第四十九話 救世
夜が明ける途中、まだ暗くも明るくもない空がうっすらと世界を覆っていた。
空気は澄み、空に雲はなく、これから朝日が差すことだろう。
仰向けに倒れている宗二にはそんな空が見えた。
背中には微かな草の感触がある。汚染地帯のどこかというわけではなさそうだ。
体の節々は鉛でできているかのように動かない。動かせるのは眼球くらい。意識が戻ったのもついさっきのことである。
どれだけの間こうしていたのかわからない。どれだけの時間が過ぎたのか、宗二にはわからなかった。
(空が綺麗だ……)
目を覚ました宗二が一番に思った事がこれだった。自分が何をしたのか、理解できていない。
(僕は世界を救った……のか?)
マザー1が爆破するのを見たわけではないし、宗二はただ自爆ボタンを押しただけに過ぎない。
辺りは静寂に包まれており、破壊が行われていない。それは、巨兵の破壊行為を止められたからこそだろう。
(何も変わっていない。空は深けそして明ける。何一つ変わっていない。これで終わったんだ……)
宗二は動かない体をそのままに瞳を閉じた。その瞼から涙が溢れてくる。
(僕はこの世界を救った。救ったんだよ。誰かそうだと言ってくれないかな。ファルでもいいし、レンさん、キシリエさん、最悪ドッドでもいいな)
溢れた涙が頬に流れる。一度決壊した涙腺は止まることはなく。
(この世界に来て、ずっとこの時のために頑張ってきた。嫌なことも辛いことも挫けたことも、全てこの為にだったのに)
世界を救った宗二の隣には誰もいない。世界を救ったはずなのに1人きり。
暫く空を見つめていると、太陽の光が辺りを照らしてくる。
(誰か、僕を褒めてくれないかな。こんなに頑張ったんだから、一言でもいいから、よくやったって言ってくれないかな)
次に宗二は大声で叫んでいた。
「誰か! 誰でもいい! 僕を! 褒めてくださいよ! 頑張って、頑張って、世界を救ったんですよ!」
誰にも届かないことを宗二は理解したまま、喉が痛くなるくらい叫んでいた。
一緒に戦ってきたキシリエ、レンは巨兵にやられてもういない。共に歩んできたファルとドッドは施設を破壊されて生存は絶望的。
「誰もいないんですか? 僕はこの世界に来て、役目を果たして、世界を救って、もう終わったんですよ……」
声は次第に弱くなり、最後には殆ど聞こえないものになっていた。誰からも返事はなかったからだ。
(もしかしたら、もう世界は滅びたのかな? 僕は間に合わなかったのかな? だから、誰もいない)
宗二の耳に聞こえてくるのは爽やかな風の音だけ。目を開ければ太陽が顔を出し、光に満ちていく。宗二に世界が健在であることを知らせてくる。
(家に帰りたい)
今までずっと隠していた言葉。
(もう、この世界にとって僕は用済みな筈だ。だから、家に帰して欲しい)
物語に憧れ、平凡ながらに充実した日常を送っていたただの学生に戻りたい。宗二はそう思うようになった。今まで一度も考えなかったし、口にもしなかった。
全てが終わったら、そんな事が頭をよぎるようになっていた。
「もう、帰っていいかな」
宗二の口から力なく言葉が漏れていた。
「駄目です。まだ帰らせません」
誰かの声が宗二の耳に届く。
宗二の顔を覗き込む人影があった。
「誰?」
「忘れたんですか? 酷いなぁ。可愛い可愛いファルラクスちゃんですよ」
聞き覚えのある声に宗二は目を見開いた。
そこには明るく笑うファルの顔があった。長い髪が宗二の顔にかからないように軽く髪を押さえている。
感情が嵐のようにざわめき、思考がうまく纏まらない。
「聞こえていましたよ。私が褒めてあげます。ソージくんは世界を救いました! よくできました!」
宗二の視界が歪んでいく。溢れる涙が視界を奪う。感情の高ぶりとともに次から次に涙が止まらない。
