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第十三話 勝利

 宗二は再び巨兵と対峙していた。

 夜は深け、明かりは燃える建物だけ。

 下から照らされる姿は不気味に映えていた。


 深く息を吐き、高ぶる気持ちを宥めていく。

 アディバイスのコックピットで痛む腕をこらえながらレバーを握る。

 少し動かしてみたが、思い通りに動く。

 むしろ自分の体以上に動いているように感じる。

 アディバイス自身に問題は見受けられない。


(やるべきことは3つ、攻撃を受け流す、そして武器を奪う、最後に巨兵を討つ)


 すぐにバリアを張れるか少し試してみる。

 慣れてきたのか、イメージ通りにバリアを発生させられた。

 これなら、問題ないはずだ。


 アディバイスを敵と認識したのか、巨兵がゆっくりとこちらへ向かってくる。

 こちらも巨兵相手に構えを取る。

 武道なんて分からないが、動きやすそうな格好をした。


(さあ来い。攻撃して来い)


 今度は守るべき人もいない。

 何も気にせず相手が出来る。


 緩慢な動きの巨兵が獲物を振りかざした状態で迫ってくる。

 ここまで単純なら、真下に振り落としてくることが容易に予測できる。

 今までそう見えなかったのが嘘のようだ。


 迫る刃に対して右手でバリアを張る。

 受け止めるのではなく、受け流す。

 少しバリアを斜めに構える。


 バリアと剣が接触すると、ドリルの掘削音が激しく響く。

 受け流された剣はアディバイスに触れることなく、地面へ突き刺さった。

 巨兵の手が伸びきってる。

 剣を叩き落とすなら今しかない。


 前の戦いで受けた痛みで、左腕はまともに動かない。

 先ほどバリアを張った右腕でやるしかない。

 振り上げた右手を振り下ろすが右手も痛くないわけではない。


(駄目だ、力が入らない! 早く武器を奪わないと!)


 結局、巨兵はこちらの攻撃をものともせずに再び剣を振り上げる。

 もう一回やるしかない。

 巨兵の動きを観察し予測する。


(次は左斜め上! まずい!)


 左腕を上げることは出来ない。

 右手で防ぐことも難しい。

 宗二が避ける事を選ぶ直前、巨兵を何かが駆け上っていく。


「ソージ殿! 今行きますぞ!」


 ディーグアは巨兵の体を足場にしてどんどん登っていく。

 頭頂部まで来ると鞘に収まったままの剣でぶん殴った。

 自分よりはるかに巨大なロボットに向けて攻撃が出来るとはとんでもない胆力だ。


「くっ! 私の攻撃はここまでのようですなっ!」


 ディーグアの攻撃で巨兵の頭部が少し揺れた。

 大きさを見ればその威力がとんでもない力だ。

 その攻撃で巨兵の動きが少し止まる。


「ありがとうございます! ディーグアさん!」


 動きが止まった隙に剣を弾こうと画策する。

 受け流した後にまともに攻撃できないのであれば、その前にバリアで殴って弾けばいい。

 バリアを展開した右手で剣を殴りつける。


 宗二の読み通り、剣は弾かれ地面へ突き刺さる。

 だが、剣は巨兵に近い。

 このままでは折角弾いた武器を奪われてしまう。


「ソージさん! まだ諦めないで!」


 武器へ伸ばされた巨兵の腕をファルが蹴飛ばした。

 殆ど意味はなかったが、その一瞬が宗二に希望をもたらした。

 飛び込むように剣を拾い上げると剣の切っ先を巨兵に向ける。


 チェーンソーが唸る音が続いている。

 こちらの手にあっても剣についた無数の刃は動いたままだ。

 チェーンソーとしての機能はまだ生きている。


「今度はこっちの番だ! くらえよぉー!」


 右手に持った剣をおもいっきり振り回すと、巨兵の手に当たる。

 少し反動を感じる際に、腕から火花が散った。

 その後、巨兵の手はあっさりと引き裂かれ、弾け飛んだ。


(こんなに威力が高かったのか。アディバイスでなければ即死だったかもしれない)


 振った反動を利用して相手の左肩を切り裂く。

 激しい火花が飛び散り、少しずつ刃が巨兵の体へめり込む。

 右手に力をこめると、腕が痛み呼吸が荒くなっていく。体力もかなり奪われているようだ。

 やはり、切断は難しい。

 それに、ダメージが思ったより少ない。

 痛みがないということは無闇に斬っても意味が薄い。


(頭部だ! いつもあそこを潰していた!)


