第二十話 奮闘
眩い光の中からアディバイスのコックピットに宗二が出現する。
いつものようにレバーを握り、ペダルを踏む。
思い通りに動くことを確認した宗二はペダルを強く踏み込んだ。
アディバイスは巨兵へと走り向かっていく。
目の前の巨兵はいつもと違い、武装していた。
両肩に4連装ミサイルポッド、両腕に2連ミサイル、両足の脛には3連装ミサイル、宗二が確認できただけでもこれだけの武器を身につけていた。
今までとは明らかに異なっていた。
物を壊すという意味ではその威力は遥かに向上しており、その爆風は人をいともたやすく吹き飛ばす。
(なんだよ、この巨兵は! 本当に戦闘ロボットじゃないか!)
宗二は漫画やアニメでロボットバトル物を見たことがある。
目の前の巨兵のように重火器を身につけており、戦争したり悪の怪獣と戦ったりするそれと同じだ。
素手や剣のようなものではない、近代的な武装だ。
無闇矢鱈にミサイルをアディバイスに向けて撃ってくる。
直撃すればアディバイスも無事では済まないので、バリアシールドで身を守るが、その威力はあまりにも激しい。
バリアを張っているはずの腕に衝撃が走る。
このまま維持することも辛いが、バリアを解除するわけにも行かなかった。
まだ避難していない人がいるかもしれない。
その考えが宗二とアディバイスを釘付けにする。
(どれだけ耐えればいい? こちらに反撃の手はない。誰かが戻るまで待つ? それこそ無理だ。もっと考えろ、何かあるはずだこの逆境を覆す一手を)
巨兵のミサイルが尽きるのを待つわけにはいかないようで、見た目はただのミサイルポッドだが弾が尽きるように見えない。
明らかにあの弾装以上のミサイルが搭載されている。
限界があるのかもしれない、もしかしたら無限に撃ち続けられるのかも知れない。
「バリアシールド全開! もっと広く守れ!」
巨兵の攻撃が変わってきた。
いつまでも攻撃に耐えるアディバイスではなく、足元にある建物を爆撃し始める。
巨兵の真意は分からないが、何かを壊すことを主眼に置いているのかもしれない。
宗二は目の前にいる巨兵を睨みつけ、歯を食いしばった。
このままこの巨兵に攻撃させるわけには行かない。最低でもこの場所から遠ざけたい。できれば城壁の外まで連れ出したい。
やることが決まったら後は実行するだけだった。
(バリアを張ったまま押し出せばいい、簡単なことだ)
アディバイスは一歩ずつ歩を進める。
一歩進む毎に当たるミサイルの数が増え、衝撃で腕が震えた。
それでも、ディバイスは巨兵へ近づいていく。
(もう少しだ。もう少しで巨兵に届く)
だが、巨兵には届かなかった。
拳を叩きつけてゼロ距離でミサイルを発射してくる。殴る衝撃と加速したミサイルによって少しずつ足元が後退していく。地面に足が付いている以上、摩擦が耐え切れないのだ。
「アディバイス! フルパワーだ!」
両腕に思い切り力を込めると同時に、エネルギーの伝達経路が分かる。
胸にあるジェネレータから動力が全身に伝わっており、腕にエネルギーが集中している。
だが、腕のバリア発生機構のエネルギー変換が間に合っていない。
アディバイスの内部ではエネルギーが溜まる一方でそのはけ口が全くなかった。
このままでは爆発するかと思うほどのエネルギーだ。
(無理なのか? 今は敵わないのか?)
