第三十二話 進化
太陽を思わせる白く輝く全身鎧を身にまとった騎士、特徴は少し大きめの小手。頭部の兜は格子状の隙間から2つの瞳が覗いている。武器を持たない防御を得意とする守護機装 アディバイス。
一方は、一切の光を許さない宇宙を連想させる黒いローブを纏い、自身と同等のデスサイズを手に持つ死神。足はなく宙に浮いている。その頭部は大きな1つの瞳のみ。頭部を刈り取る攻撃を仕掛ける守護霊迅 ザインズ・サイレス。
2体のルーク型の前に白と黒の守護者が立ちはだかる。
「ファーテチカ、相手のミサイルには気をつけて! 避けるのは難しいよ」
「大丈夫よ。これくらいの巨兵なら、遊んであげるわ」
先行して巨兵へ向かっていくザインズ・サイレスは大鎌を振るうわけでなく、別の手を前方にかざす。それは、まるで死に誘っているようだった。
「巨兵達、わたしと一緒に遊びましょう」
だが、何も起こらなかった。
平然と巨兵はザインズ・サイレスに狙いを付けてミサイルを一斉発射した。
「危ない!」
すかさずアディバイスは両者の間にもぐりこみ、バリアによって破壊を防ぐが、とっさのことであったため、その衝撃に少し体勢を崩す。
「ファーテチカ、大丈夫? 何が起こったんだ?」
彼女がとった行動の理由が分からない宗二はザインズ・サイレスへ迫るミサイル全てを迎撃する。
「分からないの。巨兵がわたしの言うことを聞かないの! こんなこと初めてだわ」
守護霊迅には巨兵を自由に操れる特殊な機能が搭載されている。前に会ったときは巨兵を操ってアディバイスを襲ったこともあった。
今はその機能が役になっていない。
(そうか、以前会ったときの巨兵はルーク型じゃなかった。こいつを操ることは出来ないんだ)
「ファーテチカ、武器で戦うんだ。このミサイルを持った巨兵は操れないみたいだ」
「うん、分かったわ」
宗二の言葉を信じてファーテチカは操ることを止めて大鎌を構える。
依然として巨兵からのミサイル攻撃は止む事がない。ルーク型の強さはミサイルは勿論この手数の多さにもあった。しかも今回は2体いるため、前回のような戦法を取ることは出来ない。
ここはファーテチカの攻撃力をあてにするほかはない。
「攻撃を頼む、ファーテチカ!」
「ええ、任せて」
アディバイスのバリアから飛び出したザインズ・サイレスは巨兵の頭部を刈り取ろうと大鎌を振るう。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
だが、その動きを捉えられて放たれるミサイルの直撃を受け、激しいショックと共に吹き飛ばされてしまう。
「ごめん、ファーテチカ」
アディバイスはザインズ・サイレスの前に立ち、バリアを張りミサイルから身を護る。怒涛の連射を防ぎながらザインズ・サイレスが起き上がるのを待つ。
「いいかい、ファーテチカ。これから、僕が巨兵との距離を詰める。合図をしたらさっきみたいに首を狙ってください」
「え、ええ。わかったわ。お兄ちゃん。やってみる」
ザインズ・サイレスは再び鎌を構え、首を狩れる瞬間を心待ちにする。アディバイスはそれを護り、バリアを張ったまま前進する。
後ろにザインズ・サイレスがいるため、前回のようにスラスターを使うことが出来ない。足に力を入れ、大地を踏みしめ一歩ずつ前進していく。
幸いなことに、ルーク型の動きは単調で目の前にあるものに向けてミサイルを撃つことしかしない。巨兵全てに言えるが、戦術的な行動は一切しない。ただ壊すのみである。
「いまだ! 攻撃だ!」
上方へ狙いが付けられないほど接近してから、宗二はファーテチカへ指示を出す。巨兵程度ならこの戦法で上手くいくはずである。
「任せて! 悪い巨兵は要らないわ!」
アディバイスのバリアから突然現れるようにしてザインズ・サイレスが姿を見せると巨兵の頭部一瞬で狩り取った。先程より近距離のため、今度は打ち落とされることはない。
首を狩られた巨兵はミサイルを討ちながら地面へ激突すると自身を破壊しながら機能を停止する。
「やったわ! 次はあれね」
首を狩り取った後のザインズ・サイレスは隙だらけのため、すかさずアディバイスが巨兵との間に立ちはだかってバリアで護る。
ザインズ・サイレスは1対1を想定されていたようだった。そのための巨兵を操る機能だったかもしれない。
「最後は速攻だ!」
アディバイスは両肩甲骨のスラスターからエネルギーを噴射すると、もう1体の巨兵へ迫っていく。相手が1体なら恐れることは何もない。
バリアを展開したまま、巨兵へ体当たりを繰り出すと、ファーテチカに対して合図をする。
「これで、終わりだわ!」
アディバイスのバリアの横から現れたザインズ・サイレスは一直線に切り裂き、巨兵の体を真っ二つにした。それでも機能停止までミサイルを撃ち続けた。
「これで終わったかな」
辺り一帯は焼け野原となっており、山岳地帯とはいえ酷く破壊されていた。これが市街地であったらと思うと取り返しがつかないのだろと宗二は気を引き締める。
「お兄ちゃん、これで終わり? ドッドと黒髪呼んで帰りましょう」
戦いが終わり、気が緩んでしまった瞬間、何かがキラリと瞬いた。その一瞬で鎌を握っていたザインズ・サイレスの右腕が消え去っていた。
「え? 何? 痛い、痛い痛い痛痛いぃぃぃぃぃぃ!」
右手を失ったザインズ・サイレスは黒い光に包まれると、消滅してしまった。
宗二も何が起こったのか理解できなかったが、黒い光の下にファーテチカの姿が確認できた。
痛みで守護霊迅を維持出来なくなったのだろう。宗二にもその経験がある。
「一体、何が起こった?」
あたりを見回すと、地面が抉れ焼け焦げていた。ただ焼けていたではない。その表面はガラス化現象を起こしていた。ただの攻撃ではない事が一瞬で理解できた。
(一瞬光ったような気がしたから、レーザーか? いや違う、レーザーではこんなに地面が抉れない。そもそも、光ったと感じた瞬間に僕は焼けてしまっているはずだ)
宗二は他に想像できる限りの兵器を思い浮かべる。その中でこのえげつない攻撃について1つの答えにたどり着いた。
(これは間違いない、ビームだ。しかも、とんでもなく高出力の!)
攻撃の跡はずっと先へ向かっていた。この先にビームで攻撃してきた何かがあるはずだ。
宗二はその威力を恐ろしく感じ、攻撃された方を睨みつけた。
「ファル! ドッド! ファーテチカを頼む!」
アディバイスは攻撃が来た方に身構え、3人を護るように立ちはだかった。