 次こそはと、巨兵の首を目掛けて剣を振りぬく。


「これで、終いだぁっ!」


 少しの反動の後、巨兵の頭ははるか遠方へ吹き飛んでいった。

 それと同じくして、巨兵の動きは止まり大地へ崩れ落ちた。


(やったのか? 倒したのか?)


 確認するかのように、倒れた巨兵へ剣を突き刺す。

 激しい切断音がおさまり、チェーンソーの刃も動きを止めた。

 完全に事切れたらしい。


 宗二は倒れそうになり、片膝を付くと一呼吸する。

 光に消えるアディバイスから宗二が落ちてきた。

 だが、それは宗二でも着地できる程度の高さで、何とか転ばずに地面へたどり着いた。


「初めて自分の足で着地できたよ」


 宗二を受け止めようとしたのか、寄ってきたファルに向かってそう微笑みかける。

 ファルも嬉しかったのか晴れやかに笑顔を返してくれた。


「やったね、ソージさん!」

「やりましたな、完全勝利ですぞ」


 ディーグアも笑顔でやってくる。

 この2人の非常識ぶりには驚かされたが、助けられもした。

 そんな中、ゆっくりとドッドが合流した。


「これぐらいやって当然だろ。そのためにここまで連れて来たんだ」


 ドッドはわざとそんな風に言う。

 素直ではないと、宗二は思う。


 みんなが力を貸してくれたから、勝てたのだろう。

 みんなが信じる自分であれただろうか。

 彼らの顔を見れば、それが信じられる気がした。

 それを知ったら、体中から力が抜けていく。


「おっと。ソージさんはまだまだよね」


 とっさにファルが抱きかかえてくれた。


 召喚される前はこんな物語をよく読んでいた。

 どんな逆境に置かれても、みんなを守り、救ってきた主人公。

 彼らは人の心を動かし、感動と勇気を与えていた。


 こんなに無様で、1人では巨兵1体も倒せない。

 守るべき町も結局は廃墟になってしまった。

 それでも、物語の主人公になれたのだろうか。


(僕は物語に出てくる主人公達に胸を張れることを出来ただろうか)


 その答えは分からない。

 でも、3人は笑顔でいてくれる。


「やっと、勝てました」


 疲れ果てた宗二はやっとその言葉を口に出来た。

 その言葉をみんなが受け入れてくれる。


「無茶しすぎよ。一歩間違えたらやられたんじゃない」

「それにしても、やはり巨兵はとんでもないですな。私では相手になりませんでしたからな」

「その守護機装があれば、誰でも勝てたんだよ」


 そうやって、色々なことを言ってくれる。

 それだけで、ここでやってきたことは無駄ではなかった、そう思えた。


「ソージ殿、次はいよいよ王都ですな」


 忘れてはいけない。本来は王都を目指していたのだと。

 だが、王都到着は通過点でしかない。


「ここに来るときに道具は置いてきたから、あまり余裕はないな」


 この町へ急いだために、野宿の道具は山中に置きっぱなしだ。

 この廃墟となったハイフィーグでは補給ができるはずもない。

 当然、避難した人々から分けてもらうことは出来ない。


「さあ、ソージさん。私に掴まって下さい」


 宗二を抱きかかえていたファルは姿勢を直し、宗二を背負う。

 この状態にも慣れてきた。

 かなり恥ずかしいが。


「大変かもしれませぬが、暫くの辛抱をお願いしますぞ」

「お前はいつでも足手まといだな」


 3人は簡単に準備を済ませるとすぐさま歩き出す。


「では、王都へ向かいましょう!」


 一行は王都へ向かう。

 王都は目的地ではあるが、終着点ではない。

 終着点は巨兵を倒し、世界を救うこと。

 これから、本当の戦いが始まるのだ。


 きっと、世界を救う物語の主人公へなっていくのだろう。

第一部 完


13話

アニメでいえば、1クール

ジャンプ漫画でいえば、10話打ち切り


きりのいい数字ですね。


視聴数で見れば完全に点き抜けコースです。

全く面目ない。


商業的にいえば問題外ですが、今は個人でやっています。

書きたいことがあるので、とりあえず最後まで書き切るつもりです。


今はつまらないと思われていてもいいです。(この時点で駄目)

ですが、最後には「人には勧められないけど、個人的に好き」と言われる作品になれると思っています。


ここで、「俺たちの物語はこれからだ」エンドでもいいですし、「もうちょっとだけ続くんじゃ」になってもいいです。


読者様に決めていただけたら幸いです。

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