第十四話 王都
長い旅路の末、王都ディフェティットに到着する。
以前巨兵と戦ってからたった1日。
ディーグア達のスピードならこの程度の道程であった。
「王都が見えてきましたな。これでひとまずは任務を果たせたということですな」
王都が見えるといわれたが、宗二の視力では視認できない。
困った顔に気が付いたディーグアは王都へ近づいていった。
すると、巨大な壁が現れた。
「あれが王都なんですか?」
「国王が巨兵対策に作った壁だよ。その中はとっても賑やかな都会なの」
ファルが言う巨兵用の壁。こんな高い壁を作るのは一朝一夕では無理だろう。
ずっと前から巨兵がいたのだろうか。
城門まで行くと、宗二が壁を見上げてもその果てが見えない。
今は開門しているらしく、馬車や商人が数多く往来していた。
城門の中は確かに都会だった。
石造りとはいえ、高い建物が目に付く。
城へと続く道には露店が並び、活気がある。
その先になる広場はとても広く、噴水がある。
今までの町とは一線を画していた。
公園からさらに進むと、尖塔が特徴的な圧倒的存在感を誇る城があった。
その門には鉄の鎧を纏い、手に槍をもった兵士が2人守っている。
「この兵士等は一般人ですな。訓練を受ければ屈強な兵士となりましょう」
人口が多いので自然とマーパロンが一般兵になるのだろう。
「私はディーグア・メルバ。イジン様をお連れした。王へのお目通し願えるだろうか」
「ディーグア様! 今確認いたします」
兵士は慌てて城内へ消えていった。
残った兵士は宗二達を城内へ招きいれた。
その後は城のメイドが客室へ案内してくれた。
客室で少し寛ぐと、軍帽を被り鋭い視線を向ける人物が現れた。
「私は大臣のドゥメジティ・グレストといいます。ディーグア様、イジン様、ようこそいらっしゃいました」
礼儀正しくお辞儀をしたドゥメジティは早速一行を玉座へと案内した。
玉座の間。
そこは本当にゲームとかによくあるファンタジーの玉座がある部屋だった。
部屋は広く天井が高い。
玉座へと至る道は赤い絨毯が引かれ、その道は豪華の一言。
最奥にある玉座はどっしりと構えており、そこに座る国王は赤いマントと黄金の王冠と杖を身に着けていた。
その顔は深く皺が刻まれおり、年齢の高さを思わせる。
その傍らに先ほどの大臣ともう一人全身鎧を纏った金髪の青年がいた。
「イジン、ソージ殿。そして、ディーグアよ。良くぞ参った」
その声は威厳に満ち、声を聞くだけで平伏してしまいそうな威厳があった。
傅いていた宗二達は面を上げる。
「ディーグアよ、ここまでの護衛、誠に大儀であった。積もる話もあるが、今はイジン殿へ伝えたいことがある。また次の機会としよう」
「ははっ。ありがたき幸せ」
ディーグアは会釈をして短く返事をする。
「私はディフェト7世という。7世と呼ばれることは不服である為、国王と呼んで欲しい」
国王は自分の名前を語らなかった。
何か不都合でもあるのだろうか。
「イジン殿には伝えておくことがある。イジンの旅人と巨兵、そして守護者について」
そして、王は語りだす。
ことの発端とその過程を。
話はある旅人が王都へ現れたことから始まる。
―――
約30年前、7世が国王に就任したばかりのこと。
7世にとある旅芸人の話が耳に入った。
何でもとても凄い芸をしたらしく、詳細を聞くと何もないところから巨人を出して見せたというのだ。
その芸いや、魔法ともいえることをした旅芸人に興味が湧き城へ招いた。
「国王様、お目通りいただき誠に光栄でございます」
決まり文句の言葉に飽き飽きしていた7世は早速芸を披露させた。
その芸は7世の予想を大きく超えていた。
一瞬で火を起こし、簡単に物を凍らせ、稲妻さえも呼んで見せた。
自分の腕を切って見せて、瞬時に治療してしまった。
変哲もない石を黄金へ変えて見せた。
これは芸でも魔法でもない。奇跡だった。
7世は大変満足し、褒美を取らせるよう命じた。
「私に褒美はもったいなきこと。実は国王へお伝えしたいことがございます」
旅芸人は言葉を慎重に選び口にしていった。
「私はこの世界の人間ではございません。イジンといい、異世界から来た来訪者にございます」
奇天烈な言葉に国王は酷く機嫌を悪くした。