宗二が諦めかけたその時、付加に耐え切れなくなった装甲が吹き飛んだ。
装甲が吹き飛んだのは両肩甲骨。
ミサイルからの衝撃を受け続けた腕から肩、肩甲骨へと伝わり、そこにダメージが蓄積していた。
だが、それがよかった。
装甲が吹き飛んだアディバイスの肩甲骨から溜まっていたエネルギーが激しく流出し始めた。
それはまるでスラスターかのように推力が発生しアディバイスを前方へ押し出していく。
(このスラスターがあれば、押し出せる! このままエネルギーを全力にするんだ)
アディバイスは低空飛行をするように巨兵へぶつかると、そのまま前方へと押し出していく。
巨兵の足が少し浮いたのがよかったのだろう。
そのまま推力の限り巨兵を押していくと、破壊された城壁を抜けて王都から脱出することができた。
何処までも押し進もうと考えていたが、徐々に推力が弱まっていく。
体内に蓄積されたエネルギーの殆どが流出してしまったのだ。
(でも、ここまでくれば後は周りを気にしなくていい! ここから殴りつければいずれは……)
宗二の考えは甘かった。
もう、バリアを解除することができなかったのだ。
巨兵のゼロ距離ミサイルは今でもアディバイスのバリアに阻まれ前に進むことができない。
今バリアを解こうものなら、ミサイルでバラバラになるしかない。
(攻撃だ。このバリアを張りつつ、攻撃できる方法はないのか? バリアを張る……?)
宗二の頭に1つ閃いた。
それは、昔読んだ漫画の必殺技。
両手のエネルギーを真ん中で干渉させることで、相手を粉々にするという恐ろしい技だ。
アディバイスはバリアを張ったまま、巨兵へしがみつく。
今のままではバリアが弱くて、とてもそんな事はできない。
(バリアを小さく、強くすればいい。バリアの間にあるもの全てを砕けばいい!)
バリアの出力を上げつつ、その範囲を狭めていく。
防ぐものがなくなったミサイルが爆発し、体がバラバラになりそうな衝撃を受けても宗二はやらなくてはいけなかった。
「バリアシールド、全壊!」
強力なバリアの出力によって、右から出るバリア、左から出るバリア、その中間の巨兵が耐えられなくなり、体がひしゃげて来た。
(もっと! もっと! もっとだ!)
エネルギーを溜め過ぎ、背中から推力が出始めても止めない。むしろ、推力が発生したことにより巨兵へ密着できる。
そのうち、巨兵の体はねじ切れ上半身と下半身がバラバラに引き裂かれた。
気が抜けたのか、宗二はアディバイスの操縦ができなくなり、推力に押されて顔面から地上へ叩きつけられた。
少しして推力は収まったものの、もう立ち上がることはできず、ディバイスは勝手に光へと消えていった。
気付けば宗二は地面に倒れていた。
ふらふらと立ち上がり周りを見渡すと、バラバラになった巨兵を確認できた。
安堵しつつも宗二は王都へ向かっていく。
(戻らないと……ここに留まると危険だ……)
巨兵との戦闘があった後なのか、周りにゲッシュトラッシュはいなかった。
これを幸いと宗二は王都へと逃げ延びた。
歩みを進め、公園へと戻ってくる。
巨兵が倒れたせいか、兵士が狩り尽くしたのか、獣の姿はなかった。
ディーグアに出会わないことを不思議に思いながら、城への道を登っていく。
そこにディーグアが座り込んでいた。
あのディーグアがこんなとこで座り込んでいるのはおかしいと気付いた宗二は駆け寄った。
そこで、宗二は絶望した。
ディーグアがもたれる壁には大量の血液、頷いたままの顔、開きっぱなしの瞳、無くなった背中。
そのどれもが、ディーグアの死を示していた。
それを見る宗二の目玉が揺れる。目に入る情報を遮ろうとするが、それを体が許さない。
宗二の思いと体は別れ、体が思うように動かない。
(嘘だ……こんなの嘘だ……嘘ですよね? いつもみたいに帰りを待っていてくださいよ……)
宗二は今でも待っている『巨兵は倒したようですな』そんないつもの言葉を。
だが、いつまで経ってもその声は届くはずも無く、沈黙したままだった。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
宗二は頭を抱えたま慟哭する。
(自分のせいだ! あの時、僕が転ばなければ! 僕がっ! 僕がっ! 僕がっ!)
その叫び声は辺りに響くばかりで、止めるべき人はもういなかった。




