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第四話 見敵

夜が明けたのか、微かに辺りが明るくなる。

昨日はよく眠れなかった。

衝撃的なことが多すぎたのは間違いない。

それに、寝床の床が木の根などでごつごつしていて、横になっているだけで体が痛かったこともあるだろう。

宗二はガチガチに凝り固まった体をほぐしながらテントから外へ出た。


「おや、ソージ殿。あまり眠れませんでしたかな」


先に起きていたのか、それとも寝ずに見張っていてくれたのか、ディーグアは笑顔で宗二を迎えてくれた。


「ハッ! 野宿もできないとか、どんな世界から来たんだよ。昨日も虫程度で騒いでいたしな」


ドレイッドは相変わらず憎まれ口を叩く。

だが、ディーグアの視線に気圧されすぐにバツの悪そうな顔をして目を逸らした。


「おはようございますソージさん。今日もいい天気ですね」


何処からともなく現れたファルラクスは元気よく挨拶してきた。

歳は近そうなのに、こんな過酷な環境で平然としている。

その明るさは宗二の助けになっていた。


「おはようございます。皆さん」


宗二も出来るだけ明るく挨拶をする。

そんな虚勢は既に知れていることだが、そうしなければ気がすまない。


「さて、皆揃ったようですし、朝食にしますかな。昨日と同じ干し肉ですが」


ディーグアは干し肉を手に持ち微笑んでいた。

昨日、宗二が嫌な顔をしていたのを見ていたらしい。

苦笑いを返しておいた。


この干し肉、やっぱり不味い。

噛めば噛むほどゴムになっていく。

周りを見てみると普通に、むしろ美味しそうに食べている。

特にファルラクスはとても幸せそうな顔をしている。

この味がスタンダードなのだろうか。


「ソージ殿、この世界に不自由しているご様子、折角ですし何か聞きたいことはございませぬか?」


そう言われて、宗二はあることに気が付く。

何故このことを忘れていたのか。

とても後悔した。


「あの、あの町の人はどうなったんですか?」


宗二が救わなければならなかった町の人々。

救いを求めてその手を払われたのだ。

実際、窓の外で襲われている風景をこの目で見ていた。


「我々とは別のルートで避難しているはずです。まあ、ソージ殿を自分勝手に頼みの綱としていた人達ですぞ、自業自得というべきですな」


意外なことにディーグアは冷たく言い放っていた。

もしかしたら、ディーグアは召喚に反対していたのかもしれない。

それでも、避難しているのなら少し安心した。


「おい! 何なに救われたような顔してんだよ!」


ドレイッドが激しい様子で声を荒げる。

ファルラクスも突然事に驚いていた。

宗二が嫌いというより、純粋に怒りを覚えているようだ。


「避難せざるを得なくなったのはお前のせいだろうが! お前が巨兵を倒せば、誰も被害を受けなかったんだよ!」

「ドレイッド! 何を人のせいにしているのですかッ!」


ドレイッドは口を噤む。

心当たりがあったようだ。


「悪いのは巨兵のはず。町を守れなかった自身の弱さをソージ殿に当たるのは的外れだ」


痛いところを突かれたようで、ドレイッドはもう口を開かなかった。


「ソージ殿が気にすることではございませぬ」


ディーグアはこれ以上は食事が不味くなるからと、話題を打ち切った。


(ディーグアさんはああ言ったけど、ドレイッドさんがああ言いたかった気持ちも分かる。僕はそのために呼ばれたはずだ)


