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第十九話 脅威

 国王の王都対巨兵対策本拠地宣言から数日たった。

 それからは目まぐるしいほどの忙しさで、索敵する兵士の数を増やし、発見したらイジンの派遣。

 4人しかいないイジンは常に引っ張りだこで、王都にいることは殆どない。

 例外として、宗二だけはそうではなかった。 逆に暇を持て余していた。


「ディーグアさん、僕は今日も待機なんですか?」

「ソージ殿の守護機装は王都最後の砦、ここで王都を防衛する任務がありますゆえ、暫くは辛抱が必要ですな。ソージ殿が忙しいという時はもう手遅れになっていることでしょうな」


 宗二の守護機装はその特性ゆえ王都防衛を任命されており、王都を離れることを禁じられている。

 いざという時に王都を守るものが不在という事態は絶対に避けねばならぬ案件であった。

 宗二は実質軟禁状態であり、特にやることもなく部屋で時間をつぶすことしか許されていない。

 それは、街へ行くことも同様である。


「街へ行きたいのですな?」

「……はい。ファルとドッドが気になっています。まだ街にいるかどうか分からないですけど、会いたいんです」


 この言葉にディーグアは瞳を閉じ、眉間に皺を寄せている。

 その様子から、無理なのだと宗二は悟った。


「ごめんなさい。ディーグアさんが決められることではないですよね」

「いえ、私はソージ殿の護衛、願いを聞き届けるのは、私の役目でしてな。それを叶えるのもその一環でありましょう」


 ディーグアはそう言うと歩き出した。その方向は玉座の間、直談判でもしようというのだろうか。

 彼が去ろうとする直後、城が揺れた。

 たいした揺れではないが、地響きのような音が聞こえる。それは、ただの地震ではないことを物語っていた。


「これは何事でしょうかな? まるで巨兵がなにか……」


 宗二とディーグアは何かに気付き、近くの窓から街を見る。正確には街ではない、それを圧倒的な高さをもって覆い囲う高き城壁であった。


「ソージ殿! 城壁から黒煙があがっておりますぞ! しかも、あの巨大な人影は……巨兵!」


 宗二の視力はさほど高くないため、まだ視認できないが、ディーグアははっきりとその影を捉えていた。

 だが、ディーグアが捉えていたのはそれだけではなかった。巨兵の近くでは何かが爆発していた。

 その正体が何なのかまるで分からなかったが、黒煙が濃くなっていくのは間違いない。


「ディーグアさん! 本当なんですか?」

「間違いありませぬ。先ずは城を抜けますぞ!」

「はい、急ぎましょう!」


 無駄に広い場内を駆け巡り、幾多の階段を駆け下りた先、城門へ到達する。

 城の出入り口には2人の兵士がおり、扉を塞ぐように槍を交差させていた。


「ディーグア様、城へお戻りください」

「だけど、巨兵はやってきているんですよ」


 ディーグアはあることに気付いたのか、何かを歯を食いしばって耐えていた。


「ソージ殿、我々は少々気が動転していたようですな。兵士の言うとおり城に戻りましょうぞ。無策で戦うには分が悪いでしょうな」


 宗二はディーグアの言葉にハッとして、口を閉ざした。

 そして、2人で場内へと引き返した。


 2人は会議室に通されていた。

 そこには大臣であり、キシリエを召喚したドゥメジティがテーブルの上座に着いていた。

 宗二とディーグアはテーブルを囲み、話を待つ。


「よく来てくださいました。兵士へ命令を徹させていたのが、功をなしたのでしょう」


 2人はその手際のよさに舌を巻いた。


「報告では進入してきた巨兵は1体。何処からやってきたかは不明。証言によると、突然現れたととのこと。それに、この巨兵は素手でも、剣でもない、謎の爆発を仕掛けている。一瞬で家を吹き飛ばす威力だ」


 この王都は混乱の極みにいたことが容易に想像できた。

 ドゥメジティがもたらした情報は今までとは異なる。特に家を破壊したという武器だろう。

 宗二は嫌な予感を覚えつつ、彼の話に耳を傾けた。


「巨兵が城壁を破壊して、入ってきたため、王都には多数のゲッシュトラッシュが入り込んでいる。早急に対処しなければ、国民の多くが犠牲になる。それに、巨兵の放つ爆発は人間も吹き飛ばす。今までに獣だけにかまっているわけにはいかない」


 今まで聞いた中で最悪の状況だった。


(一体、何が起きたんだ? でも、巨兵から街を守るのが、僕のやるべきこと。何があっても使命を全うさせて見せる!)