「恐れ多くもこの世界に鋼鉄の巨人が現れると予期しました。それは世界を滅ぼす尖兵となるでしょう」
馬鹿馬鹿しくて話を打ち切ろうとした瞬間、旅芸人は巨大な鋼鉄の人を呼び出して見せた。
こんな存在がこの世界にあることに驚愕する。
こんなもの、どうやって作ったのか、対処法もまりで分からない。
「こちら、守護者といい巨人に対する力にございます」
国王は信じるしかなかった。
目の前のそれは張りぼてではない。
圧倒的な存在感を誇り、動き出せば止める手段などない。
「貴様はこの巨人をくれるというのか? そこまでしないと対抗できないと申すのか?」
「御意にございます」
7世は賢明な王であった。
イジンと名乗る旅人から、できるだけ多くの情報を聞き出すことに専念した。
「敵の巨人はいつ現れるか分かりません。ですが、その対抗策が必要です。まず、この巨人を遮るほどの大きな壁を作ってください。時間稼ぎ程度にはなりましょう」
この巨人を超える壁を作れと言う。
なんと無謀なことだろうか。一体、どれだけの資源を要すると思うのか。
「次にこの『カード』を差し上げます。これを使用すれば、ここにある巨人を呼び出せます。ただし、それは異世界の人間でなくてはなりません。同時に異世界の戦士を呼ぶ儀式も差し上げたく存じます」
巨大な壁は無理としても、この巨人をもらえるのなら、貰っておくに越したことはない。
7世はこの条件を飲んだ。
「ありがたき幸せ。この『カード』と『儀式』はこれから町を巡り授けていきます」
それに関しては不服であったが、このチャンスを逃す手はない。
「もし、巨人があわられたら、数を集めてください。それがこの世界を救う唯一の手段でございます」
何故、ここに集中させないか理由は理解できないが、戦力を集めることは好条件である。
断る理由がなくなった。
7世はイジンと名乗る旅人へ町をめぐる権利を与た。
そして、イジンから『カード』をと『儀式』を授かった。
7世はイジンとの約束を果たすために巨大な壁の建築を始めた。
その工程は過酷であり、資源の消費も激しかった。
王都を囲むことで断念せざるを得なかった。
巨人の脅威が無い現状に、そこまで国力に投資することが出来なかった。
それでも、都市へ壁を高くすることを推奨した。
そして、時は流れイジンの言った巨人が現れること無かった。
いずれ、人はその存在を忘れ、7世も約束を忘れていった。
『カード』と『儀式』はその意味を失い、神殿に祭られるだけであった。
だが、3ヶ月前、突然7世に早馬から伝達が届いた。
最南端の町が巨人によって滅ぼされたと。
混乱する兵士は
「巨大な兵士が町を破壊していた。あんな化け物見たことが無い」
そう、報告する。
その見た目から、巨人には巨兵という名称で呼ぶことになった。
聡い7世はすぐにイジンの旅人を思い出す。
素早く異世界人の召喚と守護者の使用を各都市へ伝令した。
だが、信じるものは少なかった。
特に王都へ集めることが原因で召喚を渋っていた。
後手に回ることになった7世は異世界人、イジンを召喚する儀式を行った。
召喚に応じたイジンは守護者を操ることが出来た。
イジンを南方へ派遣し、巨兵討伐を命じた。
結果は素晴らしいものだった。
これで巨兵は倒せると7世は確信した。
だが、甘かった。
巨兵は複数おり、1つの守護者では対処できない。
イジンの召集は急務であり必要なことだと働いた。
―――
そして、その召集に応じたのが、イジン、山本宗二であった。
守護者と巨兵との関係はおぼろげに理解できた。
結局、イジンという旅人も巨兵も何者かはわからず仕舞いだった。
それは、きっと国王も同じなのだろう。
「話は以上だ。イジン殿はこれから王都の管轄に入っていただく」
その言葉を承諾しようとすると、王の隣に立っていた全身鎧を身に着けていた青年が言葉を出す。
「国王、私の自己紹介をしてもよろしいですか?」
「すまぬ。忘れておった。こちらが我が王都のイジンであり、守護誓祈の乗り手であるキシリエだ」
国王の言葉に、キシリエは一足前に出てお辞儀をした。
「私が紹介に預かったイジン、キシリエ・ブラエバソンだ。ソージくん、よろしく頼む」
長く綺麗な金髪をした端整な顔つきの騎士がそう言った