのってこんなに痛いか? これで目の前の巨人を倒せって?)


殴り合いの喧嘩なんて、したことは無い。

当然、何かを殴って壊したことも無い。

アディバイスに乗っているというのに、目の前の脅威に対して恐怖を覚える。


殴ったことで、巨兵は少しふらついた。

だが、すぐに体制を立て直していた。

ゆっくりだが、巨兵はアディバイスに向けて拳を振り上げる。

迫ってくる拳、それはあまりに巨大。

アディバイスに乗ったことで大きさは変わらないはずなのに、あまりに大きすぎる。


眼前に迫る拳。

アディバイスにとってはさほど大きなサイズではない。

しかし、乗っている宗二は違う。

どうあっても、170cmの人間に過ぎない。

その拳はあまりにも大きい。


「うわぁぁぁっ!」


絶叫。

拳を前に宗二は目を閉じてしまう。

そして、それから守るように腕を盾にして身を守る。


再び、激しい金属音。

殴られた腕が痛い。

痛いというレベルでない。

激痛によって腕をかばうような体制になってしまう。


巨兵のもう一つの拳はアディバイスの頭部に当たる。

次はもう意識を刈り取られるほどの衝撃を受け、今度は倒れてしまいそうになる。

それでも、何とか食いしばって耐える。


(痛い、痛い、痛い、なんだよ、これ。僕は何をしているんだ? どうしてこんな痛い目を遭っている?)


既に頭は混乱していた。

だが、分かることがあった。

この巨兵を倒さないと、自分が殺される。

自分の身を守らないといけない。


宗二は体制を立て直す。

それでも、巨兵はこちらへ拳を振り下ろしてくる。

よく見れば、そのスピードは遅い。

これなら、回避できるのではないか。


体を深く落として拳が通り過ぎるのを待つ。

そして、飛び上がるように、巨兵の腹部を殴る。

痛い、拳がいたい。

このまま続ければ、拳が潰れてしまいそうだ。


だが、ボディーブローは全く通じていない。

当然だ。

ロボットは呼吸をしないし、痛みも感じない。


(このままでは駄目だ。何か、弱点みたいなものはないか?)


一番壊しやすそうなのは、頭部だと狙いをつけた。

全身に対して頭部は小さい。

潰せるのではないだろうか。


立ち上がり、今度は頭部を目掛けて殴りつける。

駄目かと思ったが、その巨体が揺れる。

ここしかない。


アディバイスは拳を何度も頭部に叩きつける。

手が痛い、痛い、痛い、痛い。

その痛みに宗二は泣いていた。


それでもやらなくてはいけない。

逃げるわけにもいかない、相手も逃げない、やるか、やられるかのどちらかだ。

ならば、やるしかない。


そのうち、巨兵はその体躯を地面に倒れこんだ。


(今だ! 今ならもっと殴ることが出来る!)


アディバイスは巨兵に対してマウントポジションを取る。

そして、何度も顔面を殴りつける。


「うおぉぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁ!」


とにかく、必死だった。

腕が潰れても拳を叩き付けた。

もう、自分が叫んでいるのか、泣き喚いているのか、分からなかった。


いずれ、巨兵は動かなくなっていた。

頭部を見ると、完全い潰れている。

もう、見る影も無い。


殴っている間、呼吸を忘れていたかのように、息があがっている。

乱れる呼吸はしばらく治りそうに無い。

どんな格好であれ宗二は勝利を掴んだのだ。

それも、不安で拳をもう一回叩きこんでおいた。




―――2つの巨人が戦っていた様子を見守っていた人がいる。

宗二を護衛していた3人だ。

その壮絶な戦いは、とても勝ったなどといえるようなものではなかった。

凄惨で、幼稚で、低レベルで、それでも、悲痛なものだった。


巨兵が動かなくなった後、守護機装も動かなくなり、そのうち光となって消えていった。

その後には、宗二が倒れているだけだった。


「宗二さん!」


真っ先に動いたのは、ファルだった。

ディーグアとドレイッドは動くことができなかった。

それは、宗二に対してどのように接すればいいか、分からなかったらだ、


宗二の手は特に怪我は無い。

ただの痛覚共有だった。

だから、3人にはその痛みが分からない。





―――宗二は気がつくと、何かの乗り物に乗っていた。

何に乗っているか意識を戻すと、揺れている体を固定する為に目の前のモノに抱きついた。


「キャッ! ちょっと、ソージさん!」


どうやらファルの乳房を揉んでいた。

柔らかい感触が気持ちいい。


「ここは、何処なの?」


宗二の声は弱弱しく、虚空に向けて発せられていた。


「もう、しょうがないですね。ソージさん、安心してください。巨兵は倒しました。今は町へ戻る最中なので、休んでいてください」


落ち着いてきた。

そうだ、巨兵を倒したんだ。

守護機装を呼び出して、戦った、そして勝った。


痛い、手が痛む。

それだけじゃない。

巨兵に殴られた腕や頭部がズキズキ痛む。


(僕は、勝ったんだよな? 終わったんだよな?)


実感がなかった。

勝ったという実感が。


隣にはディーグアとドレイッドが走っている。

凄いスピードで走っている。

自動車にも劣らないスピードだ。。


「さあ、もうすぐ町に着きますよ」


町に着くのはあっという間だった。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


宗二は歓声に包まれる。 

町から歓迎されている。

こんな歓声、生まれて初めてだ。


「イジン様! ありがとう!」

「町を救ってくれて、ありがとう!」

「巨兵なんて、目じゃないよ!」

「やっぱり、みんなを救ってくれる!」

「これが守護機装の力だ!」

「おにーちゃん! すごいね!」



様々な人から、様々な年齢の人から、町全体から、祝福されていた。


(よかった。僕は助けたんだ)


その時、初めて自分が役に立ったのだと、実感できた。

そして、安心したのか、再び意識が心地よい眠りへと落ちていった。

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