 何も聞かずに巨兵と戦っていたら、被害が拡大していたかもしれない。でも、対処が遅れたことで、救える命を救えなくなった可能性もある。


「ヤマモト ソージ殿は守護機装により、巨兵を討ち取ってください。ディーグア殿は彼の護衛と、獣を駆除をお願いします。兵が国民の保護を行いますので、そこはご安心ください」


 宗二とディーグアはお互いに頷きあう。

 やることは決まった。


「王に代わって宣言する! これより王都防衛作戦を実施する!」


 ドゥメジティの宣言により、2人はすぐに動き出した。少しでも早く、街へ赴かなくてはならない。

 城の入り口まで走ると、今度は止める兵士の姿はない。

 そのまま、城の外へと飛び出していった。


「ソージ殿! このまま道を真っ直ぐに走りますぞ! ここで守護機装を呼び出しては、他に被害が出ますゆえ」

「どうしたらいいんでしょうか?」

「この先には広い公園があります。そこで呼んでくだされ!」


 初めて王都を訪れたときに城へ向かう道の途中、広い公園があった。

 そこなら、巨兵と対峙するにはちょうどいい場所であった。守護機装を呼び出したとして、大きな被害は出ないはずだ。



 2人が公園へ繋がる道を辿っていると、怯え逃げ惑う人々に遭遇する。

 獣だ。ゲッシュトラッシュが住民を襲っている。

 鋭い爪、牙を使って人を襲ってその場で捕食していた。

 こんなところまでやってきて被害を与えていることに、宗二は戦慄した。


「ディーグアさん!」

「分かっております! ソージ殿はそのまま公園へ向かってくだされ!」


 獣を一瞬で切り裂くディーグアは数秒で殆どで目に付くものはいなくなった。

 それでも、次から次へと獣が溢れてくる。


(群れを作るって聞いてたけど、こんなにいっぱいになるのか? 前はこんなに居なかったのに!)


 宗二は足がもつれながらも一生懸命走った。

 そのスピードは遅い。この世界の一般人であるマーパロンよりも遅い。


(早くだ、もっと早く走らないと!)


 宗二はとにかく前へ行くことばかりを気にして、足を動かす。

 だが、それが仇となった。

 足元が不安定になり、よろつき、足が思うように進まない。

 焦りが焦りを呼び、宗二は前へ、前へ進むことしか考えられなかった。


(あれ? 何が?)


 気が付けば、足は宙を蹴っており、思ったように勧めなかった。それもそのはず、宗二は転んでいた。

 激しい痛みが全身に伝わる。不意のことと、前のめりだったこともあり、顔から地面へ激突していた。

 何が起こったのか宗二には理解できなかった。

 自分が転んだと気付くには、道路の出っ張りに気付いた後だった。


 そんな無防備な宗二を獣が逃すはずがない。

 獲物を求める獣は鋭い爪を立てて宗二へ襲い掛かってくる。

 かろうじて、獣の姿を確認できたが、身動きが取れない。


「ソージ殿! お待ちくだされ!」


 ディーグアの影が通り過ぎたかと思うと、獣は真っ二つになっていた。

 その剣の腕、まさしく剣聖、最強の人類。


「立ち上げれますかな?」

「これぐらい大丈夫です!」


 差し伸べられた手を握り、宗二は立ち上げることができた。

 宗二が立ち上がると同時にディーグアの顔がゆがむ。


「くっ!」

「ディーグアさん? まだ獣が居るようですな。 先へ行ってまいれ!」


 宗二はディーグアが気になったが、このまま進むことを選んだ。


(ディーグアさんなら大丈夫だ。あの人は剣聖なんだから)


 全力で公園へと走ると、すぐに噴水が見えた。

 宗二が思っていたより、近くに公園があった。

 中央にある噴水に到着して呼吸を整えながら、白いカードを取り出した。


「来いよ! アディバイス!」


 いつものとは違う言葉であったが、守護機装はそれに答えた。

 宗二の姿は光の中へ消えていった。




―――

 視線の先で光の柱が出現し、その中には白い騎士が立っていた。

 ディーグアはその騎士を見て安堵し息を吐いた。


「どうやら、間に合ったようですな」


 自分が送り届けた人はこれから役割を果たそうとしている。

 護衛が成功したという何よりもの証拠であった。

 ディーグアはもう一度大きな息を吐く。


(ソージ殿は立派になられた。やはり、自分の目に狂いはなかった……彼ならこの先大丈夫だろう)


 ディーグアは目を閉じ呼吸を整えていく。

 壁に背を預けているが、立っているのが辛くなり、その場で座り込んでしまった。

 その壁にはべっとりと赤い血が塗られていた。


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