再び硬い干し肉を齧る。

この食料も貴重なはず。

腹を満たして気持ちを切り替えていかなくてはならない。


「表情が硬いですよ。もう少し、こう、笑ったほうがいいよ」


ファルラクスは心配してくれた。

落ち込んだ気持ちが顔に出ていたようだ。

宗二は出来る限り笑って見せた。



朝食が終わるとすぐに片付けを始めた。

宗二は何もすることがなく、準備が終わるのをただ見ていた。


「予定通りバーメンズを目指します」


ディーグアが先頭に立ち、後尾にはドレイッド、その間に宗二がいた。

ファルラクスは独自に動き、周囲を警戒している。


ドレイッドは明らかに不満そうな顔をして宗二を睨んでいる。

わだかまりは解けないようだ。



森の獣道を進んでいく。

同じ景色ばかりで、何処へ進んでいるか全くわからない。

方向感覚がおかしい。

そもそも、この世界の方向を理解していない。

もし、この2人とはぐれたら、もう町にたどり着くことはなく、ゲッシュトラッシュの餌になるのだろう。


「さて、道すがら守護機装(ガーディアン)についてお話しておきますぞ」


ディーグアは前を向いたまま話を始める。

その表情がわからず、感情も読み取れない。

だが、口調はいつにもまして真剣みを帯びていた。


「実は我々も守護機装についてよく分かっておりませぬ」


意外な言葉が耳に届く。

この世界ではもっと当たり前のもとして、存在しているものだと思っていた。


「具体的に知っている事は2点」


宗二は聞き漏らさないように意識を集中する。


「まず、1つ目。守護機装は巨兵と同じく鋼鉄の巨人です。あのカードがどうしてそうなるか分かっておりませぬ。ですが、実際にその姿を見たものがおります」


おそらく、ガーディアンはロボットなのだろう。

あの巨兵と呼ばれる鉄の巨人も。

だが、もう一つの可能性がある。


「あの、この世界には魔法ってありますか? もしくは超常的な力とか」

「ふむ、私が知っている限り、魔法は知りませんな。創作出てくる程度です。超常というのは、分からないですな」


質問に失敗した。

普段使っている力を超常として捉えるはずがない。

だが、魔法ではないことは間違いないらしい。

やはり、ロボットなのだろう。


「次に2つ目。守護機装は異世界の人間、イジンにしか扱えませぬ。これに関しても、過去の事例から間違いないですな」


そもそも、ガーディアンを呼び出すことができていないことから、間違いないだろう。

だが、これが分からない。

何故、異世界人にしか操れないのか。

人が操ることで、何かしら不都合があるのだろう。

その不都合とは一体なんなのか。

その謎はいま解けそうにない。



結局、バーメンズに到着するまで、最初の町を出てからまる2日かかった。

2日という距離は離れすぎているのか、そうでないのか判断できない。

だが、宗二にっとて満身創痍になるのに十分な期間だった。


「ソージ殿、ここがバーメンズですぞ。比較的小さな町ですが、補給には十分でありましょう。今日はふかふかベッドで眠れますぞ」


野宿で憔悴していたのは周知の事実だ。

宗二以外も結構疲れていたのか、少し表情が明るくなっていた。



バーメンズの町は小さいといわれたが、宗二にはかなり広く感じた。

宗二が暮らしていた町は人口が少ないといわれていたが、家は所狭しと建てられており窮屈に感じることがあった。

だが、この町の建物はまばらで通り道が広い。

平屋建てばかりで空が広い。

今まで森の中を移動していたこともそう感じる要因の一つだった。


「さて、補給は明日として、今日は宿に泊まりますぞ」

「やったー、久しぶりにシャワー浴びれるよ」

「ようやく、こいつの面を拝まずにいられる」


三者三様に町へ到着したことを喜ぶ。

宗二は喜びを言葉にすることもできない程喜んでいた。


その日は豪華な宿に泊まり、疲れを癒した。

干し肉とは比較にならないほど美味しい食事。

熟睡を約束する心地よいベッド。

ようやく、この世界の文化に触れられたような気がした。

この世界はまだ絶望するほどではなかったことを確認できたことに喜びを覚えた。



翌日は王都へ目指す為の準備をすることになった。

かなりの長旅になるらしく、十分な物資が必要らしい。

他の町を経てゆく道とはいえ、いつ補給できなくなるか分からないらしい。

巨兵に襲われていれば、当然補給はできない。


「ソージさん! こんどはこっちの店のパン買っておきましょう!」

「さっきから食物しか買ってませんけど?」

「他の物はディーグア様とドッドに任せておけば大丈夫です」


補給するために二手に分かれることになった。

宗二とドレイッドを一緒にすることに不安を覚えたディーグアが提案したことだった。

そのため、宗二とファルラクスの二人だけだ。


「もー、ソージさんも楽しみましょうよ。道中も美味しいものを食べたいでしょ」


正直、かなり距離が近い。

物理的ではなく心情的に。

嫌な言い方だと、馴れ馴れしい。

きっと、こちらを励ます気持ちもあるのだろう。


「流石に量が多すぎるのではないですか?」


ファルラクスに連れられてパン屋へ引きずり込まれそうになる。

その時、遠くが騒がしくなってきたのに気付く。


「ファルラクスさん、ちょっと辺りが騒がしいですよ」

「ファルでいいですよ」

「え? 何を言っているんですか? ファルラクスさ……」

「ファル」

「えっと、ファルさ……ファル、何か騒がしいようですけど?」


ファルと呼ばれたのが嬉しかったのか、少し笑って見せてくれた。

すぐにその笑顔は消えてしまう。


「騒がしいのは、巨兵が見つかったからです」


ファルラスク改め、ファルは真剣な面持ちで確信を持ってそう言った。

宗二にはまだ喧騒程度にしか聞こえない。

だが、ファルにはそれが聞き取れているようだ。


「買い物は中止ですね。ディーグア様と合流しましょう」


この町に巨兵が来る。

つまりは、宗二の力が必要になるということだった。

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