「ソージくんなら、世界を救ってくれるって信じてたよ」
宗二の顔にも涙が落ちてきた。ファルの瞳から涙が零れたのがわかる。
ファルはそっと、宗二の涙を拭った。自分の顔がよく見えるように。
「もう二度と会えないんじゃないかと思ってた」
ファルは宗二の体を抱きかかえると、そのままギュッと抱きしめた。
彼女の暖かさが宗二の体の痛みを和らげていく。その暖かさが心地いい。
「あー、何だ、その、恥ずかしい事言ってんじゃねーよ。とりあえず、よくやったよ、お前は」
宗二の視界には目を逸らしてばつの悪そうな表情をしたドッドがこちらに寄ってくる。
2人はマザー1の砲撃によって施設ごと無くなったはずだった。
「あの砲撃な。あの施設は地下……よくわからんが、地底にいたんだとよ。アレぐらいの攻撃じゃびくともしないらしいぜ」
ただの自分の思い過ごしと思い、宗二の体から力も抜けていく。
「そうだ! キシリエさんも、レンさんも無事……かどうかわからないけど、生きてるよ!」
自然と宗二の顔は笑っていた。今まで自分のやってきたことは無駄じゃなかったと思い知らされたから。
「覚えてる? マザー1が破壊されてもう1週間も経ってるんだよ。ソージくんは絶対生きてるって信じてた」
宗二にとって目を覚ましたのがついさっきだった。それだけ日が経っていることを宗二は知らない。
探すのが大変だったんだからと言うファルの言葉が聞こえてくる。
(よかった。僕は僕の世界も救うことができたんだ)
ようやく、宗二は心から笑顔を作れるようになっていた。白い歯を見せながら大きく笑顔を描いていた。
「じゃあ、移動! ちゃんとした所で休まないと、疲れてるでしょ」
ファルの言葉に自分の体が疲れているこということに思いがいった。疲れているから体が動かなかったのだと。
ファルは宗二の体を抱き上げると歩き始めた。
「やっぱり、こういうのは恥ずかしいかな……」
「今更じゃない。いつも私におぶられていたよね」
「でも、これは……」
宗二はお姫様抱っこされていた。背中におぶさるのは慣れたが、これは初めての経験で妙に恥ずかしかった。
「無理するな。今は甘えておけ」
ドッドからも諌められ、宗二は不承不承ながらもファルの好意に甘えることにした。
「じゃあ、戻ろっか。みんな、ソージくんを待ってるよ」
これで、宗二の冒険の旅は終わった。
世界を救うという最高の形で幕を閉じた。
最終章である4章が終わりました。
きっとここを読んでくれた読者はまたお会いしましたね。
ここだけ読んだ人は初めまして。
これで宗二はマザー1を倒し、世界は救われました。
4章はとにかくやりたい事を詰め込みました。気に入っていただけたら嬉しいです。
26世紀人の設定は連載当時から考えていました。上手く話に組み込めたでしょうか。
次回のエピローグにて最終回となります。
書きたい事はそちらに書きますので、エピローグの後書きを読んでくださいね。
以下は、改修後の守護者について補足します。
■サー・リタットディスター
騎士の英語、ドイツ語、ロシア語を組み合わせて格好良くしたのが、リタットディスターです。
改修後はさらに騎士の称号を与えたということで、サーを付けました。
■ゲッセン・カイ
この名前は某ゼノ○アスに登場するゼプツェ○が元。何度も繰り返すとゲッセンって聞こえませんか? 聞こえませんよね。
なんとなく和風になったので、改を付けただけです。
■アディバイス・アイギス
アテナなどの守備力高そうな名前にドイツ語の白を加え、ちょっと語感良くしました。
上記の通り、アテナを使っているので、アイギスを付け加えました。ちょっと格好良くなったのではないでしょうか?
どこかで公開したかった情報でした。
お付き合いありがとうございました。




